第55話

 月明かりに照らされ、凛として立つ姿はまるで女神のようではある。


 一大事なところは影になっていてトニカクよくわからないが、真っ白な肌と呼吸だけで跳ねるおっぱいだけははっきりとわかる。


 CかDである。


 廃校とはいえ、学校の廊下に恥ずかしげもなく立つ姿は耽美と言うか、非現実感しかもたらさないが、存在感はここに強くあった。


 流石はエロ漫画世界。


 全然前世より凄まじい迫力だ。


 だが、彼女は真っ赤なベネチアンマスクを被っていた。


 つまるところ変態系痴女である。


 黒ビニールクニオと合わせての、ここは夜の仮面舞踏会上であったのだ。



『さ、殺人鬼…!?』



 そんな事を彼女は言ってきたが、俺もそうだった。


 その13日な花金仮面はともかく、それより何より月明かりに反射したその珠のように磨き上げられた記念碑みたいな二つのその頂きが俺にはどうも見えないのだが。


 何ということだ。


 このエロ漫画世界にもレイティングの影が…!?


 くそっ! ああ、昔は良かった。エロ漫画ではないのにあのダーリン駄目だっちゃ娘はモロ出しで表紙を飾り、お湯に浸かると逆転女もモロ出しでお茶の間をざわつかせていたのに一神教は本当に厄介だ! すぐ我々の自由を正義の名の下に奪ってきやがって! 余計閉塞的になるし差別は加速するんだよ! オメーらだけでやれや──って、何かくっついてないか…?


 くそっ! 悪しきヌーブラかっ!


 いや…何か違う…な…?


 先端だけ何か変だ…ぞ…?


 見たことないが、あれがニップレス…か?


 くそっ! ハート型の黒とか赤しか知らないぞ!



『今日は金曜日か…ふふっ、あなた面白いじゃないっ!』


『は、え? いや、それ隠した方が…』


『ふ、ふんっ、本当は開眼したなら見せてあげるのだけど、減るものじゃないし構わないわッ!』



 いや減るだろ。尊厳とか恥じらいとか女として何か大事なものが減るだろ。


 むしろ絶賛減ってる最中だろ。


 つーか何してんだよ、美麗さんよぉ。


 それに海岸ってここはヌーディストビーチじゃねーんだよォォ。



『さぁ! 私に相応しいかどうか試してあげるわっ!』



 そう言って彼女はぷるんと胸を張った。


 先端問題はともかく、相応しいも試すの意味もよくわからないが、確かに綺麗だし魅力的だが俺にはいろいろ無理である。



『いや結構です。あっしはこれで』


『へ? ま、待ちなさい! 私のこの身体を見て何も思わないの!? それでも男なのッ!』



 思わなくはないし、男は男だがまだ男の子でありXデーはまだなのだ。このままだとなし崩し的に性犯罪者になってしまう恐れがあるのだ。


 彼女が。


 それに男にはヌけるジャンルというものがあってだな。それはつまりイコールヌけないジャンルがあるってことでだな。


 普通の小学生ならピンコ勃ちだろうが、小生、転生者であるのだ。


 こんな展開の、しかも変態系痴女は不得意分野で畑違いでほぼ全裸と言えどエロスの解釈違いなのだ。


 ここは恥から逃げるが勝ちである。



『君は綺麗だ』


『な、何よ。わかってるじゃない。大変なのよ、日々のお手入れは』


『その研鑽は見ればわかる。素晴らしい』


『そ、そうでしょう、そうでしょう』


『ハラショー、スパシーバ』


『まあ、そう言ってしまうのは当然よね』



 うんうん頷く美麗を横目に俺はそんな風に返しながら身振り手振りを交えつつ、彼女の横を通り過ぎようとしていた。


 もし仮に天華と同じようなスペックなら、ここから距離を取らないとすぐ追い付かれてしまうのだ。



『ああッ! なんて君は美しいんだッ! 神が創り賜うたまさに罪の果実ッ! 醜い俺に君は眩しすぎるッ! じゃあそういうことで』


『…ふぅん。貴方の考えはよくわかったわ』



 そう彼女は暗く言ってダラリと腕を下ろした。


 やっべ、やり過ぎたのか…?


 何に納得したのかはわからないが、下手に刺激は与えたくないのに俺の馬鹿ッ!!


 それもこれもオメーの身体が美し過ぎんのが悪いんだよッ!!


 つまり邪神のせいなんだがなッ!


 ここは早歩き、いや、膝に負担をかけない競歩スタイルでヌルヌル腰をくねらせながら離脱しなければ!


 すると彼女はまあまあ大きな声で言った。



『だからこそこの女神たる私が貴方を解放してあげるわ!!』



 うげ!? 尾いてきた!?


 こえぇぇぇよぉぉぉぉッ!!



『いらないって言っただろッ!』


『醜いアンタだからよ! きっと抑圧されているはずだわ! だから早く脱ぎなさいッ!』


『変態か!』


『変態じゃないわッ!』



 その言葉に俺は立ち止まった。


 いや、変態以外何があると言うのだろうか。そういえばクニオは何故あんな目に…? 彼女に試された結果…? 何をすればあんなダンスを…。


 すると彼女は右手を差し出して宣言した。



『聞きなさいッ! これは魂の解放なのッ! 七つあるチャクラを開く儀式なのよ! そしていずれ宇宙意識とつながり最高の智慧が得られるの! だからアンタも開眼したらイジメなんて…あっ! こら! 待ちなさい! 人の話はちゃんと最後まで聞きなさいって習わなかったの!』


『オメーは道徳置いてきてんじゃねーよ!!』



 駄目だ!


 やっぱり何言ってるかわからない!


 だから俺はまた速度を上げたのだが彼女はまだ尾いてきていた。


 イヒィィィッ!!



『きっと真っ白な世界を知れば争いは無くなるわっ! 私に委ねなさい!』


『いったい何の話だよッ!』


『宇宙の話よ! バカなのアンタ!』


『バカはオメーだろッ! もうがっかりだよ!』


『なんですってぇ!』



 ますます意味がわからない! 


 そしてようやく元来た出口に辿りついた。

 

 しかし鍵が開かない!? だとぉッ!?



『嘘だろ?!』



 ここじゃなかったのかッ!?


 くそっ! 出口はどこだよッ!


 ぎゃー! 来たァァァァアア!!





 そうして二階に逃げて来たのだが、どうやって出ればいいのか。いっそ窓ガラスを全て叩き割ってしまおうか。


 いやそれは美麗15の夜の役目である。


 俺じゃない。



『はぁ、はぁ、そんなこと言ってる場合じゃないか、はぁ、はぁ、んぐ、はぁ、あん…? なんだ…? 今何か…』



 真っ暗な外に、蠢く何かに俺は気づいた。


 何だ? 何人か人が集まってる…?


 まさかッ!?


 さっき美麗が言ってた「言ってた子」ってこの事か…?!


 乱パとか馬鹿なのかッ!? 

 

 花山院家は国会議員の家柄だぞ! こんなの醜聞が悪すぎて天華と菊川の未来もわからなくなるだろうがッ!


 それにこんな痴態など隠せるはずがないし、もしかすると美麗を助けるために動き出してのネトラレラになるかも知れないだろッ!!


 天華はああ見えてしこたま優しいんだぞっ!!


 あんのアマァァァ…やはり原作通り天華の前に立ち塞がる気か…!


 それは許さんぞ…!



『はぁ、はぁ、駄目だ、早くなんとかしないと…あ、あれ? はぁ、はぁ、んぐ、はぁ、な、なんだ…? あっ、ぐ、はぁッ、はぁ、身体が…熱ぃ…! いし、意識が飛び、そうだ…!』



 まさか新型の…? いや、まだ時代じゃない…!



『はぁ、はぁ、そう、いえば、はぁっ、はぁっ、イン、フラは生きてんのか…? ングッ…!? はぁーっ、はァーッ、ハァーッ』



 駄目だ! 喉が異常に乾く…! み、水だ、水が欲しい…! 水飲み場、給食…いや、保健室…トイレは違う…違う、違ウ、オレは行かねバァァァッ!!

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