第5話 外部的要因で折れるフラグ

――思春期真っ只中の波瑠止には気になる、否、(一方的な)想い人がいた。


 分家柳井の家業は、その性質から職人に近い。

 一応銃器メーカーとして制裁を整えているもものの、規模は小さい。

 まして本業がOMEとリビルド中心なのだ。

 彼らの自己認識では、先祖代々の小さな鉄砲工一族と考えていた。

 よって跡取り息子である波瑠止も一通りの鉄砲鍛冶を仕込まれていた。


………分家一家が手ずから作る品は、高級品かつ各自の小遣い稼ぎである。


 その完成品の販売を担ってもらっていた家臣筋に、とある銃砲店があった。

 そこの娘と、波瑠止は(本人的に)良い仲であった。

 

………分家柳井の家格は、ほとんど御家人と変わらないのである。


 和止も止正も、その銃砲店の娘を気に入っていた。

 あとはヘタレの波瑠止が勇気を出して告白すれば終わり。

 その後、彼女が何処かの家に養子になれば終わる話だった。


 だが、波瑠止が本家の家督を得たとなると? 


 答えは分かってる。

 けれど見苦しいことに波瑠止の口は動いた。


「ちょっと待って。となると俺とちがやの婚儀は?」


 祖父は残念そうな顔で、孫を見た。


「茅は女中として雇うのが精いっぱいだ」

「………なんてこった」


 波瑠止は泣いた。

 告白前に、フラグが折れたからだ。

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