悪の王国を作ろうとしているのに尊敬されまくってる件

 クックック……エルフというのは実にちょろい種族だ。


 あのザコ鬼を倒したことが、なぜかエルフに慕われることになったきっかけらしい。


 だがやはり、あの鬼はゲームにおいてゴミクズみたいな立ち位置でしかなかった。


 どちらかというと本命は奥にある宝箱のほうで、《エルフリア森林地帯》でレベルアップしまくった俺には取るに足らない相手だったのだ。


 そんなザコ鬼を倒したくらいで俺に心酔するとは……。


 クックック、エルフはチョロイン顔負けの民族だな。


 もちろん、悪の王国を築きたい俺にとっては、この状況は願ったり叶ったりだ。


 今のうちに信頼させておいて、あとで社畜のようにこき使う。そしておっぱいの大きい女には常に俺の傍にいてもらう。

 そのための足掛かりとして、せいぜいエルフたちには俺を崇めてもらわないとな。クックック……。


 そういうわけなので、俺の陰謀を邪魔する者は断じて許さない。


 時おり第三師団の兵士と思われる人間が偵察しにきていたが、問答無用でぶっ飛ばしておいた。


 まだ懲りずにエルフを誘拐しようとしているあたり、ユリシア王女は相当に焦っているらしいな。


 巨乳エルフを誘拐しようとしている兵士、魔力の高いエルフを誘拐しようとしている兵士……。


 そうした奴らの気配を感じ取り次第、俺は寸分の迷いなく追い払ってやった。


 そしてまた、助けられたエルフたちが純粋なんだよな。


「エスメラルダ様は命の恩人です!」

「わ、私の家はあまりお金がなくて……。私の身体でよければ、その、自由にしていいですから」


 こんなふうに言ってくるもんだから、もはや笑いが収まらない。


 エルフたちは結局、俺の王国を築くための足掛かりに過ぎないのにな。


 それなのにここまで感謝してくるとなれば、やはりチョロい民族である。


 ちなみに身体を売ろうとしてきたエルフについては、もちろん丁重に断っておいた。


 当然あのおっぱいを触りたいところではあったが、ここは恩義を売っておくことのほうが最優先だからな。


 目先の欲望に捉われることなく、大局を見る。

 これもまた、かっこいい悪役のためには必須な条件であろう。


 この作戦が功を奏したのか、俺を祝福するためだけに、エルフたちがパーティーを開催してくれることになった。


 王国中から高級食材だけを取り揃え、実力の高いシェフだけが集まり、有名な音楽家が訪れて演奏を行う……。


 どこからどう見ても金がかかっているパーティーで、やはり俺は笑いが止まらない。


 この心酔っぷり……俺の王国建設は着実に近づいていると見ていいだろう。


 本当はもっと露出の高い巨乳エルフを置いてほしいところだが――まあ、それは後々の課題だな。


 そのパーティにおいて、俺は不審な気配をいくつも感じ取った。


 考えずともわかる。

 またしても第三師団の奴らだろう。


 だから別途、俺はミルアを呼びつけることにした。


 いきなり「私はえっちな女なのです」と言われたものだから当初は面食らったが、酒は入っていなかった。


 そして――パーティ会場のバルコニーにて。


「まずは鼻血を拭け、ミルア」


「も、もももも申し訳ございませんエスメラルダ王子殿下……」


 なぜか俺に見つめられて鼻血を噴出したので、ひとまずティッシュを差し出してやる。


 見るからに堅物の女なのに、よくもまあ、ここまで俺に溺れてくれるもんだよな。


 そして数分後、ミルアの体調が落ち着いたのを見計らって、俺はこう切り出した。


「剣帝のおまえだからこそ問おう。……感じないか、不穏な気配を」


「……ええ、さすがは王子殿下です。第三師団の兵士たちですよね」


「ああ。その通りだ」


 さすがは世界最強の剣士、剣帝ミルア。

 訳のわからないことを呟きつつも、その気配にはきちんと気づいていたか。


「もう間もなく、仕掛けてきそうな動きだ。今までとは違って気配の数が多いから、絶対に気をつけろよ」


「承知しました……!」


「わかっているとは思うが、エルフ側にはひとりも犠牲者を出すな。誰も傷つくことなく、決死の覚悟でエルフを守り抜く……。これが俺たちの使命だと思え」


「もちろんです! ヴェフェルド王国にはこびる悪を正すための剣として、精一杯頑張らせていただきます」


 うお。

 なんだか知らんが、めちゃくちゃやる気なのは助かることだな。

 ミルアがいてくれれば、それだけで作戦の成功率は高まるだろうし。


「クックック……。王子殿下のために、私、頑張ります。クックック……」


 なんだか笑い方とセリフが噛み合っていない気がするが、まあそれは放っておく。


「あとでローフェミアにも伝えておいてくれ。おそらく第三師団の連中は、このパーティーをきっかけにして何かを企んでいる」


「かしこまりました! クックック……」


 おい、やっぱりそれ変だからやめろ。


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