第43話 @二階竜也
南海はあのデブによって気絶させられたらしいし、じゃあいったいどうすれば良いんだよッ!
ゲームと違って選択肢なんてないんだぞッ!
「カンテラの祝福」はSLG要素が入った恋愛ADV。ルート分岐をミスると主人公を置き去りにストーリーが進むことがある…彼女達ヒロインの「カンテラ度」を見れば今どんな状態かはわかるけど、まだ原作は始まってないし、綾小路小夜にもそんなものはなかった。
リアルだとこんなに無力なのか…?
くっ! 萌美…萌子たんッ…!
そ、そうだ、大地だ! あのノロマは何やってるんだッ!! ゲームではあんなことはなかった─────なかった…か…?
あ、そうか。はは。
大丈夫だ。ゲームの強制力によってあんなのすぐ見つかる。
なぜならそれが原作だからだ。
萌子は幼い頃、変質者にイタズラされそうになる。
でもそいつはすぐに捕まるんだ。
それがこれだったんじゃないか?
テキストだけだったからわからないけど、かぼちゃヘッドはタクシーを使った。運転手も嫌がる相手くらいわかるだろうし、多分、原作のようにそれがトラウマになるんだ。
きっと。多分。
でも、じゃああいつらはなんでトイレなんかに…途中連絡してもいいじゃないか。
何のためにスマホあるんだよ…。
これだからゲーム世界のNPCは…。
『二階…二階! おい、行くぞ』
『あ、ああ…』
しかし、僕がモブを動かしたからかな…? でも…もう少し幼い頃の話じゃなかったっけ? 僕が勝手に思い込んでいた…?
ハーレムルートだからかな…?
そんなことをいろいろ思い出したりしながらトイレに向かうと、足元からぴちょりと音がした。
『…うわっ、何だこの水…ちゃんと掃除しろよ──』
『それは槍雄のしょんべんだ』
『げッ!? さ、先に言えよッ!! 濡れただろッ! ああ"〜〜くそッッ!』
『大じゃなくて良かったな』
『良かったじゃないよ! お気に入りの靴が汚れたんだぞッ! くそくそくそッ!!』
『靴ぐらい洗えばいいだろ…いない。…いない』
ラピトは溜息を吐きつつ、個室の扉を一つずつ開けていった。
こいつ…。僕のバッドステータスにため息とか…腹の虫が治らないけど、確かに今はそんなこと気にしてる場合じゃないし、許してやる。
『多分ここだ』
そうして一番奥のドアを開けるとそこには南海がいた。
あのかっこいい棒が、右手から左手の服の袖をまっすぐ横に貫いていて、ビニールテープで両足がwみたいな格好に固定された、恥ずかしい格好で便座に挟まっていた。
今にも流したくなる衝動に駆られそうになる。
『これは……ひどい…な…』
これは流石に可哀想だ…鬼畜すぎる。
こんなの晒されたら僕なら死ねる。
だから僕はスマホですぐに撮った。
『二階…お前、声が笑ってるぞ』
『笑ってないし。お前も早く撮れよ』
『ああ…いや、これは…』
ラピトはなんかごちゃごちゃ言って戸惑ってるけど、「これを妹に見せてやりなよ」そう言ったらようやく撮りやがった。
僕一人だけに罪を被せようとかセコイ奴だ。
だけどここまでする奴なら、萌美は本当に大丈夫か? ゲームにはそんなスチルなかったからわからないけど、ハーレムルートはR18のエロゲーってやつだったら…?
やった事ないけど…。
というか「主人公は勉強できません、部活やってません、バイトしてません、顔普通です、でもモテます」っておかしいだろ…!
慎一郎じゃあるまいし!
ちゃんと僕みたいに努力しろよッ!
ああ情報が欲しいッ!
何でこの世界にカンテラが無いんだよ!
そんなの当たり前か…。
『ああ、可哀想な僕……鬱だ…』
『お前はさっきから何をぶつぶつ言ってるんだ…もう写真はいいだろ。とりあえず槍雄を殴ろう』
『殴らないよ! 馬鹿か!』
こいつ無茶苦茶か!
これだから加減の知らない底辺は困る。
足がついたらどうするんだ。
『…馬鹿だと…?』
『い、いや、これ以上は馬鹿らしいだろって意味だよ。あとは他のやつ呼んで救出──』
『この姿を見せたら、またまとまらないぞ?』
『…え? あ、ああ、裏で飼えってことだろ。知ってるって。お前を試しただけだよ』
『…』
『な、なんだよ』
『いや、別に』
こいつ、成績悪い癖にそういうとこ頭回るよな……変な名前のくせに。変な名前のくせに。
ただ勘違いするなよな。
僕は考えながら撮っていたから頭が回ってなかっただけだ。
もしこんな風に萌美が汚されていたら僕には無理だしいらないって思ってただけだからな。
でも媚びるなら側に置いてやってもいいか…。攻略してからそこはちゃんと聞き出さないといけないな…。
何が悲しくてゲームの世界でも汚れなきゃいけないんだ。
それによくよく考えたらハーレム全員毎日相手にしてられないしね、うん。
惜しいけど、萌子の攻略の優先順位は下げるか…それにピンク髪ヒロインはまだいる。
カズミンとヒロミックスだ。
でも今のカズミンはデブだし、ヒロミックスは一人ピリピリしてる時期のはずなんだよね…。
『なら外すぞ…他の奴に見られる前に…って二階、おい聞いてるのか?』
『ああ、聞いてる聞いてる』
『……』
よーし。今はピカ小の平定と、天華…つまり天サンへの接触だ。
そういえば南海って天サンと同じ塾行ってなかったっけ? サボり過ぎて辞めてたよね。
つまりこれは…好都合じゃないのか?
また南海を塾に行かせることが出来たなら、感謝されて南海家に食い込めるんじゃないのか?
そして南海グループを使えば、もしかすると天サンのお姉さんとも仲良く……ゲーム内で出てくるキャラも攻略出来るとか…?
なんかいけそうな気がしてきた。
そうだよ。やっぱり金と権力だよ。
南海経由で集めれば攻略も可能だろう。
それこそ慎一郎の妹とかさ。
『くっ、ははっ…』
そうして天窓から空を眺めると、雲間から一筋の天使の梯子が降りてきて、僕に降り注いだ。
それはまさに、あのカンテラの光が、僕を祝福してるかのようだった。
『おい! いい加減にしろ! 手を止めるな! 笑ってないで早く手伝え! 他の奴来るって言ってるだろッ! アホか!』
『ヒッ!? わ、わかってるって! お前こそ大きい声出すなよッ』
モ、モブ底辺の癖にアホとか生意気な……こいつもあいつらみたいにいつか絶対報いを受けさせてやるからな!
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