(4-2)


   ◇


 あの日、僕の体は救急車で病院へ搬送されて緊急手術を受けていた。

 肉体を遊離した僕は手術室の空中を漂いながら、そんな自分の様子を見下ろしていた。

 腕や脚、肋骨を骨折、内臓の圧迫、その他打撲多数で、痣だらけの体の表面は皮をむいた腐ったバナナのようだった。

 ただ、こうして治療を受けているということは、僕はまだ生きていることの証でもあった。

 心肺機能はかろうじて失われていなかったし、脳内の出血もなく、昏睡状態ではあるものの僕はまだ死んではいなかった。

 人間の体ってこんなになっても生きてるんだな。

 まるで事故の野次馬みたいな他人の視線で僕は自分自身を眺めていた。

 手術後に集中治療室に移された僕は何本もの管をつながれたまま酸素マスクをつけて横たわっていた。

 何も感じない静かな時間。

 それすらも、どれくらい経過したのかさえ分からない。

 なのに、どうしてなんだろう?

 ――今、そちらへ行きます。

 動けない僕の耳に君の声だけは聞こえたんだ。

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