第8話

 綾小路夫妻。


 ネトラレラの宝石、綾小路小夜の両親である。


 原作においては、慎一郎を可愛がり、小夜が裏切っているなど最後まで知らない二人である。


 NTRされたとようやく知った慎一郎に無自覚にも小夜との将来や希望を語り、その取り返しのつかない絶望を更に煽る存在であった。


 ちなみに名前は綾小路誠、綾小路陽子である。俺の親父殿も含めて主人公みたいな名前なのである。




『慎一郎くん、本当にありがとうな』


『ありがとうね』



 その夫妻に、小学校に上がるタイミングで改まってお礼を言われた。何の話しなのか。


 俺のクレヨンの件だろうか。



『あんなに元気になるなんて…ね』


『そうだな…』



 やっぱクレヨンの話だろうか。


 内容はともかく子供のイタズラだし、どちらかと言えばエンゲル係数や、シャワーの間違った使い方を教えてしまった罪悪感しかないのだが。


 笑った顔が怖いのである。



『夜泣きもなくなったしね』


『ああ、慎一郎くんに出会ってからだよ』



 どうやら違う話らしい。


 話を聞けば、彼女はあまりの可愛さのせいで誘拐未遂に遭ったらしく、引っ越してきたのはそのせいなのだと言う。


 本当に未遂、だろうか。


 そうであればいいのだが、詳しい内容は聞く勇気がないし、教えてくれるとも思えない。


 そもそも七歳の男の子に打ち明ける話ではないと思うが、そんなことより、そんな設定、事情、過去描写などは知らないのである。


 原作で語られてないだけだろうか…。



『しんちゃん、けいさんカードおわったよ〜今日はすもぐりしょうぶしよー』


『あらあら、ママとお話してたのに』


『小夜、騒ぎすぎるなよ』


『もちろんでありんす』


『慎一郎くん、変な言葉使いだけはやめてくれ』


『…いえす』



 子供はすぐ真似するのである。


 しかし…確かに過去描写には大きく成長した小夜に無数のいやらしい視線が突き刺さっていたのだが、知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでいた…?



『しんちゃん? ふふっ、はいばんざーい。ぬぎぬぎしようね〜』



 つまりあの執拗なまでの没頭杭打ちスタイルは、そのせいだったのだろうか。



「──あ、あッ、ああ、ふっ、あんたは動かないでよ、あ、ふッ、はぁ、ンッ!」


「──はは、慎一郎、すぐそこに居るっていうのに、ぐっ、ははっ、すごい格好だよ」




 やべ、思い出してもた。 



『? なんでもうクレヨン…? 面白くない…』



 ダメだな。手コ…神んてらの見えざる手事件があってから最近特に思い出してしまうのだ。


 度し難い。



『またムシする。いいもん。ほら小夜の髪あらって。からだあらってあげるから』



 ああ、この黒髪の手触り…いやらし、いや癒しだ。童心にも無心にもなれないが、俺も没頭出来そうだ。


 しかし、正直なところ、頭が真っ白になり気持ちいいという前に恐怖が勝っていたな…。


 初めての時は、みんなそんな気持ちだったのだろうか。


 それともエロ漫画世界特有の快感ゆえだろうか。


 あるいは、俺のしんちゃんがクソ雑魚過ぎるのか。


 流石に出はしなかったが、原作ネトラレラ、というか幼女に手コいてもらうなんてどうかしてる。



『せっけんだと痛いって言ってたよね? ……ムシするし、また考えごとしてるし、しゃーなしっしょ』

 


 ただ、思い返すと蟻地獄に蟻を投入する顔と、俺のクレヨンを攻める顔、そして思い出した原作NTR描写はどこか雰囲気が似ていた。


 ざまおとのエロシーンは確かに嗜虐心というか、男に対する復讐心みたいなものが宿っているような気がしてきた。



「──今日、用務員の、おじさん、ジロジロ、あ、ふ、見て来たのよッ、しンッ、ン、慎ちゃんは、見てくれないの、にッ!」


「──はは、あいつ、鈍感だからな、ぅほっ、すごいね、小夜ちゃんは、ウッ、く、おほっ、いい眺め、ふは、はははは───」



『……くっ、沸るな…』


『またなんか言ってる……このピロピロ、パパより多くない?』



 いやいや、そうなると引っ越してきた時点で小夜はすでに壊れていたことになる。


 それを無自覚にも慎一郎が心に蓋をさせる振る舞いしていたのだとすれば、ふむふむなるほどなるほど。


 これはなかなか興味深いのである。


 というか、先程からこの子はいったい何をしてるのか。



『んー、ママはどうしてたかな…いいや、パパみたいにしちゃえ』


『パパみたいにってどういう意味でつカハ──────ッッ!?』



 いだぁああぁぁいいッッ!!!?


 何!? 何ごと!? え!? 何してんのこの子!?


 あえ!? おらのクレヨンが!? ずるむけしんちゃんにッ!? 嘘でしょッ!? 


 確かにクレヨンの包装紙はすぐ剥けてしまうけどって俺の原作皮オナ初体験は!? 


 いだぁぁああいいッッ!!


 また見えざる手かぁぁぁ!!



『わ〜、ふふっ、あははは、おサルさんみたいに真っ赤だね。動物どーがにうぷしようよ』


『しないよ!?』



 あひッッ!? あ! クニクニしないでぇぇ…!! また、またいけない感じになっちゃう!!


 はッ!? 小夜ママがすりガラスに!



『慎くん、なにか聞こえたのだけど、ふふ、また小夜のイタズラかしら?』


『そ、お、ぉじゃないんですぅぅ…助けうッッ!?』



 はがいじめに!? クニクニも!?


 やめてぇ! 小夜ママの前でやめてぇ!!


 そんな性癖開花したくないぃってぇぇええ!!



『もぉ〜ちがうよママ。しんちゃんがムシするからちょうきょーしてるの』


『あらあら。お仕置きって言いなさい』


『はーい。ほら、しんちゃん、がくがくして?』


『あぐッッ!?』


 

 こ、こんのアマァァア──ッッ!! 俺がひ弱だからってぇぇ!! 本気まんきんで鳴かしたらァァァァァア!!



『やっ、え? はぁ…シャワーはやめて!!』


『ぎゃふっ!!』



 またチョップされた。


 散々である。



『もぉ、デリカシーないんだから』



 無茶苦茶である。


 そうして俺達の関係と俺達のクレヨンは原作と乖離するように醸成されていったのだ。


 肉体言語すぎるエロ漫画世界なんて嫌いである。





 そして小学校入学式の日、集められたクラスの中、担任を見て俺は目を疑った。


『皆さんの担任になる、山之内です。リサ先生って呼んでね』


 山之内理佐先生。


 人妻リーサ。


 神んてら作、「人妻リーサのNTRコレクション」の山之内理佐がいたのだ。


 原作と違い眼鏡をしているが、当然のごとく、彼女もまたネトラレラなのである。


 これは、いったいどういうことだろうか。

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