第17話 寝首を掻く

ここ最近、うち妻の繰り返している言葉がある。

それは「寝首を掻(か)く」。


説明するまでもなく、「寝首を掻く」とは眠っているときに襲ってその人の首を斬ることだ。

最も卑怯な行為とされたことから、卑劣な手段で相手を陥れることの例えとしても使われている。良い意味では使われない。


先日、私がコンビニで買い物して出てきたら、外で待っていた妻が不動産屋さんの前で賃貸物件のチラシを見ていた。妻は不動産関係の仕事をしているので、周辺相場を知るためにチラシをよく見ている。それ自体は特に不自然なことではない。


「なんかいい物件あった?」と私は妻に尋ねる。


「これ、安いなー」と言いながら妻は一つのチラシを指さした。


【家賃5万円、〇〇駅から徒歩5分、築40年、広さ20㎡】


「安いけど、20㎡は狭いやろ。何に使うつもりなん?」

「いやー、アンタに追い出されたときのための保険やな」


意味が分からん……何かとんでもないことをしたのだろうか? 私は妻に確認する。


「追い出されるようなことしたん?」

「別に。逆に聞くけど、何したら追い出す?」


質問に質問で返す妻。

何をしたら私が妻を追い出すか……考えたけど思い付かない。


「難しいなー」

「コッソリと高い化粧品を買ったら?」

「それでは追い出さんなー」


妻は次の追い出される候補を考えている。何がしたいのか謎である。


「ベンツに後ろから追突したら?」

「まぁ、修理代掛かるけど、それでは追い出さんなー。それに、車運転せんやろ?」

「まぁな」


妻は次の候補を考える。本当に何がしたいのか謎である。


「じゃあ、夜中にアンタが寝てる時に、寝首を掻いたら?」

「追い出す!」

「そーやろ、追い出すやろー」

「寝首を掻かれたら、誰でも追い出すわ!」


妻は嬉しそうだ。追い出されるために、私の寝首を掻くのだろうか?


「だから保険のために部屋を探しとかなあかん!」

「寝首掻くなや!」


それ以来、妻は「寝首を掻く」を連発している。

そんなに追い出されたいのだろうか?


うちの妻は何がしたいのか謎である。


***


前振りはこれくらいにして、YouTubeの話をしよう。


私の妻は書道動画をYouTubeに投稿している自称ユーチューバーだ。そして、私は妻のアシスタントとして、妻の書く動画を撮影、編集、YouTubeに投稿している。


数カ月、YouTubeに動画を投稿し続けて分かったことがある。

あくまで書道動画を投稿している匿名ユーチューバーとしての傾向なので、参考になるか分からないのだが……書いてみようと思う。


【傾向1:チャンネル登録者数は再生回数の約0.1%】


今の再生回数は約20万回だ。この計算式によればチャンネル登録者数は以下のように計算する。


20万回×0.1%=200人


実際のチャンネル登録者数が200人くらいなのでほぼ一致している。我ながらすごい計算式を編み出したものだ。

この仮説によれば、再生回数が100万回になればチャンネル登録者数は1,000人になる。


チャンネル登録者数が1,000人になれば広告収入が入ってくるらしい……先は長そうだ。


ちなみに、普通に顔出し配信、名前を出して配信しているユーチューバーであれば、チャンネル登録者数は再生回数の0.1%よりも高いはずだ。

我が家は顔出しNG、名前出しNGをポリシーにしているので、0.1%で突っ走ろうと思う。


目指せ再生回数100万回!



【傾向2:日曜日の夜は再生回数が伸びない】


平日よりも土日・祝日の方が再生回数は多くなるようだ。これは、書道動画に限ったことではなく、YouTube全般に言えることだと思う。

だから、土日・祝日に動画配信した方が効率はいい。


うちの自称ユーチューバー(妻)は毎日チェックしたい派だ。

だから、我が家では効率性を無視し、私は一日に3回動画をアップロードしている。

朝、昼、夕方の1日3回、絶賛配信中だ。


これだけ動画をアップロードし続けると流石に傾向が分かってくる。

平日よりも土日・祝日の方が再生回数は多いし、昼よりも朝・夕の方が再生回数は多い。


ただし、例外がある。日曜日の夕方~夜だ。


土日・祝日は再生回数が増えるはずだし、夜は再生回数が増えるはずだ。

でも、日曜日の夜に再生回数が伸びない。これが何故なのか疑問だった。


ある時、スマホで検索していると、私はあるホームページを発見した。

そのホームページにはこう書いてあった。


『YouTubeの視聴者数は日曜日の夜が一番多い。だから、動画配信は日曜日の夜にすべし!』


――コイツのせいや……


私は確信した。

この記事のせいで、ユーチューバーたちが日曜日の夜にガンガン動画をアップロードするのだ。

そして、競合が多い時間帯に配信したゴミ動画(うちの書道動画のこと)は淘汰される……


私は理解した。

弱小ユーチューバーなのにレッドオーシャン(競争相手が多く存在している市場)で勝負していたのだ。


それ以来、私は作戦を変更して日曜日は15~16時に配信するようにしている。

私はこの戦略的変更をブルーオーシャン戦略と呼んでいる。


もし、日曜日の夜に動画配信して再生回数が伸びない人がいたら、時間をずらしてみてほしい。


なぜなら……


レッドオーシャンで勝負してはいけない! ブルーオーシャンで勝負すべきだ!


自称ユーチューバーとそのアシスタントの戦いはこれからも続く。


<続く>

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