第参拾陸話:屋敷突入2

ガラッと引き戸を開ける音がして和瑠男が顔をのぞかせた。


「な、なんだよ・・・これ?」


「見ての通りだ和瑠男。警察局の人間と一緒に俺は来た。さっきお前にかかった電話は家に張り付けておくための嘘さ。」


俺は意地の悪い笑みで和瑠男に話した。


「お、俺をだましやがったな!!」


和瑠男は今までにないほどに顔を真っ赤にして怒った。


すると、真紀ちゃんの父さんが俺よりも前に出た。


「布田月和瑠男。お前は私の娘、杉村真紀を死に陥れようとした共犯者だ。中で話を聞かせてもらおう。」


大勢の敵に囲まれて怖気づいたのか赤かった顔はみるみる青くなり、和瑠男は力なく頷いた。


・・・・・・


和瑠男の話によると、魔素発生装置は奴の爺さんである教頭が管理しているらしく、知り合った満洲の女の子を偉く気に入り、お手伝いさんとして雇う代わりに装置の1つをもっていかせたという。


「学校も何考えてんだ。一番管理させちゃいけないやつに管理させるなんて・・・。」


「吾君の言う通りだ。・・・で、その子の写真は無いのか?」


「あ、あるよ。」


「どこだ?」


俺は和瑠男を警戒していたが、さすがにこんなに大勢の大人に囲まれては何もできないのか、慌てた様子で写真を持ってきた。


その写真を見て真紀ちゃんのお父さんの顔が豹変した。


「お父さん、どうしたの?」


「こ、こいつは・・・俺に呪いをかけた女だ。」


「なんですって!?じゃあ、こいつは満洲の人間じゃなくて。」


「ああ、中華社会共和国のスパイだ。カモフラージュのために満洲民族の衣装を着ているが、顔は忘れもしない俺の片目をつぶしやがった奴だ!おい、和瑠男とか言ったな?!」


「は、ハイ!!」


和瑠男は真紀ちゃんのお父さんの気迫に震えあがった。


「お前の爺さんと写真の女は一緒か?」


和瑠男は頷いた。


「どこにいる!?」


「倉庫から装置を取り出すところは見ていた。たしか関越自動車道を使えばすぐだと言っていたよ。」


「関越・・・おそらく、新潟か北陸三県のいずれかの港から密輸船が出るはずだ!政府、そして陸海空すべての軍司令部に知らせろ!学園に貸し出したあの装置は比較的大きいからトラックで移動している可能性がある。怪しいトラックは徹底的に調べさせるように!」


「「「了解!!!」」」


「なあ、真紀ちゃん・・・俺はここにいていいよな?」


和瑠男は真紀ちゃんに聞いた。


「ダメです!あなたもお父さんと一緒に来てもらいます!変なことをされると困りますからね。」


俺と話すときとは打って変わって厳しい目つきで和瑠男を睨みつけた。正直、うらやまゲフンゲフンざまあ見ろだぜ!


「そんなー。」


「水樹君、吾君は二人ともここで解散だ。あとで政府から何かしらの恩赦は与えられるだろう。冒険者としての責務がまだ残ってるだろ?」


「あ、そうか。吾、区役所に行くぞ!」


「うん!・・・え?でも僕何かしました?」


「娘を助けてくれただろ?それだけで十分だ。恩赦に関しては私が後で掛け合おう。」


「あ、ありがとうございます!」


すると真紀ちゃんは柔らかくて暖かい手で俺の手を握った。危うく情けない声を出すところだった。


「お礼を言うのは私の方よ、私のプライドのせいでここまで大きくなっちゃったのに命がけで助けてくれたんですもの。」


「真紀、プライドがどうのこうのは初耳だが。」


話によると、真紀ちゃんは前日に授業で吾に一緒に冒険者をやる際、ちゃんと頼りになるところを見せるために貧魔ぎりぎりになるまで頑張っていたそうだ。


だが、本人は恥ずかしくて救急車の中で意識が回復したものの、そんなことは言えずにあれよと言う間に事件に巻き込まれてしまったそうだ。


「そうだったのか。」


「ごめんなさい。」


「気にするな!すべてじゃないが終わったことだしな。」


「お父さん!」


「そう言うわけだ。ここからは我々に任せてほしい。」


「ああ、頼んだぞ。」


こうして俺と父さんは真紀ちゃんたちと一度分かれて区役所へと向かった。


「父さん、大丈夫かな。」


「なにが?」


「僕たち、また狙われたりしない?」


「それに関しては心配ご無用です。」


驚いて声のした方へ向くとそこには眩いばかりの青白い着物を着た少女と少しボロい服を着て散弾銃を持った気丈夫が立っていた。

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