悪役王子、王女の化けの皮を剥がす
さて。
ザレックスも拘束し終わり、エルフ王国の圧勝具合も確認できた。
今まではユリシアからのアクションを待つばかりだったが、今度はこちらから仕掛ける番だろう。
「失礼ながら皆様。ひとつ気がかりな点がありませんか」
「む……?」
俺がそう言うと、各国の代表たちの視線がこちらに集まる。
ユリシアやシュドリヒ国王などは、いったい何を言い出すのか不安がっているようだった。
「皆様もご存知の通り、この王城近辺には厳重な警備体制が敷かれているはずでした。それを他国の過激派組織が潜り抜けてくるなど……なにか裏があるとしか思えない。そうではありませんか?」
「ふむ……」
「たしかにそれは私も気にかかってはいたが……」
俺の言葉に、バージニア帝国とオーレリア共和国の代表たちが考え込む。
……各国のトップが殺されそうな事件だったのだ。
言うまでもなく、これは大問題だよな。
ゲーム中ではザレックス襲撃がきっかけとなって物語が急転換を迎えたため、事件の首謀者について掘り下げるのはもう少し先の話だった。
だが、そのシナリオには大きな変更がかけられた。
ゲーム中では《帝国神聖党》を雇い、ミューラを殺害。
そしてこの世界においても、俺を陥れるついでにエルフ王国をのっとろうとした。
作中屈指のクソ野郎――ユリシア・リィ・ヴェフェルドをこのまま放っておけるわけがないんだよなあ。
「ま、まあそれについての考察は後日でいいではありませんか」
当のユリシア本人は、大汗を掻きながら話題を切り替えようと必死だ。
「無事に皆さん生きて帰ることができた。それだけで何よりだと思いますよ」
「ふふ、どうしたのですか姉上。そんなに早急に話題を変える必要などないではありませんか」
「ぐ…………」
「それにご存知の通り、バージニア帝国とオーレリア共和国のトップたちが危険な目に遭うところだったのです。それについての考察を“後日でいい”とは……会談の開催国として、浅慮がすぎるのではありませんか」
「ぬぬぬぬぬ……!」
悔しそうに歯噛みするユリシア。
クックック、効いてる効いてる。
ゲームの知識があるから、こいつが黒幕だってことはもうわかってるんだけどな。
その上で揺さぶるのって、なんか超気持ちええわ。
ミューラという大事なおっぱいを殺した罪は、それだけ重いのだと知れ。
「まあ、そう事を急ぐでないエスメラルダよ」
そう話題を切り出したのは、俺の父――シュドリヒ国王だ。
「そなたの気持ちもわかるが、ユリシアの言い分も一理あるだろう。ひとまずは別の部屋に移動し、心身ともに休ませるのが先ではないかね」
「…………」
でた、ゴミの権化シュドリヒ国王。
こいつもユリシアが裏でテロリストの手を引いていたのを知っている。そのうえで、ユリシアの暗躍が国益になるならばと見て見ぬフリをしていたんだよな。
ここで今、ユリシアが黒幕だと勘付かれたら王国としても非常にまずい。
きっとそういった理由で、ユリシアに助け船を出しているのだろう。
「クックック……」
だが悲しいかな、俺は前世のゲームを三百周もやり込んだ男。
たとえメインシナリオには登場しなくとも、どこにさりげない伏線が仕込まれているのか、どこにストーリークリアのヒントが潜んでいるのか……。
そういったいわゆる“小ネタ”についても、充分に把握しているんだよな。
「姉上。あなたの執事……たしかハマスといいましたか」
「へ? え、ええ……」
「たとえ
「え…………⁉」
一瞬にして表情を青ざめさせるユリシア。
「や、やめてちょうだい! どうしてそんなことを……!」
「おやおや、どうしてそんなに狼狽なさっているんです。この事件について、当然姉上は関与していないのでしょう?」
「ぐぐぐぐ……!」
そういってユリシアが歯ぎしりをしている間に、俺は
「そういうわけで、ハマスの部屋を探れ。特に、ドアの真正面にある机の……鍵のかかった引き出しを重点的にな」
と近くにいた兵士に命じる。
「し、承知しました……!」
と言って、兵士たちはすたすたとのその場から退室していった。
その間ずっと、ユリシアは力なく項垂れていた。
――――そして、数分後。
「エ、エスメラルダ王子殿下、発見しました!」
命令を下した兵士が、なにやら興奮した様子で戻ってきた。
どうやら二枚の紙を右手に持っているが、そこにはそれぞれこう書いてあった。
――神聖帝国党 暗殺依頼書――
――エルフ王国 エルフ誘拐計画書――
「な…………‼」
「こ、これは、なんという……⁉」
その場にいる誰もが、大きなどよめきを発した。
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