短編集

日向簪ーひなたさんー

【SS】好転しないでいいものもきっとある

歌田莉奈は、急に暴れだした人間を遠巻きに眺めつつ、ふと思い出した。


突発性心失調症。突然自制心など意識を制御する意識が無くなり、暴徒と化したり廃人になったりする不治の病のこと。

最近この病が世界中で流行っているらしい、と。


(なるほど、あの人がそれか)


『なんのためにてめぇら生きてんだ!?あぁ!?機械見てぇに一生働くためか!?』


(間違ってはないだろ。資本主義根付いた時から労働階級はずっとそうだっての)


『変わろうともしねぇ癖に愚痴だけは一丁前に吐きやがってよぉ!!!あ!?だったら俺が全部ぶち壊してやるよ、おら道開けろごらぁ!!!!』


(あーあ、派手に暴れてらぁ。ありゃ、仕事のストレスが原因かね、お可哀想なこと。…あぁなるなら、不治のままであってくれた方がいいのかもしれないな)


莉奈にとってみれば、突如として暴れだしたあの人間はただの暴徒で頭のおかしい奴でしかない。

だがあの人間にも生活があったはずだ。歌田莉奈という一人の人間と同じように、あの人間も暮らしていただろうに、急にああなっては本人も親族も辛かろう。


騒ぎは遠のくどころかどんどんと大きくなっている。面倒事に巻き込まれたくはないと、莉奈は外していたワイヤレスイヤホンを空いていた耳に突っ込んだ。

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