第9話

 ぷにゅるりがアニメ化するかもしれないと、ファンの間で話題となった。作者が近日中に重大発表できるかもしれないとSNSで呟いたからだ。

 もちろんアニメ化の発表だったら嬉しい。

 嬉しいのだが、不思議とテンションは上がらなかった。

 三日前のことが蘇り、はらわたが煮えくり返る。嫌いな後輩に見下され、重要な存在ではないと切り捨てられたのだ。許せるわけがなかった。


「あの女……」


 椅子にもたれかかり、自室の天井を眺める。

 先日たまたま廊下ですれ違った時も、無視するような態度を取られた。本当に関係を解消するつもりらしい。


「イライラする……」


 こういう時はマリンちゃんで癒されるに限る。

 スマホを取り出して、SNSでマリンちゃんのファンアートを検索した。ずらりと出てくる。どれも個性があり可愛らしかった。中でもやはり、はやてマンは頭一つ抜けていると思った。ここ数日、はやてマンの書き込みを確認していなかったので遡ると、いくつか気になるものを発見した。


『今から妹がデートに出かける模様。ウキウキしてる。帰ったら根掘り葉掘りだな』

『妹がデートから帰ってきた模様。めちゃくちゃ落ち込んでる……なんも聞けねえじゃんこれ』


 家族のことを呟いている。珍しかった。

 日付的にも美沙のことで間違いないだろう。


「落ち込む、ね」


 冷静に見えたが、実際のところは違っていたのかもしれない。

 美沙の思惑はすべてわかった。わかったはずだ。でも、不思議と釈然としないものを感じる。

 なぜデートを提案したのか。目的は達成されていたのだから、デートをする理由はなかったはずだ。ウキウキしていた、というはやてマンの話も気になるところだ。

 美沙は、自分は嘘をついていないしフェアだと言っていた。

 本当にそうか? そのまま信じていいのか?

 はやてマンの過去の呟き、すべてを辿る。妹についての書き込みがないか調べてみたが、大したものは見つからなかった。諦めかけた時、そういえばと気づく。はやてマンはブログを書いていたはずだ。そこに何かあるかもしれない。

 ブログを開き、いくつもの記事を過去から遡って覗いていった。日記として使用していたらしい。どうでもいい日常のことばかりが書きこまれていた。


 その中の一つの記事に、目を疑うような記述を見つけた。

 例のA子の件が書かれてあったのだ。しかし、美沙が話してくれたことと乖離があった。美沙はA子を単なる友達だと話していたが、はやてマンの記事によれば、遠い親戚ということになっていた。妹から聞いた話としては書かれておらず、A子本人からはやてマンが直接聞いたという体裁を取っていた。この記事に美沙の存在は一切出てきていない。

 詳細にいじめの内容が書かれてあった。結末も、美沙の話している内容とは違った。A子は心を病んだが少しずつ回復していったというのだ。しかし人間不信はなかなか抜けず、はやてマンは毎日のようにA子のことを心配した。ところが、地元から離れ、女子校に進学してからはクラスメイトに恋をしている様子で、落ち着いてきているという。希望の見える着地だった。


 スマホの電源を切ると、黒い画面に自分の顔が映った。目尻が上がり、顔全体が強張っている。それでも十分美しく見えた。

 私は自分と自分の好きなものに関する話題にしか興味がなかった。

 でも、例外ができた。あの憎々しい後輩だ。

 認めるしかない。私はあの後輩が気になって仕方ない。もちろん、悪い意味で。

 だから、ケリをつけようと思った。

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