第参拾肆話:副院長の言い訳

「吾君?吾君!」


白一色だった視界が徐々に晴れていき、そこには涙目になっている真紀ちゃんと誰かに首を絞められたかのように地面に膝をつきせき込む医者がいた。


「真紀ちゃん・・・ごめん、ありがとう。」


「ううん!私は大丈夫だよ。」


「そうだ!父さんと御剣さんは!!」


「心配しないで、あなたのお父様も御剣さんも吾君が持ってきた神秘薬で回復させたわ。


「そうか・・・良かった。」


「そこまでだ。堀戸平太!」


声がする方に視線を向けると、真紀ちゃんのお父さんが警察局の人間たちと共に副院長に銃を向けていた。


彼が合図を送ると警察は素早く副院長を拘束した。


「罪状は御剣に言われているだろうから省略させてもらう。彼らと一緒に署までご同行願おう。」


「もはやここまでか・・・。」


「なぜそんなことをしたの?」


「・・・私は自分で言うのもなんだがこの病院内でも腕利きの副院長で、将来的には来年定年退職なされる院長に代わって私が院長になることが約束されていた。」


実は、彼は前世で少女を医療ミスで殺した事件を起こしてその後、この病院の院長になった後にそれをサポートしていた親友だった虎之介にいいように扱われて、それがばれた後にクビになり、非合法組織の闇医者として活動してるんだよな。


「でも、あなたは医療ミスで少女を死なせてしまった。その贖罪と自分の名誉復活のために新しい薬の調合に寝る間も惜しんで挑んでいた。」


「・・・!なぜそれを知っている?」


しまった!このことは前世ではニュースになってたけどこの世界ではまだ報道されてなかった!


「あー、えと・・・和瑠男から聞いたんだよ。」


「なるほどな・・・その通り、私は医療ミスで女の子を死なせてしまった。その後、私は狂ったように新薬の調合をしていたのだが失敗続きでね、そんな時親友の虎之介に言われたのさ。」


「なんて?」


「君の調合薬は素晴らしい!それ単体では、ただいたずらに急性魔素中毒患者を量産する代物だが、これに少量の神秘薬を混ぜれば多少効力は落ちるものの、どんな難病でも直せる薬が量産できる。私がどんな手を使ってでも必ず薬を見つける!君はそれを作り続けていればいい!ってね。」


彼はそう言って壁を拳で叩いた。


「私がバカだった!こんなことになるならば、あんな奴と早々に縁を切れば良かったんだ。だが、しょうがないだろ!私は何度もあいつに救われた!!それに、精神的に不安定な状態であんな1億や2億なんて大金をポンポン目の前に出されたら、そりゃあ誰だってどんな人格破綻者でも親友と呼ばざるを得んだろう?」


「はぁ、精神的に追い詰められていたから正常な判断が出来なかった。だけど、それを免罪符にして言いわけないでしょう?おじさん。」


「子供にこんなこと言われたら、医者として・・・いや大人として失格だな。堀戸平太副院長。」


「ああ、ああ・・・私は一体どうすれば。」


「檻の中で反省するしかあるまい。そうだな、罪を軽くする代わりにあることに協力してもらおう。」


すると別の警察の人が言った。


「貴様には協力者の子供が居たはずだ。そいつの居場所まで来てもらおう。」


「和瑠男君を使って、布田月虎之介おびき寄せるのか・・・。」


「そうだ。妙な真似をしたらただじゃ済まんぞ?」


御剣に剣を再び向けられて副院長は慌ててポケットから昔懐かしい折り畳み式の携帯をだした。


「・・・わかった。」


そう言ってどこかに電話をかけた。


「どこにかけている?」


「虎之介の家さ、今は夕方だ。今頃あのガキは私の苦労も知らずにのんきにおやつでも喰っている頃合いだろう。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る