第15話 あ~~~あ~あ~あ~~~~

「あ~~~あ~あ~あ~~~~あ~あ~あ~~~~あ~あ~~~~」


私が洗濯物を干していたら、大声で妻が歌っている。


何の曲でしょう?


ちなみに『北の国から』ではない。

正解できる人がいないだろうから、問題にするのは止めておく。


分かり難いと思うが、これはブルーノマーズ(Bruno Mars)の『Just The Way You Are』のイントロだ。「あ~~~あ~あ~あ~」の後「Oh, her eyes……」と始まる。


私が洗濯物を干し始めると、妻は歌い始める。我が家の朝の日常だ。


1年前から英語の勉強のために、妻は英語の曲を歌い始めた。

毎朝、字幕付きのYouTube動画を見ながら大声で歌っている。

きっと、ご近所さんは「また歌ってる……」と思いながら妻の歌を聞いているのだろう。


洗濯物を干す私を横目に、妻はブルーノマーズを歌い続ける。

「洗濯物を干すのを手伝え!」とは言わない。我が家では洗濯物を干すのは私の仕事だ。

それに、この曲は洗濯物を干すのを邪魔されないので、私の仕事(洗濯物干し)には影響ない。


私はこのタイプの曲を「スタンドアロン曲」と勝手に呼んでいる。

妻が一人(スタンドアロン)で歌える曲だからだ。


選曲によっては私が手伝わないといけない曲がある。

一昔前であれば、大塚愛の「もういっかい!!」のような合いの手が必要な曲だ。


最近、妻はエド・シーラン(Ed Sheeran)をよく歌っている。

YouTubeで『Shape of you』の歌い方解説動画を見たからだ。

どこをomit(言わない)すればいいか、どの単語と単語を繋げればいいか(リンキング)などを研究していた。


ちなみに、英語で会話をしていると「あの人、何を言ってるのか分からない」という人がいる。

特にアメリカ人はちゃんと発音しない(omitする)ので分かり難いのだが、それに加えて先入観による部分が大きいと私は思っている。どういうことか、日本一有名なフレーズで説明しよう。


This is a pen.


これは、日本人の誰もが知っているが、実生活では一度も使ったことないフレーズだ。

日本人がこれを発音するとこうなる(説明のためにカタカナで表記)。


「ディス イズ ア ペン」


でも、英語を話す人はそんな発音はしない。こんな感じで聞こえる。


「ヂッ ジッ ザッ ペン」


これをアルファベットで書くとこんな感じだ。


Thiヂッ  siジッ  saザッ  penペン.


This を「ディス」とは言わないし、isを「イズ」とは言わない。

そして、Thisのsとisのiを繋げてsi(ジ)になる。この音を繋げることをリンキング、繋がった音をリンキンサウンドという。


要は、英語が聞き取れない人は「ディス」と聞こえないとThisを認識しないからではないだろうか。そんな気がする。


脱線したので、妻の歌の話に戻そう。


『Shape of you』を聞いたことがある人は分かると思うのだが、「The club isn’t ……」の後に「うんんん(Ummm)」のようなパートが入る。合いの手だ。


この曲を妻が歌っている場合、妻が「The club isn’t ……」のセンテンスを歌った後、私は「うんんん」を言わないといけない。

もし、私が「うんんん」を言わなかったら妻は怒る。

これが我が家における、合いの手ハラスメント……


スタンドアロン曲でない場合はかなり面倒くさい。なぜなら、私はベランダにいるからだ。


ベランダで洗濯物を干していても、妻の『Shape of you』に合わせて、合いの手「うんんん」を入れないといけない。

ベランダから大きな声で「うんんん」を言うと、ご近所さんに聞こえるだろう。そう思うと、ちょっと恥ずかしい。


だから、この曲が始まるとこうなる。


妻が「The club isn’t ……」と歌っている間に洗濯物をいくつか干し、私は「……where I go」までに窓のところに戻る。


そして、部屋に向かって「うんんん」の合いの手を入れる。


次に、妻は「Me and my friend……」と歌いだす。私は洗濯物を干しつつも「……we talk slow」までに窓際に戻る。


部屋に向かって「うんんん」。


これを繰り返していると、水前寺清子さんの『三歩進んで二歩下がる』の状態に陥る。

全然洗濯物を干し終わらない。


私の朝は忙しい。

だから、スタンドアロン曲だけにしてほしいものである。


***


さて、前振りはこれくらいにして、これを書くのにブルーノマーズのYouTubeを確認した。そしたら、ブルーノマーズのチャンネル登録者数は3,720万人だった。

この登録者数はカナダの人口とほぼ同じ。マレーシアの人口よりも多い。凄い数だ。

弱小ユーチューバーとは比較にならない。


ちなみに世界一チャンネル登録者が多いのはインドの音楽・映画会社のT-Seriesで2億5,000万人らしい。

チャンネル登録者は日本の人口の2倍だ。インドネシア、パキスタン、ナイジェリアの人口に匹敵する。

やはり、インドは人口世界一だし、ボリウッド(Bollywood)は強い。

うちの自称ユーチューバーの動画もインドから見にきているくらいだから、インド人はYouTubeが好きなのだろう。


ここまで読んでいる人は知っていると思うが、妻は書道動画をYouTubeに投稿している自称ユーチューバーだ。

私は妻のアシスタントとして、妻の書く動画を撮影、編集、YouTubeに投稿している。

最近、早送り動画を掲載したことにより登録者が少し増えて、もうすぐ120人を超えそうだ。でも、弱小ユーチューバーであることには変わりはない。


なんやかんやで既に掲載した書道動画は240を超えた。掲載している書道動画の数ではうちの自称ユーチューバーが一番多い。でも、チャンネル登録者数、再生回数などで他の書道チューバーに負けている。


違いを探るために他の書道チューバーの掲載している書道動画を見てみた。

特徴は以下の通りだ。


・顔出し

・書き方を親切に説明している

・手間を掛けて動画を作っている


どれも当てはまらん……

そして、全部やりたくない。


だから、とりあえず我が家はこのまま突き進むことにする。


漢字は10万字を超えると言われている。


うちの書道チューバーが1万文字掲載するころには、登録者が1,000人を超えるのではないだろうか。


今は掲載あるのみ、である。



<続く>

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