第17話 魔石の神社

§  §  §



海波は夢の中にいた。


意識がはっきりしない中、「白波海波」と「ゼフ」の二人に分かれた姿で向き合って話をしていた。


「ありがとう……でも……やりすぎだと思うよ」

「何故だ? 君の愛する母親を守れたではないか?」

「まだわからないよ。召田宗麻、彼はねちっこい性格だから。それに、転生者もたくさんこの世界にいるんだろ? おそらく宗麻の事だ、噂を聞きつけて彼らの力を取り入れたりすると思う」

「……いっそのこと殺してしまうか?」

「それは犯罪になってしまうよ……「僕」の心も持たないかも……それに、母さんを悲しませたくない……それに政所まんどころさんも……」


ゼフは「白波海波」の記憶も感情も有しているので、複雑な心境になった。


「どうすればいい? 瑠衣のことは……」

「巻き込みたくなかった……けど今の力があれば……「るーちゃん」も守れるよね?」

「……ああ、そうだな……それに瑠衣はもうこの騒ぎの渦中にいるとしか思えないな」

「そうだね……」


「さて、俺はこれからどうすればいい?」

「とりあえず……」



ピピピピピ……


海波は目覚まし時計の鳴る音で目覚める。


夢の中で「白波海波」と話をしていた気がしたが、細かい話などは思い出せなかった。



§  §  §



この町にある小さな教会の一室に、瑠衣と「ヤクザの事務所」にいた「眼鏡をかけた冴えないおじさん」がいた。

二人の前にはスマホが置かれ、遠距離で通話をしている感じだった。

スマホからは若い知的な感じの女性の声が響き、二人に指示を出しているようだった。


『それでは、瑠衣さんはそのまま『流れ星』の残骸の回収をお願いします。正津さんは白波さんの周りの調査をお願いします』

「え、ちょっと待って。海……海波君は私が担当した方が……」


『すみませんが……瑠衣さんはおそらく……感情が邪魔して正確に状況がつかみきれないと思います。正津さんなら私情が入らないと思いますので』

「そうだね。叔父さんは「白波海波」君のことは知らないしね……」


『私たちもそちらの応援に行きたいのですが、こちらも手薄になって大変な事になっているので……何日かは三人で何とかしていただくしかありません……』

「……わかったわ……増援がくるまでは……頑張るしかないのね……」

『新しく覚醒した人間は、どれだけ過去の性格や能力を引き継いでいるかわかりませんので注意をしてくださいね。危なくなったらすぐに引いてください。では、よろしくお願いします』


「それじゃ、叔父さんと、鼓動君とで「白波」君の周りを見張って情報を集めておくよ。何かあったら連絡ちょうだい」


瑠衣は鼓動正史こどうまさしからの情報をまとめたメモを見ながらスマホで位置を確認する。どうみてもいかがわしい店舗が入っているテナントに見えた。


「はぁ……これ、女子高生が一人でいくような場所じゃないと思うんだけど……」

「それだけ前の事件で信頼を得たんでしょ。あとは……君の身体強化がすごすぎるから。ギフトも使ってないのに……」

「……はぁ、わかりました。行ってきます。もう少しいたわってほしいかも……」

「相手の力が強いと見たら離脱だけ考えてちょーだいね。君なら捕縛できないだろうし」

「……了解しました。その、海君を……よろしくお願いします」

「悪いようにはしないよ。叔父さんがなんとかするから」

「……では」


瑠衣が部屋から出て消え去った後に、ゆっくりと正津がメモを見ながらスマホに情報を入力していく。


(白波海波……白波……まさかあいつの子ですかね……? ちょっと興味がわいてきましたよ……)



§  §  §


海波に連れられて、蓮輝と紅華は裏山にある神社裏の広場に来ていた。

かなり古い神社だったが、人気も少なく、うすら寒い印象を受ける場所だった。


「んで、何でここなの?」

「防衛上の理由だな。ここなら魔力を多少使っても感知されない」

「確かにこの神社は……人気が無くて、祭りの時くらいしか来ない場所だけど……人が少ないから魔力の位置で探知されるんじゃないの?」


「……ああ、普通ならそうだ。こっちに来てみろ……」


蓮輝が不安そうに海波の方を見る。海波は歩き出し二人を誘導する。

「え? 魔力反応?」

「あ、感じるね……え? 岩??」


海波は岩がくりぬかれた社に二人を案内する。社の祭壇の様な場所にはしめ縄をまかれた黒い黒曜石のようなものが祭られていた。二人は黒曜石から魔力のようなものを発しているのを感じていた。


「こんな場所が……」

「ああ、驚きだろ? あれからこの町を散策していたんだが……こう言う場所がかなりある……大体神社だったが……」

「これって、魔石じゃないの?」

「おそらくそうだな……この世界の魔力が結晶化したのか……それともあちらの世界からきたのか」

「この魔石が金儲けの素材? こんなのを加工できるの?」

「……それはまだ何とも……ただ、この魔石のご神体のおかげで、ここら一体で魔力探知がかなりしにくい環境になっている」

「ああ、なるほど」

「え? ど~いうこと?」

「魔力ジャミングされて、この前の『宝探し』のギフトが使いにくくなる」

「そういう事だ……それで、こっちに来てくれ」


「ちょ、ちょっと二人で分かりあってないで……あたしにもわかるように説明してよ」


海波は紅華にもわかるように説明をしながら山道のような場所を先導し、神社の裏手の方に連れて行った。そこには大量のゴミが投棄されており、粗大ゴミの山となっていた。


「え?」

「不法投棄??」

「ああ、おそらく。そこに軽トラが入れるくらいの山道があるからな。投げ捨てられたのだろう。人目も少ないしな」


「ああ、そっか。ここなら……壊しても、よくわからないものが硬くなってても……ギフトを使っても気付かれないね!」

「そうなんだけどさぁ……これって、白波とあたしだけの作業にならない?」


「あ、そうだね……僕は役立たずじゃ?」

「蓮輝には鉄と炭素の検出をしてもらえると助かるんだが……」

「あ、そうか、化合物が多いから……何の物質を硬化するのかわからないのか……」

「すまん。検出の能力を使えば、鉄だけを抽出……しやすいかと思ってだな……」

「わかった。実際に触れて『ギフト』を使うと素材なんか頭に流れてくるから、なるべく濃度高いやつとかを拾ってくるね」

「頼む。出来るなら鋼……と言われる奴を」

「まかせておいて! 金儲けの実験開始だね!」



蓮輝が資材を探しに行っている間に紅華は海波に気になっていた事をここぞとばかりに質問をする。紅華としてはかなりの危険人物の「白波海波」がどう考え、これからどうするかは人生を左右するほどの案件だった。


「ねぇ、白波。ぶっちゃげ瑠衣ちゃんとどうなの?」

「……どうとは?」

「付き合ってたけど……例のソーマにターゲットにされて別れた? とか?」

「……いや。付き合ってはいない。昔馴染みだ……」

「……そう……仲がすごい良いように見えてたんだけど……」


海波は紅華がしてくる質問で過去を思い出す。以前のようなひどい頭痛がしないようになっていた。

(……一番仲が良い女の子だったと思うんだけど……そう見えてたのかな?)

(昔馴染みと言うのでは……なるほど……友情と恋慕の境目か……それなら納得だ)

(!!!?!?!)

(そうパニックになるな。記憶も感情も共有しているんだ……)

(……は、恥ずかしくて死にそうだ……僕の唯一の異性との接点なんだ……)

(……純粋なのはいいことだと思うのだが……他にも接点になる人物は沢山いただろうに……)

(え? なにそれ?)

(恋は盲目と言うやつか……)


「……彼女を巻き込みたくない……そう思っていた記憶がある」

「……ねぇ、あんた、やっぱり白波としての記憶、この世界の「白波海波」の人格が薄くなったの? ちょっと醒めてない?」

「そうだな……どちらかと言うと今は前世の「ゼフ」としての人格かもしれない」

「そう……「ゼフ」……ゼフ……聞いたことあるような?」

「……色々やらかしているからな。お尋ね者だったかもしれない」

「そ、そう……」

「……言わないでくれると助かる」

「なんでいったし……」


紅華は自分の髪をくるくると手持無沙汰でいじっていた。


「それで……瑠衣ちゃんはどうするの?」

「……出来るなら仲間に、味方になってほしい……だが、敵対する可能性もある」

「それで?」

「残念ながら相手の勢力も規模もわからない。なので今から……武器づくり……だな」

「ああ、やっぱり、あんた考え方が物騒だよ……」

「防衛するには力が必要だ……それは前の世界でもこちらでも同じだろう? 現に「ゼフ」の力に目覚めていなければ……俺は死んでいたかもしれない……」

「マジ?」

「本気だ。頭の痛みが……ん? しなくなっているな……そういえば……」

「ああ、なんか瑠衣ちゃんが魔力の流れ良くしたとかいってたかも」

「……なるほど……魔力の流れが悪かっただけか」


紅華は瑠衣が言ったことをそのまま海波に伝える。が、前世の彼女が何度も見たことのある。「神の癒しの力」に近いものだと内心思っていた。

(神の加護を使ったように見えたけど……あまりしゃべっちゃいけない奴だったっけ……こちらの世界で人の傷がたちどころに治ったら……大騒ぎになるよね)


紅華は廃棄された冷蔵庫の上に座りながら諦めた感じで海波を見る。


「はぁ、あんたらに見つからなかったら、もうちょっと物騒じゃなかったのかもしれないねぇ……」

「……現状を分析するに……おそらく、ヤクザについている転生者グループか、瑠衣が属するグループか……どちらかに発見されて、どちらかに付く事になっただろう……選択権があるだけましと思ってくれ」

「選択権……あるの?」

「出来るなら協力してほしいが……俺は縛らない。縛られるのも嫌いだしな」

「そ、そう……」


海波は会話をしている最中に前世の記憶を思い出していた……頼もしくて優しかった仲間達を……


「ただ……仲間なら……絶対に守る」

「……」


紅華は一瞬考えた後、顔を赤くしながら海波の背中をバンバンと力強く叩く。


「あははは! カッコイイ!! あはは! 勘違いするってそんな言い方じゃ! 駄目だよ! 浮気しちゃ!! ぐらっときちゃったよ!」

「くっ、結構痛いぞ……何を突然……」


二人がじゃれ合ってる中、鉄の資材をかかえた蓮輝が戻ってくる。


「え、えと……色々拾ってきたんだけど……」

「ありがとう。蓮輝。それにしてもすごい量だな……」

「う、うん。男の子の力と魔力を合わせればこんなもんだよ……」

「さぁ、海波! どんどんやっちゃって!!」

「わ、わかった……」


蓮輝は紅華の態度が完全に切り替わったのを見て内心慌てていた。

(もしかして、紅華ちゃんが海波君の魅力に気が付いた!? どうしよう? 瑠衣ちゃんがいるのに? 僕はどうすれば?!)


蓮輝はまったく見当違いの勘違いをしていたのを目の前の二人は知る由もなかった。

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