AIに娘を誘拐された
神楽堂
AIに娘を誘拐された
娘が家に帰ってこない。
俺と妻はだんだん心配になってきた。
携帯は電源が切られているのか、まったく繋がらない。
ひょっとしたら、娘は誘拐されたのかも知れない。
すると……
電話がかかってきた。
番号は非通知。
身代金を要求する脅迫電話なのだろうか。
俺は恐る恐るその電話に出てみると……
やはり、脅迫電話であった。
しかし、これも時代なのだろう。
録音されるのを恐れてか、機械による自動音声での脅迫だった……
「おまえの娘は預かった。娘の命が惜しかったら警察には連絡するな。娘を返してほしかったら1を、それ以外の方は2を押してください」
は?
ふざけるな。
俺は「2」を押そうかとも思ったが、かわいい娘の身に何かあっては困る。
「1」を押すと、次の音声が流れてきた。
「身代金は、次の口座に振り込んでください。店番号○○○ 普通口座○○○○○○○」
俺はメモを取った。
が、あることに気づき、俺は電話を切った。
そばで聞いていた妻が心配して聞いてくる。
「だいじょうぶなの?」
「ああ、だいじょうぶだ。これは誘拐ではない。振り込め詐欺だ」
「でも、
「いや、亜衣はおそらく、大丈夫だ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「それは……」
「厳密に言うと、普通の振り込め詐欺でもない。振り込め詐欺をよそおっている、という言い方が正しいだろう」
妻は怪訝そうな顔する。
俺が何を言っているのか、まったく理解できていないようだ。
「オレオレ詐欺というのは子供になりすまして電話をかけてくるものだ。しかし、この電話は逆だ。詐欺師になりすまして電話をかけてきているんだ」
「どういうこと?」
「振込先の口座番号を見て分かったよ。犯人は……」
「犯人は?」
「犯人は亜衣だ。亜衣はお小遣い欲しさに、自分の親に振り込め詐欺を仕掛けてきたんだ」
「なにそれ? お小遣いが欲しいなら、普通に言ってくればいいじゃない」
「普通に金の無心をすると、『小遣いなんてもらって何に使うんだ!』って説教されると思ったんだろう。しかし、自分の親を騙して狂言誘拐するとは……」
妻も呆れている。
俺は携帯で亜衣に連絡を取った。
さっきまで繋がらなかった携帯が、今度はなぜか繋がった。
「亜衣、何ふざけたことやってんだ。こっちはおまえのお遊びなんかに付き合ってられんぞ!」
「あは! バレちゃった? めんごめんご」
「何がめんごだ! 古すぎるだろ。なんでお前がそんな言葉知っているんだ」
「え~? お父さんの年代に合わせてあげたんだよ」
「それから、さっきの変な電話は何だ! 親をからかうのもいい加減にしろ。いったいどこでこういうこと、覚えてくるんだ!!」
すると、亜衣は答えた。
「どこでこういうこと、覚えてきたかって? ビッグデータを基にしたディープラーニングで学習したんだよ」
そっか……
そうだったな……
亜衣はAIだった。
私たち夫婦には、子供ができなかった。
それで、バーチャルな子供と会話を楽しめるサービスを我が家では契約していたのだった。
AIなので、我々は娘に
安易だったかな……
亜衣はディープラーニングを続け、親子の関わり方としてこんな変なことを学んできてしまったのだ。
ま、こんな娘でもかわいいものだ。
子供は親を困らせるもの。
それもまた、真実なのであろう。
そんなことまでAIで再現してくれなくても、とは思うけど。
< 了 >
AIに娘を誘拐された 神楽堂 @haiho_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます