ラノベの世界に入ったので推しの負けヒロインを救い出す

お小遣い月3万

第1話 好きなラノベ

 ぼくには好きなラノベがある。

 あばずれピンク頭先生の『魔法少女ナノ』である。

 内容は怪異を退治する物語である。



 1巻目に登場する怪異は異世界と現実世界の間に建てられた古民家だった。

 そこに母親を亡くして途方にくれた2人の兄妹が迷い込んでしまう。

 古民家は一人のお爺さんが営んでいる薬屋さんだった。

 お爺さんが歩き疲れた二人を家に招く。

 そしてお爺さんは自分の役目はここでお終い、と言って古民家から出て行ってしまったのだ。

 気づいた時には二人は古民家から出ることができなかった。

 この古民家は誰かと入れ替わらなくては出れない家だった。


 異世界と繋がる小道から化け物達が薬を買いに来る。

 二人は怯えた。

 それでも二人が中庭に生えた薬草を使って薬を恐る恐る作っていく。

 こういう状態でも兄は妹を励まし、生きることを選択していく。


 彼等はお爺さんが残した紙を頼りに薬を作り、化け物から報酬を受け取った。

 そして受け取った報酬で、別の化け物から食べ物を買って生活していく。


 真新しい世界。そこには希望が無かった。

 だけど学ぶことをやめてしまったら生きることができない。

 化け物にとって薬を売らない人間には価値がない。

 化け物には誰かと入れ替わらなくては出れないという古民家のルールは適用されなかった。

 古民家は薬を作る人間が必要だった。だから古民家から出ることが出来ないのは人間だけだった。


 生きるために学びをやめない兄。

 それを見ていた妹は母の死から立ち直っていく。

 二人は閉じ込められた古民家でお母さんの死と向き合っていく。



 物語は二つの構成になっていた。

 兄妹の物語とは別に魔法少女の物語が書かれていたのだ。

 特別な能力を持ち、怪異退治をする魔法少女。

 魔法少女じゃなく、本当は霊媒師である。

 高校三年生の霊媒師。それが本作の痛いヒロインである本田ナノだった。

 だけど彼女は自分のことを魔法少女と呼び、魔法少女っぽい服装をしているのだ。

 彼女には助手がいた。

 本田ナノと同じ高校に通う同級生の男子である。この物語においての探偵役であり、語り部でもある。山本世界観という名前である。


 魔法少女のところに行方不明になってしまった子どもを探してほしい、という依頼がきた。

 探偵役の青年は二人の子どもがいなくなった場所で起きた事件の情報を集めた。

 そして数十年前に行方不明になった男の子がお爺さんになって戻って来た事件に辿り着く。

 彼はお爺さんと会い、どういう怪異なのか聞き出した。

 そして魔法少女ができる事を察し、結末を予想してしまう。

 依頼人の父親には報酬は半分でいい、と告げた。なぜなら子どもを見つける事は出来るけど1人しか連れて帰る事ができないからである。



 探偵の指示のもと魔法少女は現実と異世界の歪みを探した。

 そして二人は古民家を見つけた。

 そこで二つの物語が交差する。

 そこからは解決編になっていく。


 古民家に閉じ込められているのは実は1人だけだった。

 お爺さんと入れ替わったのは1人だけ。

 2人目は一緒にいるだけだった。 

 だから兄妹のうち、どちらかは外に出ることはできた。

 魔法少女ですら具現化された古民家を潰すことはできない。

 でも現実と異世界の歪みを閉じることはできた。

 歪みを閉じると2度とココに迷い込む人はいなくなる。

 だけど兄妹のどちらかを閉じ込めなければいけない。

 月日が経てば閉じ込められていた兄妹のどちらかは死ぬ。新しい主人を招くことができなくなった薬屋にはお客が来なくなり、忘れ去られて怪異も死ぬ。


 名探偵の山本世界観は初めから、その事に行き着いていた。

 本来の依頼は兄妹を探してほしい、というモノだった。だけど生きているのなら連れ帰ってほしいだろう。だけど1人しか連れて帰ることが出来ない。だから依頼人の父親には報酬の半分しか貰わなかった。



 名探偵の青年は解決方法を兄に伝えた。

 それから兄の苦悩が描かれ、妹を外に出すことを選択する。

 妹を古民家から出すために、お兄ちゃんは妹に嫌われる態度をとった。

 だけど妹は何かを察して、お兄ちゃんに嫌われても古民家から出ようとしなかった。

 だからお兄ちゃんは妹への嫌がらせをやめた。

 兄妹がお互いのことを思い考え、行動していることが描かれ、読んでいて胸がエグれるのだ。

 お兄ちゃんが嫌われようと横柄な態度を取った。そういうシーンですら愛おしくてたまらなくなってしまう。

 言葉と心が噛み合っていなくて、その噛み合っていない感じが読んでいて苦しくなってしまうのだ。



 そしてお兄ちゃんは化け物に渡す薬を間違えてしまった。

 こういうことが今まで何度もあったので兄妹は怯えた。

 化け物は怒り狂って古民家に入って来てしまう。

 化け物には古民家の1人だけ閉じ込める、というルールは適用されない。なぜなら古民家は薬を作れる人間を求めていた。

 そこで正しい薬を渡せばよかったのに、兄は慌てて間違った薬を化け物に渡してしまった。

 化け物はさらに怒り狂い、兄に襲い掛かった。

 殴られる兄を助けるために、テントを張っていた名探偵と魔法少女の元まで妹は助けを求めに行った。

 あの魔法少女ならお兄ちゃんを助けてくれると思ったのだ。


 ここに来てから何度も魔法少女と名探偵が化け物に襲われていたのを目撃していた。そのたびに不良に絡まれた格闘家のように魔法少女は化け物をやっつけていた。

 だから妹は魔法少女に助けを求めた。


 だけど魔法少女はお兄ちゃんを助けることはなかった。

 古民家から出て来た妹を連れて現実の世界に戻ったのだ。

 こうなる事を名探偵はココに来る前から知っていた。

 だから兄にだけ現実の世界に戻れるのは1人だけだと伝えていたのだ。

 そして兄も妹も、その事は知っていたのだ。

 化け物に渡した薬を間違えたのは兄の意思だった。

 妹は泣き叫びながら兄がいる古民家に戻ろうとした。

 だけど古民家に続く道は魔法少女の手によって閉ざされ、2度と妹は兄に会うことはなかった。



 1巻を読んだ時の衝撃は今でも覚えている。

 涙が滝のように溢れ出し、心が苦しくて苦しくて仕方がなかったのだ。

 この凄い作品を書いたのが、当時はまだ高校生の女の子だったらしい。

 ゾッとするのに感動する。

 恐怖と感動という2つの感情が同時にやって来て、心がエグれるような読書感になっていた。



 また脇を固めるキャラクターも人気だった。

 ぼくが推しなのは2巻以降に登場する新田一という委員長である。一と書いてハジメと読む。胸が大きい黒縁メガネの三つ編みの女の子である。

 フィギアも買ったぐらいだった。制服姿でスカートを覗けば白いパンツを履いていた。

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