第4話、人生は十分に長く、有効に費せば、最も偉大なことも完成できる

・・・・・・・


公演開始時間になる。

俺は喉にヒステリー球を感じている。苦しい。


本来、嫌なら見ない。それが一番正しい。

しかし怖いもの見たさでここまで来てしまった。


今宵、就任するオーケストラの指揮者は随分と奇抜な格好だ。いわゆる「指揮者」カラヤン様などを想定していると、完全にイカれてる。


しかも置いてあったパンフレットを見る限り、左側な経歴だ。正統派、つまりヨーロッパ系ではない。


まあ、正確に言えば「エグゼクティブプロデューサー」とかいうようだ。意味がわからん。


しかし、オーケストラとポップミュージックの融合、か。「ユニコーン」の「大迷惑」が真っ先に浮かんだ俺は、完全に年寄りだな。


しかしてなるほど。これは確かにゲストが「音楽家」な訳だ。妙に納得した。


特別な挨拶なしに、オペラ「Carmen」の第一幕前奏曲が流れる。生演奏でカルメンを聴いたのはいつ以来だろう。このオペラだと一番有名な曲ではある。


しかし、カルメンとは。原作でもオペラでも束縛されることを徹底して嫌い、自由であることを求めるカルメンは確かにこの奇抜な格好の指揮者は好きそうだ。


だが、最期カルメンは刺し殺される悲劇のオペラである。


就任披露公演の初曲に選ぶとは、なかなか見た目通り奇抜なとは思った。そして「自由」を愛している「音楽家」様とは共通する「何か」があるのだろう。


次の曲はわからない。隣のアイドルオタク感溢れるお兄さんは嬉しそうにしているから、昔のアイドルの曲なのかもしれない。


二曲目が終わるとオーケストラのコンサートなのに、司会者が出てくる。


司会者は次の曲の説明と指揮者の説明をしている。

説明が必要な指揮者ってどうなんだ?とは思うが、それだけ変わった指揮者なんだろう。


また、知らない曲が続く。綺麗だとは思うが、感動するほどそこまでではない気がする。


次に司会者が現れた時、会場内に有名人がいると告げて辺りが騒々しくなった。


誰かわからないが有名人なんだろう。

ざわついている。


いや、司会者さん。それを言っていいのか?人が押し寄せるのでは?と思いながら、時間と曲は進み続ける。


この指揮者、おそらく指揮者としては「普通」だと思う。


Berlin Philharmonieとかで聴いたグルーブ感というか圧倒的な音楽には、なっていない。


WienとかDresden、Beethoven Orchester Bonnにも追いついていない感じがする。おそらく会場のせいだけではないだろう。正統派の音楽はカルメンのプレリュードのみで判断がしにくいが、セミプロが率直な感想である。


ただ、いわゆる交響楽団をバンドの代わりにするとか、指揮者が指揮台から降りてピアノで演奏するなど、見た目通りなかなか奇抜だ。アイデアで生き残りをかけるタイプか。


指揮者の特徴としてはミュートの使い方が上手いとは思った。きちんと「無音」を出している。


全体的な感想としては「異端」。

ただ、面白いとは思った。

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