深層の令嬢の真相
葉方萌生
第1話 彼女の様子がおかしい!?
「圭一、圭一! あれ、やっぱりおかしいって。絶対なんかあるって!」
まどろみの中でクラスメイトたちの話し声が子守唄となり、そろそろいい感じに意識がふつと途切れそうになっていた矢先、甲高いヤツの声が頭上から降ってきた。アイス200円。心の中で「奢れ」と想像上の彼を睨みつけて顔を上げると、想像以上に慌ただしい様子の彼の姿が目に飛び込んできた。
「なんだよ」
ジト目で新こと友人・
「最近の
「ああ、またその話か……」
羽鳥、というのはこのクラスの絶対的女王
しかも、彼女のおじいさんはここら一帯の地主だと聞く。噂なので本当か分からないが、確かに学校に来る最中に目を凝らして民家の表札を見てみると、いくつか「羽鳥」という名前が見受けられるから、本当なのかもしれない。
そんなわけで彼女はこのクラスでは女王的な立ち位置にいたし、控えめな性格もあいまって、ミステリアスな深層の令嬢などという中二病感満載の称号を手にしている。ゆえに、自ら彼女に近寄っていく人間はいない。女子は彼女のことを敬遠し、男子は高嶺の花すぎて近づけない、というところだろうか。
そんな羽鳥蘭の様子がおかしい、というのはここ数日の彼女の挙動を見ていると明らかで、クラスメイトの誰もが気づいていた。
朝、学校に来るとまず教室中をうろうろと歩き回り落ち着かない。いつもならすぐに席についてしゃんと背筋を伸ばし、読書をしている彼女らしからぬ行為だ。さらに授業中に教科書を忘れて困ったり、メガネを落としてレンズを割ってしまったり、注意力散漫な彼女が炸裂していた。
「なあ、圭一も気になるだろ? なんで彼女が最近変なのか。あの深層の令嬢と呼ばれるほどの彼女が、ここまで堕ちてしまった理由を!」
“深層の令嬢”だの“堕ちてしまった”など、中二病な新は、さも漫画の主人公にでもなった気分で大げさに身振り手振りをする。その時にはもう俺の眠気は完全にどこかへ飛んでしまっていて、アイス200円では代償にならないな、と冷静に分析していた。
「じゃ、そういうことだから圭一、一緒に彼女の真相を解き明かそう!」
彼の茶番劇に付き合うのに疲れてきた俺は、「はいはい」と、適当に相槌を打ってしまっていた。途端、新の口の端がにやりと持ち上がる。
しまった。こうなったらもう、奴の勢いは誰にも止められないのに。3秒前の自分を恨めしく思う。
ちょうど頭上では昼休みを終えるチャイムが鳴り響く。俺は絶望感に苛まれながら、自分の席へと戻っていくクラスメイトたちを遠い目で見つめる。その中にはもちろん、新の姿もある。
彼にはアイスとジュース、それから課題を代わりにやってもらうので手を打ってもらうことにしよう。
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