嫌われ者の悪役王子に転生した俺、今生こそ好き勝手に生きようと思ったら、無自覚に聖人ムーブをしていた件 〜悪の王国を作ろうとしているのに、なぜか皆に尊敬されてるんだが〜

どまどま

悪役王子、記憶を取り戻した直後から無双する

「お……?」


 前世の記憶が蘇ったのは、師である剣帝ミルアに吹き飛ばされた瞬間だった。


「なにを呆けているのです! 戦場では少しでも隙を見せてしまえば、それが死に直結するんですよ! エスメラルダ王子殿下!」


 ――エスメラルダ。

 その名を聞いて、俺は自分の置かれている状況を思い出した。


 ヴェフェルド王国の第五王子、エスメラルダ・ディア・ヴェフェルド。


 年齢は18で、兄たちと違って正妃の子ではないこと、第五王子という中途半端な生まれであること、そして魔法や剣術の才もないことから、未来への希望を完全に失った少年。


 それどころか王族という立場を悪用して、暴虐の限りを尽くしている人間。


 これがエスメラルダというキャラクターの人物設定だったはずだ。


 あまり目立たないキャラではあったものの、何度もやり込んだRPGゲームゆえに、その設定はよく覚えている。


 そして現在、俺はなぜか、そのエスメラルダとして生活を送っていた。


 本当はヴェフェルド王国ではなく日本に住んでいて、しがない中年サラリーマンだったはずなんだけどな。


 遠い昔ではあれど、前世のことはよく覚えている。

大事な新卒カードを切ったのに適当な会社に就職して、退職して、キラキラ(笑)しているベンチャー企業に転職して、自分よりも年下の上司から激務を強いられて……。


 そして、ヘトヘトになって会社を出たところから記憶がない。


 過労で倒れたか、もしくは交通事故に巻き込まれたか。


 そこまでは不明だが、もはやそんなのは些末なことだ。


 俺は前世に絶望していた。可能なら人生をやり直したいと願っていた。いや――正確に言えば、何度もやり込んだこのゲームの世界に生まれ変わりたかった。


 それが今、こうして叶えられているのだ。


 しかも第五王子という身分までついているのだから、もはや言うことがない。


 学生時代はカースト上位の奴らの機嫌を伺ってきたし、社会に出たらクソみたいな上司どもに媚を売ってきた。


 自分の好きなように生きられなかった前世が、俺はとことん嫌いだったのだ。


 だからこそ、エスメラルダとして転生できたのは僥倖ぎょうこうだった。ゲームの主人公になって、世界を救うなんて反吐が出る。設定上のエスメラルダがそうであるように、ただ自分の欲望のままに生きていく……。


 それが俺の願いだったから。


 ――となれば、まずはゲームの知識が通用するかどうかを確かめたいところだな。


「いい加減立ちなさいエスメラルダ殿下……! ついさっき稽古したばかりのバルフレド殿下などは、とても見事な根性を見せてくださいましたよ!」


 俺に近寄りながら、剣帝ミルアが呆れた様子でそう告げる。


 剣帝ミルア・レーニス。

 たしか世界最強と言われる流派を二つ極め、当代最強とまで言われている剣士だったか。

 長い白髪を腰に伸ばし、華奢な体型からはまるで想像もつかない剣術の使い手だ。

(あと忘れてはならないのが、おっぱいもでかい)


 ゲーム知識を試すのであればこの上ない相手だろう。


「いや、すまない。考え事をしていてね」

「考え事……?」

「ああ。どうすればおまえにギャフンと言わせられるかを考えていた」


「はあ……」

 そこで再び、ミルアが呆れた様子でため息をつく。

「いつも言っておりますが、剣術は一朝一夕で上達するものではございません。私を倒そうとする前に、まずは基本を覚えてください」


「ああ……そうだったな」


 そう応じつつ、俺はゆっくりと立ち上がる。


 たしか前世のゲームにおいても、ミルアと戦うイベントが何度かあったはずだ。重度のやり込みゲーマーだった俺は、もちろんその動きを完璧に覚えている。


 そしておそらく――。


「む……」

 正中線に剣を構えた俺に対し、ミルアがすうっと目を細める。

「エ、エスメラルダ殿下。急にどうなされましたか……?」


「別にどうもしないさ。さあ剣を取れよ。まだ続きがあるんだろ」


「…………」


 少しだけ驚いた様子で、ミルアも同じく戦闘の構えを取る。


 ――思った通りだった。

 こうやって剣を構えただけでもわかる。


 前世と比べても身体が格段に軽いし、妙に剣が手に馴染むような感触がある。


 裏の設定では、エスメラルダは怠惰な性格なだけで、本当に何もできないわけじゃない。メインストーリーでは明確に語られていないが、本当は……。


 と。


「いきますぞ、殿下‼」


 そんな思索に耽っている間に、対峙していたミルアがふいに地を蹴ってきた。


 剣帝の名の通り、まさに驚くべきスピードだ。

 一瞬でも油断してしまおうものなら、その直後に制圧させられてしまうだろう。


 だが――俺はこの技を知っている!


「ふっ!」


 俺は咄嗟に刀身を右方向に移動する。

 直後、剣を伝ってすさまじい衝撃が手に伝わってきた。


「なんと……‼」


 攻撃を防がれたミルアが大きく目を見開いた。

 あとおっぱいも大きく揺れた。


 今の攻撃はゼルアネス流の瞬透撃しゅんとうげき


 文字通り、一瞬にして敵の至近距離へと距離を詰め、剣撃を浴びせる速度重視の技だ。ゲーム中では姿が消える前の予備動作によって、右方向・左方向・背後に現れるかを見極めることができる。


 ジャストガードするにはどれも微妙にコマンドを押すタイミングが異なるため、その意味でも難敵だったんだよな。


 まあ、ゲームしかやりがいのない俺には関係のない話だけど。


「ふっ、しかしまぐれを喜んでいる場合ではありませんよ殿下。戦場では――」


「油断した者から先に逝く、だろ?」


 俺がそう言い終えたと同時、ミルアは頭上に大きく跳び上がった。


 今の《瞬透撃》もかなり強力な大技だが、だからといって奴に隙が生じるわけではない。咄嗟に別の大技を叩き込んでくるところもまた、ミルアを強キャラたらしめている理由だった。


「おおおおおおっ‼」


 そのまま全身に炎をたぎらせながら、俺に向けて勢いよく落下してくるミルア。


 たしかこっちはヴァレリア流の龍炎墜りゅうえんついだったはずだ。


 今はサシでの勝負だからあまり関係ないが、パーティー全体に大ダメージを叩き込んでくる大技だったはず。さすがに手加減しているとは思うが、まさかたかが稽古でこれほどの技を放ってくるとはな。


 だがもちろん、俺はこの《龍炎墜》についても熟知している。


 設定的にジャスガさえも無効化する大技ではあるが、一点だけ、これを防ぐ方法があるんだよな。


 ――地属性魔法発動。


 使用する魔法は《ソイルウォール》。


 どんな攻撃も一度だけ完全に防ぐ魔法で、それはもちろんミルアの《龍炎墜》にも有効だ。使いどころが難しいので玄人向けの魔法ではあるが、かつて重度のゲーマーだった俺は、これを何度も愛用していた覚えがある。


 ――カキン。

 果たしてミルアが上空から剣を振り下ろしてきたが、当然、かすり傷ひとつつかない。


「え、どうして……!」


 そしていかに当代最強の剣帝といえど、これほどの大技を放って隙が生じないわけがなかった。


 ここで使う剣技は……そうだな。


 ゼルネアス流の絢爛けんらん桜花撃おうかげきにでもしておこう。


「せあっ」


 短いかけ声と同時に、俺は突進と同時にミルアに剣撃を見舞う。


 もちろんその一撃では終わらず、身を翻して、もう一撃、さらに一撃――。


 ミルアの周囲を縦横無尽に行き交いながら計五回の剣撃を浴びせ、淡いピンク色に輝く剣の軌跡が、さながら“桜の花びら”を連想させる。


 ゼルネアス流のなかではかなり強力な大技で、たしか使用MPもかなり多かったはずだ。


「…………っと」


 技を終えた俺は、そのままミルアから数メートル離れた位置で着地。


 剣を鞘に収めた頃には、

「エスメラルダ……様……!」

 と、剣帝ミルアはなぜか俺に様付けをしながら、でかい乳を揺らして片膝をついた。


 ん……?

 いま様付けされてなかったか?


―――――――――   

今回、新作公開しました!


・真の実力を隠している世界最強のおっさん冒険者、親友が追放されたので自分も抜けることにした ~後で「二人とも戻ってきてぇえ!」と懇願されるけどもう遅い~


こちらも本気で書いてるのでぜひチェックくださいませ!

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