転生領主の生存戦略 〜反乱コースを回避し、贅沢三昧の人生を〜

カイン・フォーター

第1話 領主になったらしい

「領主御就任、おめでとうございます。ソフィア様」

「「「「「「おめでとうございます」」」」」」


……どうしてこうなった?


私の目の前には、これまで父に仕えてきたはずの見知った者達が、膝をついて頭を下げ、祝福の言葉を述べている。


「早速ではございますが、こちらをご覧ください」


私に頭を下げていた者達の一番先頭に居た、初老の男性―――父の補佐をしていた、補佐官のロイドが、分厚い紙の束を机に置いた。

その内容に目を通すと、政治に関しては全くの素人の私でも、『ヤバイ』ということがひと目で分かる、悲惨な内容が記されていた。


「死者600人以上に、病人が約2000人?……ロイド、うちの領地の人口ってどれくらいだったかしら?」

「約8000人ほどです」

「……これ、詰んでるんじゃないの?」


人口8000人のうち、2000人が病気で、600人が死んだ?

そんなの…詰みでは?

労働力が激減するし、財政も苦しくなる。

その上、うちは多額の借金まであると来た……経済破綻コース、まっしぐらじゃない?


「ソフィア様、他の資料にも目を通して頂きたい」

「……犯罪率の急上昇、盗賊団の出現、施設の老朽化、下水道の異常、食糧の大幅減少。何をしたらこんな事になったの?」

「何もしなかったからにございます」

「そっか。つまり、全部お父様のせいと…」


そういえば、確かに私の父は浪費癖が酷かった。

おかげで屋敷には要らないモノが山ほどあるし、無駄な所に金が使われすぎている。

しかも、重い税を課した上で、借金までする始末。

これじゃ、いつ反乱を起こされるか分かったものじゃない。


今まで見て見ぬふりしてきた父の愚行に、頭を抱えることとなった。


「……ロイド。この屋敷にある骨董品を、本当に必要なもの以外売り払うと、いくらになるかしら?」

「そうですね……高くとも、200万ゼニーといった所でしょうか?」

「……借金の総額は?」

「2億ゼニーです」

「終わった……」


荒れ果てた領地の復興どころか、借金返済すら出来ないとは…

この地の未来は暗いなぁ…

というか、その前に私の未来がヤバイ。

間違いなく反乱を起こされて、処刑される。

嫌だ……せっかく夢にまで見た異世界に転生したのに、そんなの―――


「――とりあえず、憂いていても、何も始まらないわ。骨董品をまとめておいて、次に商人が来たときに、全部売り払うわよ」

「それが良いでしょう。では、何から手を付けられますか?」

「疫病ね。お父様、お母様、そして兄達の命を奪ったこの疫病を、何としてでも抑え込まないと」


このままでは、革命コース一択だ。

そうならないためにも、まずは目下の最大の問題から解決していこう。

疫病への対応、それから始めるんだ。


私は自らの頬を叩き、気合を入れるとロイドの目を見る。


「ロイド。もし私が間違ったことをすれば、すぐに指摘してちょうだい。この地には…指導者が間違ったことをしている余裕なんてないのだから」

「ソフィア様……」


ロイドは私の言葉に目を丸くし、とても感心している様子。

これまで父に仕えてきて、このような事を言われたことは無かったのか?

そんな疑問が思い浮かんだが、そんな事を気にしている暇などない。

立ち上がって、胸に手を当てて目一杯息を吸い、大きな声で宣言する。


「私は『ソフィア・エメラルド』。新たなこの地の領主として、命を懸けると誓うわ!」


その宣誓に、部屋に居た一同が目を丸くした。


そんなふうに、カッコよく宣誓したはいいものの、何をすれば良いか分からないし、やっていける気がしないのよね。

命を懸けると誓うとか言ったけど、私の方からかけなくても、この地を良くしないと私の命に関わる。

必ずや、領主として大成し、反乱からの処刑コースから脱却してみせる!

そして、今世こそは贅沢三昧をして、寿命が尽きるまで生きてやる!

それを目標に、私はこの地を世界一にするんだ!!


こうして、私の領主生活が始まった。

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