12話
「ミルクも忘れないでね」
「あれ?」と少しの違和感を感じながらも、充は「うん、わかった」と答えてドリンクバーへ向かった。
しばらくして、料理がテーブルに運ばれてきた。店員は「ご注文はこれでよろしいですか?」と確認し、忙しそうに立ち去った。
「あ、それおいしそう」と亜美佳が充のエビフライをスプーンで差していた。
「あげるよ」と充が言うと、亜美佳はすぐに1尾まるごと持っていった。半分だけあげようと思っていたが、既に遅かった。
「ラッキー」と亜美佳が嬉しそうに言い、美味しそうに食べている姿を見て、充はこれでいいと思った。
—―亜美佳の後ろのテーブルから、女子大学生たちの恋愛事情が聞こえてきた。一人の女性が他の二人に「付き合う男性とはこうあるべき」と語っていた。充は意図的に耳を傾けているわけではなかったが、彼女たちの声が大きく、聞くなという方が無理な話だった。
「だからさ、男って顔じゃないのよ。大事なのは中身。顔や表情は変えられるけど、中身は変えられないわ。これは私が21年間で学んだ教訓よ」
「やっぱり?」
「顔だけの奴ってやたら自信は嫌だよね」
話を聞いていた二人も同意見だという風に頷く。
「ばかだよねー。やっぱり見た目が大事でしょ」
「ちょっと、亜美佳!」と充は慌てて、「声、小さくして」とジェスチャーも加えたが、意味はなさなかった。既に、後ろの席の女性たちがこちらを睨んでいた。
亜美佳はそんな周囲の状況を気にせず、ドリアを楽しそうに食べていた。
しばらくの間、微妙な空気が漂っていたが、女子大生たちの会話は続いていた。何事もなかったようで、充はほっとした。しかし、その安堵もつかの間だった。
「やっぱり本当の愛、それが大事よね。見せかけの愛よりも。そこを見極めないと、いい人と付き合えないから」
「わかる」
「わかる」
「全然わかんないんだけど」
いないはずの4人目が答える。
「真実とか見せかけとか、何を言ってんのって感じ?子供じゃあるまいし。区別してる時点で、もうダメなんじゃない?」
亜美佳は充に向かって、あたかも間違いを正すかのような口調で言った。
コップをガチャンと置く音が響いた後、3人の女性が立ち上がり、充と亜美佳のテーブル席の前に立った。彼女たちの上から目線は、言葉にしなくても怒りを明らかにしていた。
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