そのアイテム、非売品につき

青城雀

1 ひとりでに動くタイプライター

「見ろドラン。ついに出来たぞ。名付けて、おしゃべりなタイプライターだ」

「……そうですか」

 メイがまた妙なアイテムを作った。

 それは一見すると、単なるタイプライターに見えた。

 整列されたキーと、紙が差し込まれたヘッド。適当にキーを打てばその文字がしっかりと紙に印字されそうな、きちんとした作りのタイプライターが机の上に置かれていた。

 ちなみに結構な高級品だ。

 父がこれを使っているのを見たことがあるが、それは家が格別裕福だったからであり、これを使いたい職業の人すべてが持てるような代物ではない。

 まあ、このタイプライターがそんな『ただの高級品』であるはずも無いが。

「説明しよう。このおしゃべりなタイプライター、略してシャベリタイは、なんとキーを打つ人間がいなくても、勝手に文字を打ってくれるという優れものなんだ」

 メイが得意気に解説をするが、無人で動くタイプライターという時点ですでに常軌を逸している。

 しかもこれが嘘や誇張ではなく、むしろ性能を知れば知るほど更に恐怖を覚えるだろうことが容易に想像出来た。

「私は文字を書く時、指を動かすのがとても面倒に感じていた。そこでだ。このシャベリタイに私の考えたいことをほんのさわりだけでも打ち込むと、シャベリタイが勝手に色々と考えて文章にしてくれるんだ。どうだ、便利だろ?」

 指を自分で動かすのが面倒、というだけでこのようなアイテムを気軽に生み出せるのだからメイの才能は計り知れない。

 そして面倒なのはあくまでも指を動かすことであって、考えることではないという点がメイの特異な感覚を表している。

 メイにとって何かを思考することは指を動かすことよりもはるかに労力が大きいということだ。

「ではさっそく使って……。いや、ドランが試しに打ってみてくれないか? 実際に体験したほうが早いだろう」

「やめておきます」

 断ることに特に理由は無いが、強いて言うなら生理的な嫌悪感だろうか。

 これにあまり触りたくない。

「……やれ」

 メイが短く命令した。

「分かりました」

 俺はその言葉に素直に従い、タイプライターの前へと歩み出た。

 しかし、すぐには文字を打てなかった。

 これは嫌悪感から来るものではなく、純粋に何を打つべきかが分からなかったからだ。

「……ええと、何でもいいんですか?」

「ああ。好きに文字を打て。その続きはシャベリタイが勝手に打つ」



 メイのあまりにも気軽な口調が、かえってアイテムの性能の高さを裏付けていた。

 とりあえず適当な文章を考えてみるが……。

「えっと」

 猫は可愛い。そう打ち込む。

 すると。

 つぶらな瞳、様々な模様、鳴き声、仕草。猫は世界でも有数の、可愛いを突き詰めた生き物の一つだった。

 パスパスとキーが勝手に沈み込み、紙に文字を打ち付け、文章を生み出した。

 せいぜい大きいミシンぐらいの大きさなのに、これほど自在に思考をするのか?

「どうだ? いいだろ、これ。とても便利だ。今は短い文章だったからシャベリタイもさほど長くは続きを打たなかったが、もう少し打てばもっと長く続きを打ってくれるぞ」

 これでまだ序の口だというのだから頭が痛くなる。

「いや、いいものを作った。私はとても満足だ。しかも生活の役に立つ。これほど素晴らしいことはない」

 メイはそんなことを言いながら笑顔でコップに焦がし豆茶を注いで、飲み干した。

 上唇に黒いひげが付いた。

「ちなみにこれ、何に使うつもりなんですか?」

「うん? そりゃあ、今日食べたいものを打ち込んで気分に合った夕食の献立を考えて貰ったり、思いついた詩を途中まで打ち込んで、私の続きを打って貰ったり、色々だよ」

「そうですか」

 俺はしゃがんでメイのひげをハンカチで拭った。

 こうして見ると子供にしか見えないが、メイ本人は自分を立派な大人だと豪語してやまない。

 苦い豆茶をそのまま飲んでいるのがその証拠だ、と言っていた。

「……そろそろ俺は家事に戻ります。ちなみに夕食は何がいいですか?」

「肉料理」

 メイが言いながらシャベリタイに文字を打ち込むと、続きが紙の上に打たれた。

 鳥を塩ベースのスープで煮込み、野菜も入れて彩りを加えたものが食べたい。

 俺はこいつに鳥のスープでもぶっかけたらいいのかと本気で悩んだ。



 国の外れ、手入れのされていない広い森のすぐそばに、この屋敷はあった。

 周辺に民家の類いは一切ない。

 だからメイが肉を食べたいと言った時、一番近い町に行くよりも、自力で狩るほうが早い。

 俺は弓の準備をしつつ、凍結箱の中を確認した。

 一人分しか残っていなかったので、出して溶かしておくことにした。鳥を狩っている時間でいい具合に溶けるはずだ。

 ちなみに凍結箱というのは俺が勝手に名付けたもので、正式名称は確か、冬よりも寒い季節にようこそ、だったか。

 あの中に入って、寒いということを楽しむためにあるらしいが、俺が食料保存に使いだしてからはメイが入ることはあまりなくなった。

 今は大体週一ぐらいで中に入っているメイを見つける。

 中で楽しそうに震えているのだが、何が楽しいのかは分からなかった。



「違うと言ってるだろ! この分からず屋が!」

 鳥を二羽仕留めて帰ると、メイがシャベリタイ……微妙な名なのでとりあえず自動筆記箱とでも呼ぼうか、を怒鳴りつけていた。

「どうかしたんですか」

「聞いてくれドラン。こいつが、私の言うことを全然聞いてくれないんだよ」

「そうですか」

 泣き顔のメイが筆記箱を指差しながら言う。

 俺は血抜きの済ませた鳥の羽をむしりながら、文面を読んでみた。

 私は今年で十八歳になる。だからもう大人だった。

 しかし身長が低く、身の回りの世話をすべてドランに任せていて、大人と言い張るには幾分無理があることも自覚していた。

 しかし、それは間違いだった。私はやらないだけで、やろうと思えば自分の世話ぐらい自分で出来た。

 そう思い込みたかったが、私に出来るのは思いつきを形にするアイテム作りだけで、ドランのいない生活を送ることは困難を極めることが容易に推測された。

 違う。

 そう心の中でつぶやいたが、まったく意味のない反論であることは誰よりも自分が分かっていた。

 俺はひどく言葉に困った。

「ドラン! この機械は失敗作だ。明日にでも町に売りに行ってくれ。そして帰りにブドウを買ってきてくれ。酒を作る。なるべくたくさんだ」

 目に悔し涙を浮かべながら、メイがヤケ酒作りを決行しようとしていた。

 酒を買ってこいではなく、自分で作ろうとするあたりがメイらしかった。

「あれでいいんじゃないですか? 前に作った、体に悪影響を残さずに酔える水で」

「嘘つき酒は、酒に酔ったフリをするだけで実際には酔わない。心の中は冷静なんだ。自分は酔ったフリをしなければならないという強迫観念を与えた上で、演技能力を大幅に向上させているだけだ。ドランは飲んだことが無かったな」

 メイは鼻をすすりながら、戸棚から嘘つき酒のビンを取り出した。

 まさか俺に飲めと言うのだろうか。

「これも売ってきてくれ。私はもう飲まないし、ドランに飲まれても困る」

 俺はビンを押し付けられ、メイはふてくされながら凍結箱の中に入っていった。

 物理的に頭を冷やすメイは放置し、俺は自動筆記箱から紙だけ抜き出して、適当に荷造りをした。

 ビンのほうはともかく、筆記箱は本当に売ってもいいのだろうか。

 俺には分からなかった。



 翌日。俺は馬車を模した乗り物を走らせて、町に着いた。

 本物と区別がつかない馬の自動人形を一回なでてから降り、他の馬車に紛れ込ませるように駐車させた荷台から、運んできた荷物を取り出した。

 偽酒のビンが割れていないことを確認し、シャベリタイは仮に壊れていても気にしなかったので、見ずにそのまま背負うことにした。むしろ壊れていたほうがいい気がした。

 町を歩くと、しばらく来ていなかったはずなのに、昨日来た気がするほど風景が同じことに気づいた。

 メイの屋敷は定期的に物が増えるし、生活が変わる。

 まるで過去に飛ばされたかのような錯覚を覚えながら、俺はアイテム屋を訪ねた。

「こんにちは」

「あっ。ドランさん!? こんにちは! お久しぶりです!」

「どうも」

 店主のヨルさんが大きい声で応えた。

 確かメイの一つ歳下のはずだったが、彼女のほうが背が高く、そして前に見た時よりも少し背が伸びていた。

「半年ぶりぐらいじゃないですか? 前に来たのはいつでしたっけ?」

「正確には覚えてませんが、確かに半年ぐらいですね」

 町にはもう少し多い頻度で来ているが、アイテム屋を訪ねることはあまりない。

 メイが売るほど気に入らないアイテムを作ることは、そう多くなかった。

「今日は何を売りに来られたんですか?」

 ヨルさんが俺の背中に目を向けて言った。

 心なしか、瞳が輝いているように見える。

「ええと。まず酒に似た飲み物から」

「はい。拝見します」

 手に持っていた袋からビンを取り出し、店のカウンターに乗せた。

 さほど量は入っていないが、これは一口も飲めば酔ったように見えるので、これでも売り物としては十分に思われた。

「酒に似た、とおっしゃいましたが、これは飲むと酔うんでしょうか? それとも味がお酒に似ているんでしょうか?」

「味は知りません。飲んだことがないので。これは、飲むとまるで本当に酔ったようになる、でも実際は酔わない飲み物です」

「ほほう」

 ヨルさんがビンをためつすがめつする。

 見た目で何かが分かる訳でも無いと思うが、ヨルさんは色や濁り具合などから何か読み取れないかと必死になっていた。

「ああ、別に飲んでもいいですよ。一口で十分なので」

「……ええと、飲むと酔ったようになるん、ですよね?」

「そうです。見かけだけで、心の中は冷静でいられるそうです」

「それでも、人前ではちょっと……。一人の時に試してみようと思います」

「では、買い取って貰えるんですか?」

「はい、それはもちろん。ドランさんのことは信用していますので」

 ヨルさんがカウンターの下からお金を取り出した。

「これは酔ったフリをしたい時という、少しだけ限定された条件下での使用が想定されますね。そしてこれだけの量ですと、多分五、六回ぐらいが限度でしょう。私が思ったより高値が付くこともありえそうですが、あくまで期待出来るという程度なので、これぐらいでしょうかね」

 俺が予想したよりも少しだけ高い程度の金額が残され、余った分は下に戻された。

「それで構いません」

「ありがとうございます」

 やや事務的な様子でヨルさんはビンを受け取り、とりあえず手近な棚に置いた。

 そして戻ってきた時には、なぜか息が少し荒かった。

「……で? そちらの、背中の荷物は?」

 幾分声が低い気がしたが、怒っているようでは無かった。

 まるで飛びつきたい衝動を抑える、獲物を前にした猫のようだった。

「ええと、とりあえず出しますね」

 背の鞄から布にくるまれたシャベリタイを取り出す。

 カウンターの上で布をほどき、布だけ元の鞄へ戻した。

「これは……。多分ですけど、タイプライター? というものですか?」

「半分、そうです」

 ヨルさんは初めて見るらしいタイプライターに驚きつつも、どこか興奮が収まったようにも見えた。紙の入っていないそれをパスパスといじる。

「……半分?」

 俺の言葉を反芻して、再び獰猛な目つきになった。

「これ、何か普通のタイプライターとは違うんですか? いえ、私は普通のタイプライターを直接は知りませんけど、用途は知ってます。文字を綺麗に紙に書ける道具ですよね? これは違うんですか? 普通のタイプライターでは無い?」

 まくしたてるような物言いに引きつつも、俺はうなずいた。

「一応、普通のタイプライターのように文字は打てます。ただ、少しだけ難点が」

「というと?」

「……説明は出来ますが、見たほうが早いかも知れません。これに入れる紙を貰えますか?」

「紙、ですね」

 ヨルさんが近くの机を探り、引き出しから一枚の紙を取り出した。

 それを貰い、シャベリタイに差し込む。

 そして俺は文字を打ち込んだ。なるべく無難な文章を、なるべく続きを打つなと願いながら。

 こんにちは。

 そう挨拶をしようと思ったが、すでに入店時に一度したことを考えると、二度目のそれには別の意味が含まれてしまう。特に意味のない挨拶だったので、俺はその言葉を飲み込んだ。

「…………」

 残念なことにシャベリタイは健在だった。

「……今、ドランさん、直接触らずに文字を打ちました? これは、頭で考えるだけで文字を打ち込む機械、ですか?」

 そのほうがいくらかマシだったかも知れない。

 それはそれで別の問題も生まれそうではあるが。

「いえ、違います。後半の文章はこの機械が勝手に、自分で考えて打ったものです」

「……な。なる、ほ……ど? 自分、で?」

 ヨルさんの声が震えていた。

 紙に打たれた文字を見て、機械を見て、もう一度文字を見た。

 そしてカウンターの下から箱を取り出した。

 開けると、それが手提げの金庫だと分かった。

「いくら出せば買い取れます?」

 身も蓋もない言葉がヨルさんの口から出た。



 一頭立ての馬車ではかなり牽引に無理のある量のブドウを買い込み、それを見た目一頭立ての馬車にしか見えない自走荷車によって運びながら、俺は屋敷へと帰った。

 死ぬよその馬、と八百屋に言われたが、馬は死ななかった。もともと生きてもいなかった。

 むしろ俺は、ヨルさんに売った悪夢の箱のほうが気がかりで、心持ちはさながら火付けした犯罪者に近かった。

 あれが誰の手に渡るかで、俺がしたことの罪の重さは変わるだろう。

 早々に壊れることを望んだが、メイのアイテムは頑丈そうだった。

 森の屋敷に着くと、メイが出迎えた。

「ずいぶんとたくさん買ったな。よし、全部酒にするぞ」

 メイが満足そうに荷台のタルの中身を見て、酒乱のようなことを言った。

 売るほどの量の酒が作れそうだったが、メイはアイテム以外を売ることはしない。

 つまりすべて自分で消費することを宣言したのと同じだった。

 俺は酒を使った料理のレシピを可能な限り頭に思い浮かべた。



 その後、町に行くたびに風景が変わっていくことに、俺は強い罪悪感を覚えた。

 一度目はアイテム屋が大きくなっていた。

 二度目は町に図書館が出来ていた。

 三度目は町中が活気に溢れ、賑わっていた。

 四度目は、戦争でもあったのか、町が壊滅していた。

 遠い町だったので、戦火が森の屋敷にまでは及ばなかったのだろう。

 俺は



 俺は自動筆記箱から紙を引き抜き、この機械を壊すことに決めた。

 紙がなくなったことに気づいた筆記箱は、自身のキーを動かすことをやめて、静かになった。

 明日は嘘つき酒だけを売りに町へ行こう。

 この箱の書いた通りにメイが酒乱になられても困るし、町が灰になられても困る。

 果たしてこの機械が書いた文章がどれほどの正確さで未来を言い当てるのか楽しみでもあり、空恐ろしくもあった。俺は二割ほどしか書いていないのに、怖いほどの現実感だった。

 壊す言い訳にするために、俺は一口だけビンの中身を飲んだ。

 味が酒に似ているかどうかは、分からなかった。

 そもそも俺は酒を飲んだことがなかった。

 しばらくして、自動筆記箱は物言わぬ箱になった。

 俺はその箱の遺書となった紙束を、明日の荷物と一緒に入れた。



「なんで壊しちゃったんですか! ドランさんのアホ!」

 翌日、半年ぶりに会ったヨルさんは、特に背が伸びたりはしていなかった。

 俺が遺書の一部を読ませると、ヨルさんは怒りながらカウンターをドンドンと叩いた。

「壊すぐらいならタダで下さいよ! 悪用しませんから! ねえ!」

「無理ですね」

 俺は売れと言われた以上、売る以外の行為が出来なかった。

 だからどうしても売りたくない場合、過失を装って故意に壊すしか方法はなかった。

「ああ……。見たかった、このシャベリタイ……」

 遺書を読みながら悔やむ様はまさしく遺族の姿だった。

 だが彼女はあの箱の親族ではなかった。

「はあ……。ではこのお金で、ブドウでも何でも買ってきて下さい」

 ヨルさんが嘘つき酒の分のお金をカウンターに乗せた。

 それは俺が想定した金額よりも、やはり少し多かった。

「……ところでこれ、飲んだんですよね? 実際どんな感じになりますか?」

「そうですね」

 俺が実体験した限りでは、これは正常な思考を損なうという点では本物の酒と似たところがある。しかし思考能力そのものの低下は見られず、あくまで自分の考え方に異質なものが挿入され、その上での思考をせざるを得なくなるという、なんとも表現の難しいものだった。

 短く言い表すなら、自我の一部を書き換えるアイテム、だろうか。

 とりあえず俺の意見と、昨日実際に起きたことをかいつまんで説明した。

「なるほど……。実際に起きたエピソードはまさしく酔った人の失敗談と言った感じですが、その時の思考をたどる限りでは冷静さも併せ持っていますね。私見としては、酔った時の記憶だけはすべて覚えている酩酊した人、でしょうか」

「俺は本物の酒で酔ったことがないので分からないんですが、実際、酔うと本当に記憶が飛ぶんですか?」

「……飛び、ますね。二重人格の自分が暴れたみたいになるので、正直あまり気分のいいものではありません」

 視線を外しながらヨルさんが言った。

 何か嫌な思い出でもあるんだろうか。

「まあ、その酔いに身を任せないといけないことも、人生にはあります。お酒の力を借りるというやつですね。そして記憶をなくさず強く酔えるというのは需要がもう少し見込めそうです。ちょっと上乗せしますね」

 ヨルさんが追加のお金を出した。

 これで少しは、わざわざ飲んでみた甲斐があっただろうか。

 カウンターのお金を受け取り、俺はブドウを買いに八百屋へと向かった。



 屋敷に帰ると、外にはメイが待っていた。

「あ……。お、おかえりドラン。ど、どうだった? ちゃんとブドウ、買ってきたか?」

 なぜか怯えるようにメイが聞いてきた。

 俺は荷台から、一箱だけ買ったブドウをメイへと見せた。

「よ、よし。うん。立派なブドウだな。美味そうだ。これはそのまま食べよう。酒にするのはやめだ。そうしたほうがいい」

 メイはどこか気まずそうにブドウを一粒ちぎり、それを食べるでもなく指で転がした。

「メイ。そのブドウは酒用だから、皮が厚くて食べにくいですよ」

「そ、そうか! そうだな! 酒用のブドウだものな! ……その、ドランがどうしてもって言うなら、酒にしようか?」

「別に味が悪い訳ではないので、メイが食べたいと言うならそのままでもいいです」

「……分かった。じゃあこれはこのまま食べよう」

 心底ホッとしたようにメイがブドウを口に放り込み、そのまま屋敷へと入っていった。

 俺はブドウの箱を抱え、そのあとに続いた。

 屋敷の中は昨日俺が散らかした時より、少し片付いているように見えた。

 メイが自分で掃除をしたのかと思うと、酒の力を借りるというのも必要なものなのだと納得した。

 その日のデザートは、言うまでもなくブドウだった。

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