第肆拾捌話:病院にて
「ここは・・・病院?」
すると、恋美が俺を押しのけて御剣さんの顔を覗き込んだ。
「そうよ。銃声がしたからお兄ちゃんと一緒に驚いてそっちの方に行ったらお姉さんが倒れてたからお兄ちゃんが救急車を呼んだの。感謝しなさいよね!」
「おいおい、恋美・・・。」
「そうか。ありがとう・・・君のお兄さんには助けられてばかりだな。不甲斐ない自分が情けないっ!」
彼女はシーツを弱弱しく握りしめながら涙を流した。
さすがにこの状況下では恋美も強く出れず、同情の表情でたたずむしかないようだ。
涙ぐむ彼女にどう声を掛けたらいいかわからなかったので、ありきたりなことで彼女を落ち着かせようと思った。
「あまり気にすることないよ。僕たち、まだ子供じゃないか?大人になるまでに頑張ればいいだけなんだから!」
「そ、そうよ!お兄ちゃんの言う通りよ。」
「だが私にはそうするしか理由がなかったんだ。」
「なんで?」
「私には頼るべきものがいない。だから、君と違って悠長にしている暇はないんだ。・・・あっ、すまんつい。」
「ううん。いいよ・・・その代わり、お姉さんがなんでそこまで思い詰めているのか理由を教えて。」
俺と恋美は御剣さんが両親を早くに亡くしたこと、兄がいたが親とけんかして失踪したこと、その状況下で頼れるであろう祖父母も戦争と病気で早くになくしていたという。
それに加えて厳格な家庭環境であったため、友人と呼べる人は一人もいないそうだ。
「わかった。じゃあ、今日から僕たちが御剣さんのお友達になってあげる!ね、恋美?」
「う、うん。」
「ふ、ふふふふっ。」
彼女は涙を拭きながら可愛らしい笑顔で笑った。
「え?僕変なこと言った?」
「いいえ、なにも。でも、おかげで元気が出たわ。ありがとう・・・そう言えば、あのあと魔素発生装置や和田左衛門に連れ去られた真紀さんはどうなったの?」
「装置は無事倉庫で発見されて、それを警備していた悪い奴は真紀ちゃんのお父さんと仲間がやっつけたよ!」
「そうか・・・。荻窪の件もひと段落したし真紀さんを救出したあとは証拠をそろえて布田月家を一掃するだけだな。」
「あとね、真紀ちゃんに関しては心配いらないかな。」
「・・・?どういう意味だ。」
「明日学校で9時ごろに全校集会があるんだ。おそらく、教頭先生がそこで校長先生の罪を暴露すると思う。でも、校長先生は無実なんだよ。」
「ああ、わかってる。真紀さんは車に乗り込む時に様子がおかしかったしな。撃たれた傷も真紀さんのなんだ。」
「え?そうだったの・・・。まあ、とにかくそう言うことだから御剣さんにも一芝居打つために協力してほしいんだ。」
・・・・・
「なるほど、わかった。救われた恩を少しでも返すために協力しよう!」
そう、俺には秘策があるんだ。
これさえあれば真紀ちゃんを救えるし、打ち合わせ通りに真紀ちゃんのお父さんや和田校長が動いてくれれば布田月家がやらかしたことをすべての生徒や先生に知らせることができる。
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