蛙の子は蛙

蛙の子は蛙

実況「さあ三笠にボールが渡った!得意のドリブルで切り込む!」

「プロなんか無理だ。カエルの子はカエルなんだ」

全国高校サッカー選手権大会。

父に言われた言葉を反芻しながら、三笠純弥はペナルティエリアに侵入した。

群がるディフェンダーを巧みにかわし一瞬のチャンスを狙う。

<俺はカエルの子なんかじゃない>

純弥の実家は洋服の仕立て屋だったが経営難で廃業。父は現在レッカー車の運転手として家族を養っていた。

純弥が後を継ぎ現代的感覚で店を復活させる。

それが父の夢だった。

純弥に後を継ぐ気はなかった。

プロになって大金を稼ぎ、家族に楽をさせる。

それが純弥の夢だった。

実況「入った!三笠が決めた!」

解説「DF陣の間を縫うようなドリブルから、針の穴を通すようなシュート。三笠選手、優勝に向けて見事にチームを牽引していますね」

「ほらみろ、カエルの子はカエルだ」

テレビ中継を観ながら、父が誇らしげに目を細めた。