140字小説「それだけで良かった」

秋錆 融華

それだけで良かった

「大好き…」


母は私を庇って焼け死んだ。春一番が業火を巻き上げ、紅蓮に染まる空を覚えている。


天涯孤独で迎えた何度目かの桜吹雪。生きる気力が尽きる度、自然と足は墓前に向いた。

物言わぬ石に何を言おうが返事は無いけれど


「今年で二十歳になったよ」


大人になった私には

それだけで良かった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

140字小説「それだけで良かった」 秋錆 融華 @Qrulogy_who_ring

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る