B面

 放課後、視聴覚室。

 ホワイトボードの前に天井から、スクリーンが降りている。スクリーンには、青い画面。左下の方に映像信号が入力されていません、の白い文字。

 永田、美作、椎名の視聴覚研究部三人が、喋っている。


 永田

「いや絶対、夢が部長の死を望んだから、ホープビデオはそれを叶えた、で終わっとけば良かったんだよ。あのオチは流石にないよ」


 美作

「部長が死んだ理由が、夢が望んだから、ではなく、夢が帰った後、部長は祝いのテープを巻き戻して、呪いのテープとなってしまった、とか、いやいや、どうして、そうなるんだよと。美しない。まあ、呪い、とかある時点で、そういったツッコミは野暮なんだろうけど」


 椎名

「いや、まあ、確かにね。ビデオテープを見終わったら、巻き戻さないといけない、なんて言われても、知らねえよ、そんなの、としか思わなかったな」


 いつの間にやら、どこからか、部長登場。

 部長

「おや、何を見ていたんだ」


 永田

「あっ部長、お疲れ様です。昔の視聴覚研究部の先輩たちが撮った、『ホープ』って映画なんですけど」


 部長

「ああ、見た見た、呪いのビデオのやつだろ」


 美作

「どうでした、あれ、面白かったですか?」


 部長

「まあ、あまり、だな」


 椎名

「そもそも、呪いのビデオってのが、なんか嘘っぽいっていうか、ありえないって、感じで、集中できなかったな」


 部長

「あるよ、呪いのビデオ」


 部長以外一同

「えっ」


 部長

「ちょうど、ここに」

 部長、一本のビデオテープを取り出し、

「校長に視聴覚資料室の整理頼まれててね、先輩達から、噂には聞いていたんだが、まさか本当にあるとは」


 永田

「ちょっと、見せてください」

 部長、永田にテープを渡す。

 永田

「うわ、僕初めて触りましたよ、ビデオテープ」


 椎名

「あっ、私も触りたい、へー、こんなとこ開くんだ」


 永田

「椎名、美作も持ってみたいってさ」


 美作

「べっ、別に俺は、そんな、ふん、思ったより、軽いな」


 部長

「呪いのビデオテープの、『ビデオテープ』の部分に興奮するなよ、まあ、そうだよな、みんなDVDだもんな」


 永田

「DVDも僕、多分見たことないっすね」


 美作

「俺も、サブスクでしか映画見ないし」


 部長

「DVDすら、もう時代遅れなのか?」


 椎名

「私は、ありますよ。好きなアニメの円盤特典目当てにレンタルしたことあります」


 部長

「二年違うだけで、こんなにも、ジェネレーションギャップを感じるとは。まあ、ともかく。その呪いのビデオテープ預けるから、見てみない?」


 美作

「家、再生する機械ないですよ」


 部長

「俺の貸すから」


 椎名

「みんなで見ればいいじゃないですか」


 部長

「ホラーは一人で見るから良いんじゃないか」


 永田

「部長は、これ見たんです?」


 部長

「い、いや、まだ見てないけど」


 永田

「じゃあ、部長から、見てくださいよ」


 部長

「いや、俺は、ほらその受験とかで忙しいから」


 永田

「十二月に部室に顔を出す人が、忙しいわけないじゃないですか。要は、怖いんですね」


 部長

「べっ別に、怖くなんてないよ」


 永田

「まあ、良いですよ、人柱になってあげます。じゃあ、とりあえず、僕が見ますんで、部長、機械どうします、家まで取りに行ったほうがいいです?」


 部長

「いや、ここにある」

 どこからか、ビデオデッキを取り出す。


 二週間後

 放課後、視聴覚室

 永田、美作、椎名が集まっている中、部長が教室に入ってくる。

「やあやあ、みなさん、ご機嫌よう、元気にしてるかい」


 美作

「呪いのビデオテープを押しつけた人が元気か、なんて聞かないでくださいよ」


 椎名

「元気でーす」


 永田

「僕も元気ですね、風邪もひいてないし」


 美作

「そりゃ、馬鹿だからな」


 永田

「あん?」


 部長

「喧嘩しない、喧嘩しない。そっか、みんな見てから一週間経ったの?」


 椎名

「最後に私が見たのが先週の月曜なんで、そうですね」


 部長

「そっか、一週間で死ぬって話だったんだけど、やっぱり嘘、だったか」


 椎名

「当たり前ですよ、呪いのビデオなんて、あるわけないじゃないですか」


 部長

「そうだよな、そりゃ、分かっていたけど、ちょっとがっかりだ、今日はもう帰るよ」


 美作

「受験、頑張ってくださいよ」


 部長

「ああ」

 部長、教室から退場。


 一週間後

 部長は学校の屋上で、ロープで首を吊って、死んだ。

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