第2話 過去へのタイムスリップ
深い息を吸い込み、目を開けた瞬間、ロビーの空気が遥かな時代へと変わり果てていた。
目を開けると、そこは1940年代、日本統治下の大連の息吹が色濃く残る世界だった。私の服装は明らかに周囲と異なり、ホテルの従業員は当惑しつつも好奇心を抑えきれずに近寄ってきた。
「あなたは一体どこから来たのでしょう?そのような服はこの地では見たことがありませんが…」
彼の声には混乱と興味が同居していた。
静かに、しかし確信を持って、私は未来からの訪問者であることを告げた。
「2023年という時代からやってきました。時空を超えた旅の途中で、この時代の大連に足を踏み入れたのです。」
彼は言葉を失い、半信半疑のまなざしで警備員を呼ぶかのように辺りを見回しました。しかし私の誠実な眼差しを受け止めると、不思議な魅力に惹かれるようにして質問を投げかけた。
「未来...それは一体どんな世界なのでしょうか?」
慎重に言葉を選びつつ、情報が瞬く間に世界中に飛び交い、電気で走る車が地上を滑るように移動する未来世界を彼に描き出した。
「情報を手の中で掌握し、高速で移動することが日常となった未来から来ました。」
彼の瞳は好奇心で一層輝きを増し、次なる質問を口にした。
「それでは、未来の人々はどんな食事をとるのですか?また、どのような仕事に就いているのですか?」
笑みを浮かべて答えた。
「世界各地の美味を容易く享受することが可能ですし、情報技術や医療、環境保全など多方面で働く人々で溢れていますよ。」
彼はまるで新しい世界の扉が開かれたかのように目をキラキラと輝かせ、未来に対する興味を深めていった。彼の探究心は尽きることなく、未来の生活様式や文化に関する質問を次々と投げかけてきた。
彼はまた、己が務めるホテルの日々の暮らしや役割について、情熱を持って語り始めた。
「我々は毎日、最上級のもてなしを目指しております。このホテルは大連を象徴する場所であり、多くの旅人が足を運んでおります。各国からの商人や外交の使節、観光に来た方々など、多種多様なお客さまがいらっしゃいます。私は支配人として、来館されるお客さまが気持ちよく過ごせるよう、宿泊の受付からお見送りに至るまで、全てを取り仕切っております。また、我々使用人はそれぞれ担当がございまして、客室係、清掃係、厨房係といった部門で専門技術を発揮しております。ホテルの日常は毎日異なり、日々が新たな挑戦でございます。催し物の立案から実施、さらには非常時の対応に至るまで、従業員一同は心を一つにして働いております。客室はいつも清潔に保たれ、食堂では季節ごとに変わる特選料理を提供しておりますし、酒場では夜遅くまで世界各国の名酒を楽しんでいただけるよう努めております。我々の心得は、「お客様に至高のひとときを提供する」こと。そのために常に精進し、ホテルを訪れる皆様方にとって忘れ難い思い出を創出することを目指しております。」
彼から伝わってきた言葉には、当時の大連が持つ活気や華やぎがありありと描かれていた。賑わう街角、国際色豊かな客層、時として直面する厳しい挑戦。それでも彼らは自らの職務に誇りをもって取り組んでおり、その姿勢が時代を超えて私にも鮮明に伝わってきた。
私達はそこで時間を忘れるかのように話し続けた。彼は私の語る未来の技術や社会の動きに驚嘆しつつ、彼の世界での生活や文化、時代の流れが形成する日常について熱心に語った。
通りを行き交う人々は、男性は洋装か和服に身を包み、女性は着物やワンピースといった服装で彩られておりました。また、若者たちはモダンなスタイルを好み、流行の服飾に身を包むことも少なくありませんでした。言葉遣いは丁寧で礼儀正しく、年長者や上位者には敬語を用い、日々の挨拶もかしこまっておりました。
また、彼らが楽しむ娯楽についても教えてくれた。
「活動写真や浪曲、講談といった映画や物語の語り、そして盛んに開かれる祭りや市場での買い物。音楽においては、ジャズやクラシックが好まれ、レコードプレーヤーやラジオから流れる音楽に耳を傾けることが一般的でございました。また、時には洋楽だけでなく、尺八や三味線の生演奏を聴きながら日本の伝統曲に親しむことも」
、などなど彼は詳細に教えてくれた。
私もまた、その話に夢中になりながら、1940年代の大連の日常がどれほど異なるかを肌で感じ取った。その当時の人々がどうやって困難を乗り越え、互いに協力し合い、そしてその時代特有の生活を営んでいたのか、彼の言葉から生き生きとした情景が浮かび上がってきた。
未来から来た私と過去に生きる彼、時間と空間を隔てた二人が交わす会話は、まさに時空を超えた旅そのものだった。お互いの世界への興味と尊敬は深まるばかりで、互いの知識を共有し合うことで、私達は新たな発見と理解を深めていった。
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