(2-12)
◇
教室では野村さんと上志津さんが話をしていた。
お互いの腹の内が明らかになったにもかかわらず、逆に、明らかになって腹を割って話せるということなのか、表面的には和やかな雰囲気に見えた。
手紙についてたずねたかったけど、現物は下駄箱に置いてきてしまったし、どう切り出したものかも分からず、結局確かめることはできなかった。
しかも奇妙なことに、放課後帰る時に下駄箱を見たら、手紙はなくなっていた。
僕がニセモノと見抜いて放置したから、誰かが回収したんだろうか。
それにしても、封筒やインクの色まで同じというのは気味が悪い。
その夜、上志津さんから一度だけメッセージが来た。
《いよいよ明日から試験だね。花火見に行けるように頑張るから、今日はこれでゴメンね》
いつもと変わらない調子だ。
――抜け殻のように生きてきました。
そんな手紙を書くようには思えない。
もしかしたら、野村さんだろうか。
僕にフラれたことを詩的に表現したとか。
いや、でも、僕と一緒に駅から歩いてきたんだから、手紙なんか入れるタイミングはなかったはずだ。
昨日のうちに入れていたとか?
それだと、今朝の話の様子と矛盾している。
それに、文面そのものがおかしい。
『君がいなくなってしまってから、私はずっと抜け殻のように生きてきました』
これだと、僕がいなくなってずいぶんと長い時間が過ぎたような言い方じゃないか。
昨日今日のことではないようだ。
僕と上志津さんの仲を壊そうとするイタズラだと考えるにしても、やはりどこか奇妙な文章だ。
レターセットまでそろえるくらい用意周到なら、もっとわかりやすい文面にするのが自然だろう。
そういえば、スマホの不思議なメッセージもなんだったんだろうか。
考えれば考えるほど頭が空回りしてしまう。
試験準備でこれ以上頭を疲れさせたくなかったから、僕はいったん手紙の件はおいておくことにした。
上志津さんも頑張ってるんだ。
僕も勉強しないとな。
花火大会の日に残りの試験科目の心配なんかしてたら楽しめないもんな。
といいつつ、実際のところ、当日の妄想シミュレーションばかりふくらみすぎて、勉強はちっとも進まなかったんだけどね。
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