第11話 天才軍師 高校生を試す

「何を成す……?」


官兵衛の言ってる意味がわからない。僕、普通の高校生だけど。なにか成し遂げたい事なんて……ないよ。


「言い方を変えよう。宗太郎殿は2つのことに悩んでおられるようじゃ。優先するのはどっちだ?」


「待って待って! 官兵衛、いつから見てたの?!」


僕の悩みは2つだけど! あってるけど! 官兵衛は知らない筈でしょ?!


「ワシはこの石に取り憑いておったんじゃぞ」


「まさか……この石を持ってる時からずっと?! 恥ずかしい独り言とかも聞かれてた?!」


「気にするでない」


「するよっ! めちゃくちゃ気にするよ! プライバシーってもんがあんだろ!」


「なんじゃそれは」


「個人情報っ」


官兵衛に個人情報について説明したけど、通じない。


「ふむ……要領を得ないのぉ」


「えっーとね、もう……スマホスマホ……」


「む、なんじゃこの板は?」


「これに聞けば大抵のことは分かるから!」


「なんと! そんな便利なものがあるのか?! 宗太郎殿、見せてくれ!」


「良いけど……幽霊じゃ操作できないよね。なにが見たい? 僕が操作するよ」


「主人の手を煩わせるわけにはいかぬ。どれ……お、おお! 入れる、入れるぞい!」


「え、ちょっと官兵衛?!」


スマホの画面に入って消えた官兵衛に話しかけても、返事はない。


けど、官兵衛は消えてないと思う。官兵衛が僕に取り憑いてから、なにか自分の中に違うものが入っている感覚がする。それが消えてないから、多分官兵衛はいる。


「どうしよう……。スマホをいじったら官兵衛が閉じ込められちゃうかも。と、とりあえず、歴史の教科書でも読もう」


官兵衛のこと、もっと知りたい。


まず教科書を読んだけど、黒田官兵衛の記述はあまりなかった。こんなことなら、あの官兵衛マニアの先生の話をもっと真面目に聞くべきだった。


「あ……そうだ。電子書籍の読み放題にあるかも。明日は休みだし、奏太のとこに行ってから図書館に行こう」


県立図書館がすっごく綺麗で大きいんだ。初めて行った時は感動した。広々してて、あちこちに机や椅子が置いてある。


勉強してる人もいるし、本を読んでる人もいた。ハンモックもあって、まるで大きな秘密基地だ。イベントスペースや工作室もあるんだよ。


気が付いたら丸一日過ごしてたもん。


明日ちゃんと本で調べるとして、とりあえず電子書籍を読もう。誕生日に買ってもらった電子書籍専用の端末を開いて、読み放題を検索する。


「黒田官兵衛……黒田官兵衛と……」


スマホは放置して電子書籍で黒田官兵衛を検索すると、子ども向けの伝記がヒットした。あ、この漫画も面白そう。でも読み放題じゃないのかぁ。


ざっと知りたいから、簡単に読める読み放題の伝記を読む。え……なにこの人、凄くない?!


なんで僕、この人に興味持たなかったの?!


感動していると、官兵衛がスマホからニュルっと出てきた。


「いやあ、インターネットとやらは凄いのお!」


「あ、おかえり官兵衛。良かった無事で」


「……心配してくれたのかの?」


「そりゃあね。いきなり消えたしびっくりしたよ」


「そうか。それはすまなかった」


「いいよ別に。それより、どこに行ってたの?」


「インターネットの世界を旅しておった。外国に行って、美しい教会を見てきたぞ」


「ああ、そういえば官兵衛ってキリシタンだったね」


「よく知っておるのぉ」


「ここに書いてあった。良かった、あってたんだ」


「なんじゃそれは」


「官兵衛の伝記」


「ほぉ……色々と書いてあるのぉ」


「あってる?」


「大体はな。じゃが、ワシはこんなに立派な人間ではないぞい」


「ま、伝記はそんなもんだよ。けどやっぱり本当なんだ。官兵衛は凄いね!」


「……なんじゃその目は」


「僕さ、あんまり官兵衛の事知らなくて。さっき急いで調べたんだ。凄い人が来てくれたんだなーって嬉しくて。官兵衛も凄いけど、官兵衛を呼び出せる光子も凄いよね!」


「……宗太郎殿は、姫に嫉妬したりしないのかの?」


「しないよ」


「最初は便利に使っておっても、脅威に感じて邪魔者扱いしたりしないのかの?」


「あー……もしかしてここに書いてあるの本当?」


「なんじゃこれは。太閤閣下か?」


秀吉の命令で、官兵衛は九州に移った。九州の統治は難しくて……手痛い失敗をしてる。


九州に移したのは秀吉が官兵衛を邪魔だと思ったからって説もあるらしい。あってるか知らないけど、小田原征伐で無血開城したのは官兵衛の活躍だって秀吉が褒めてるし、官兵衛と秀吉の関係が切れたわけじゃないよね。


官兵衛が秀吉を呼び捨てにするなって言うくらいだから、この悪い顔した秀吉はちょっと違うんじゃないかな。


「悪い顔してるよねー。官兵衛が主人公だからこう書いてあるんだろうけど。秀吉様の伝記だとこんなシーンないよ」


「なるほどのぉ。今の世にはこのように伝わっておるのか」


「んー、いろんな説があるみたい。本当はどうだったの?」


「知りたいかの?」


「そりゃあね。けど、言いたくないなら聞かないよ」


「ならば秘密じゃ」


「ん、分かった。官兵衛の今の主人は僕だもんね。僕は天下なんて興味ないし」


「そうか……」


官兵衛がかすかに笑った。


「最初の質問に戻るね。部活も気になるんだけど光子の方がヤバい気がしてて。僕が嫌われただけなら悲しいけど仕方ないかなって受け入れるんだけど……官兵衛がここにいるんだし、嫌われたわけじゃないと思うんだよね。けど、何度連絡しても繋がらないしおかしいんだよ。ねぇ、官兵衛ってスマホに入れたよね? 光子のスマホに行ける?」


「優先順位をあっさり決めるのか……」


「ん? 両方なんとかするよ。官兵衛が来てくれたなら、なんとかなるよね。官兵衛、スマホに入ったら何ができる? これ、光子の連絡先なんだけど、辿ったりできる?」


「……あっさり、ワシを受け入れるのか」


「だって官兵衛を連れてきたのは光子でしょ。なら、大丈夫だよ。光子が知らないって言えば焦るけど」


「豪快な男じゃのう。しばし待っておれ!」


スマホに官兵衛が入り、僕はまた電子書籍を読み耽る。しばらくすると戻ってきた官兵衛は光子の様子を教えてくれた。

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