第2話 高3のバス停

高校の頃のクラスメートとのお話。


私は、小中高と徒歩通学だった。どれも徒歩20〜30分で、頑張れば昼休みに忘れ物を取りに帰れそうな距離。


ただ家に近いというのは良し悪しで、受験勉強が大嫌いだった私は、高3の頃にしょっちゅう帰るのを渋っていた。


その秋の日も、部室で下校時間まで友人達を引き止めた挙句、彼らを高校から最寄りのバス停まで送って行った。そのバス停には2系統のバスが通るから、全員送る頃には15分以上立ちっぱなしだった。


バス停のそばでは桜の木々が紅葉していて、暗みを増していく空によく映えている。

「少しだけ」と公園に入ってベンチに腰掛けると、尻が上がらなくなってしまった。


そのまま公園のベンチで、バス停に向かってぽかんとしていると、見慣れた後ろ姿がバス停に現れた。

出席番号の関係でしょっちゅう私の前に座る男の子。「あの子が帰ったら、私も立とう」と誓って、彼を観察することにした。


彼はバス停のベンチに腰掛ける。少しして、バスが一台来る。彼はそれを見送る。

「あー次か」


10分ほどして、さっきのとは違うデザインのバス。

「来ちゃったー」


彼は立ち上がらなかった。


見つめる私に目を向けず、彼はそのまま動かない。


私は我に返ると、バス停と反対側の出口から、公園を出た。


卒業後再会した彼曰く、「ほっとくわけにはいかないけど、話しかけたら泣かれそうな気がした」そうだ。




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