第弐拾捌話:追跡

俺と父さんは、警察から事情徴収を受けた後に真紀ちゃんが入院する病院へタクシーで向かった。


「真紀ちゃん、大丈夫かな。」


「あれからまだ5日しかたってないし大丈夫だろ。」


俺は静かに頷いた。だが、心配事が真紀ちゃんの容態以外にもう一つある。


布田月家が遣わしてくるであろう追手の存在だ。


布田月家は前世の日本では執念深い暴力団であることで有名だった。


前世での数々の悪行、それを握りつぶすことのできる圧倒的な権力と財力、彼らに手を出そうとした暴力団廃絶を訴える市民団体、実態を暴こうとした記者、彼らを何としても逮捕しようとした警察官が軒並み行方不明になったことはまことしやかに仲間のネットユーザーの間でもうわさが絶えなかった。


そしてその噂を流したネットユーザーたちも・・・。


後世世界で出会った和瑠男の性格からわかる通り、この世界でも同じように部下や仲間が執拗に追いかけてくる可能性が高い。


だからと言ってここで『瞬間移動』なんてつかったら追手がある意味で増えるだけだ。


この運転手さんには悪いが、いざという時は逃げ回るための足になってもらおう。


「・・・お客さん、つけられてますね。」


「追手?」


とっさにとぼけたが、やはり来たかと心の中で確信した。


「ですが心配いりませんよ。」


「それってどういう・・・。」


その時、父さんが運転手の名前を見て驚いた顔をした。


「森田 勝利・・・大佐殿?!」


するとタクシーのスピードはみるみる上がり、車の間を縫うように走り始めた。


ふとバックミラーを見ると黒いワンボックスカーやセダンなどが2、3台ほど同じ動きをしながら追いかけて来た。


「大佐はよしておくれ水樹君、私はもう軍を引退した身だ。それに、私がそんなガラじゃないことは知ってるだろ?」


「・・・ですが。」


その時、後ろで銃声が聞こえて何かがはじける音がした。


「ひいっ!」


「こいつは防弾仕様だよ僕、目的地までかすり傷1つもつけさせないぜ。」


そう言ってバックミラー越しに見えた彼の笑顔は天真爛漫な少年そのものだった。


― 敵視点 ―


「糞!なんだあのタクシーめっちゃ硬ぇ!!」


「タイヤだタイヤを狙え!」


するとタクシーが急ブレーキをかけて来た。


「おわっ!」


寸前でスピードを落としたおかげで難を逃れた。


「ピッタリつけろ、乗り込んでぶちのめしてやる!」


・・・・・・・


「乗り込んできたよ!」


「あいつらしつこいな。」


元軍人さんの運転手は見事なハンドルさばきで右へ左へとよけるが、屋根にしがみついた黒服の男は引きはがせなかった。


黒服はゆっくりと確実に俺の座っている左側に移動しようとしていた。


ドアガラスを銃の後ろでガンガンと叩いて割ろうとしてきた。


「吾、少し体を後ろに!」


「うん!」


シートベルトを外し、俺に向かって前に乗り出した父さんはタイミングを見て窓を半分開けて、勢いよく飛び出た銃をつかんで奪い取ろうとした。


銃をしっかり握っていた黒服の男は勢いよく車内に引きずりこまれ、父さんの右ストレートを顔に喰らった。


「ぶべらっ!」


そいつは勢いよく吹っ飛ばされ、たまたま近くに止まっていたゴミ収集車に突っ込んだ。


「ぐわぎゃぁあああ!!」


「うへぇ。」


「やるねぇ水樹君。」


「とっさに、まぐれですよ。」


途中から内務省警察局の巡回警護車(この世界の警視庁のパトカー)も3台ほど加わり壮大なカーチェイスと化した。


巡回警護車はサイレンの音でよけた車の列の間をすり抜けて、助手席の人が銃でセダンに穴をあけながら2台で挟み撃ちにしようとした。


だが、この世界の環八も交通量が多いせいでうまくいかない。


ぶつかり合っているうちに巡回警護車の一台が銃撃を受けた際にハンドル操作をミスって駐車していた車列に突っ込んでしまった。


そこへよけきれなかった別の無関係の乗用車がパトカーに突っ込み、きりもみ回転しながら着地後に何度も横回転をするという映画のような事故り方をした。


ワンボックスカーは相変わらず、ぴったりとついてきている。


俺も加勢しなきゃ、ぶっちゃけ助けは必要ないかもだけど俺だって冒険者を目指す身だ!


そう思っているとバンという音に驚いた。


振り向くと、窓にさっきのとは違う黒服のお姉さんがニヤケながらへばりついていた。


「ぎゃぁ!」


驚いているすきにお姉さんが「氷の精霊よ。障壁を堕落させ我に穿つ力を授けたもう!」と叫び杖を振った。すると窓が凍り付いていとも簡単に壊された。


そして、口から吐き出された吐しゃ物のような液体でシートベルトを溶かされて外に連れ出された。


「ぎゃぁ!!」


「吾!!」


「なんてこった!」


俺はそのまま、人間とは思えない身のこなしでお姉さんに後続の車に連れ込まれた。


「捕まえた。サア、神秘薬ヨコセ。さもなくば、フクトカシテ、オカシテ、コロス。」


女は俺を見て長い舌で舌なめずりをした。


見た目的に恐らくは竜人族かなんかだろう・・・なんてのんきに考えてる場合じゃねぇ!貞操の危機だぞ!!


俺は無い頭で必死に打開策を考えた。

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