第4話:サウナ

「こわいこわいこわいなにあれなにあれ」

 同じことを呟きながらはや歩きして前を進む。

 とにかく浴槽から離れたい。


 先程の洗い場を通過する。


 横目でちらっと見ると、雪男(ユキオ)とひとつ目男の二人(二体?)が楽しそうにまだ身体を洗っていた。

 他にも歩いている親子どちらもに獣の尻尾が垂れていたり、今転んだ男の子の首は衝撃で半メートル伸びている。


「無料にするといろんなのが来るんだな……異世界とか」


 恐怖か驚きか拓巳の目から何の感情ともいえない涙が流れる。


「もう風呂なんていい。帰ろう」


 出入り口の扉を目指しはや歩きで向かっているとちょうど扉からミイラの親子が入ってきたので脊髄反射でUターンした。


(俺のバカーッ!)


 歩みは止まらず、もはや何処に行くのかもわからない。

 再び二匹(二体)のいる洗い場を通過し、先程の鬼集団がつかる湯船が見えてきた。

(このままじゃ鬼集団と混浴ルートになってしまう!)


 どうにか浴槽以外の逃げ道はないか。


 周りを見渡すと、あった。


 横の隅の壁にひっそりと、木製のドアがあるのに気づいた。

 ドア前にプレートがさげられていた。



『サウナルーム』



(しめた! サウナなら嗜むのは人間だけのはず! 妖怪や魔物はいない!!)


 拓巳は避難するようにサウナルームに飛び込んだ。




 ドアを開けるとカッパの集団が敷き詰められるように木製ベンチに座っていた。


「……」

 檜の香りと共にちょっと生臭い。

 困惑の光景に拓巳が固まる。


「ちょっと、風入るから早く閉めて」

「あ、はい」


 慌ててドアを閉めた。


(って! うっかりサウナ入ってしまった!)

 真っ青な顔でひとつだけ空いた端のスペースに座る。

 俺以外全員カッパ。


(なんでカッパの集団といっしょにサウナしてるんだ俺は)


 ていうかなんでカッパがサウナで温活してるんだ。皿とか乾いてヤバいだろ。大丈夫なのか。


「あーととのう……」

 立ちこめる熱気を浴びてカッパたちは滝のような汗を流し気持ち良さそうだ。


(ここで過ごすか)


 比較的静かな連中なので、拓巳はここで時間を費やし空いたところを狙って湯船に戻ることにした。



 十分経過。


「あ、熱い……」

 室内の時計を見るとまだ十分しかたっていないことに驚く。

 蒸し風呂のような暑さに汗がだくだく出る。

 カッパたちは静かに汗を流している。拓巳が一番平気じゃなさそうでちょっと悔しい。

 まだ出てたまるかと闘争心に火がつく。



 二十分経過。


「し、死ぬ……」

 カッパたちもしぶとい。

 俺より先にいるはずなのにまだぴくりとも動かない。死んでいるのか。


 湿度ある熱気と魚臭さがヤバい。

 そもそも風呂に入りに来たはずなのに、なぜ俺はカッパに闘争心を燃やしているのか。


 虚ろな目でベンチで項垂れていると、


「フッ……やるな、兄ちゃん」


 隣のリーダーらしきカッパに声をかけられた。


「人間との勝負、悪くなかったぜ……」

「どうも……」


 そう言い残すとベンチから床に滑り落ちた。


「ええーッ!? ちょっと大丈夫ですか!?」


「ハア、ハア……」


 皿を触るとカピカピに乾いている。


「ヤバい誰か! 救援を!」

 助けを求めようと他のカッパたちの方を見ると、仲間のカッパたちもぐったりとドミノのように互いに身体をあずけ横たえていた。


「ハア、ハア、ギブアップ……」

「あんたらもかぁぁ!」


 仕方がないので拓巳は一匹ずつ背負って脱衣場まで運んだ。

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