本音トーク!

女子と帰りに食事ってだけでイベントだよな

翌日アイドル研究会に戻った俺は薄暗い部室の照明を点ける。

三人は正座していた。俺の命令である。


 バラしたもの。正座して待つこと。例の件は許す、と。

 昨日の帰りに張り紙をしておいたのだ。


「正座させられている理由はわかっているな」

「イエース」

「はい!」

「すみません」


 全員やはり心当たりがあるようだ。


「お前ら、自分の推し生徒にだけこっそり教えようとしただろう?」


 全員ひれ伏す。


「今回は許してやる。そのかわり、調査に協力はしてくれ」

「ハイヨロコンデー」

「え? むしろご褒美では」

「わかりました!」


 一人語感がおかしいヤツがいるが気にしない。眼鏡部長。もとい飯山。お前はそんなキャラだったか。


「調査員っていったってな。普通の高校生なんだ。一人でやれることにも限界があるからな」


 ヒロインガイドだって一種の同人誌的なノリだしな。

 何故そんな本が影響力が強いかというと、出版社の力みたいなもんか。


「しかしさすがのランカーだったな。レベルが高い」

「師匠のランク付けはどのような?」

「部長に師匠呼ばわりはされたくないが」

「いえいえ。ご指導ご鞭撻……」

「やめい! 説明する。例の写真だしてくれ」

「はい!」


 手短に昨日三人に話したことを説明する。


「学校生活の記憶に残る美少女……まさにヒロイン!」

「ときめきにも似た輝くような学園生活のメモリアル……!」


 そのフレーズはやめろ。

 俺は三人に話した概要をアイドル研にも伝えた。


「アイドルではなく、青春のヒロイン。学園一の美少女! そういう意味だったとは!」


 何故か感銘を受けている三人。

 俺はあんたらの受験が心配だ。


「ともかく、だ。アイドル的な意味ではランキング一位は間違いなく北条さん。調査員的には違うということだ」

「幸せになって欲しい女の子かぁ。そういう雰囲気だよなあ」

「いやいや。目標にまっすぐな那姫さんも魅力だよ」

「北条さんが王道だって」


 三人の口論が始まったので俺は教室に出た。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 それから数日後のこと。

 すぐ帰宅してもマンション住まい。とくに誰もいない。

 校舎裏に移動する。人が少ないところが落ち着くからな。


 スマホ片手にぽちぽち遊ぶ。ほらAPもったいないじゃん。

 俺を覆うような影が前方に現れる。顔をあげると、


「また会ったな!」


 ツカサだ。


「聞いたぜソウジ! 有名な美少女雑誌の調査員なんだってな!」

「美少女雑誌はやめてくれ…… ヒロインガイドという雑誌だ」


 十八禁コミックを連想させるようなのはやめよう。ヒロインガイドって雑誌名もどうかと思うが。


「学園一の美少女ってヤツだよな!」


 さっぱりと笑ってネタにしてくれるツカサ。良い奴だ。


「ツカサも興味ある?」

「俺なんか怖れ多いって!」


 けらけら笑う。悪意がない、見るだけで釣られて笑ってしまいそうな??


「そうでもないと思うんだけどなー」

「ん? 意外な反応。ありがとな! 気を遣ってくれて」

「気は遣ってないぞ」


 ツカサが固まり、ぼっと赤くなった。可愛い。


「こ、こら。てめー。そうでもないって自分が言っていることわかってんのかよー」

「わかってるよ」

「やっぱりいいや。俺はガラじゃないし、資格なんてないしな」

「資格は誰にでもあるぞ」


 一瞬、哀しげな瞳を見せたツカサ。

 すぐに笑顔を取り戻し、俺に尋ねる。


「どういう基準なん? 面白そうだから教えてくれよ」

「うーんと。卒業したらさ。あんな子がいたなーとか。あいつ面白いヤツだったなーって中学校のときいたじゃないか。他のクラスでも」

「あーいるいる」

「それの学園版みたいなかんじ。だから美人やスタイルだけで決まるわけじゃないんだよ。芸能人決定選じゃないからな」

「へー! でもいいな。そんなヤツが学園一の美少女なら、面白いな」

「だろ?」


 時間もそろそろか。


「ツカサー。帰るならハンバーガー食べにいかないか。マクナルだ」


 ハンバーガーの定番、マークナビールだ。

 女子と帰りに食事ってだけでイベントだよな!

 

「マクナルって何処の方言だよ? マクビじゃね?」

「三重の方言だ。……四国だったか」

「紛らわしい略称すな。お前のおごりな!」

「いいぞ」

「え? まじで? やったー!」


 こら飛び跳ねるな。スカートの丈が短いんだから。

 目のやり場に困る前にそそくさと立ち上がり、俺達は雑談しながらマクナルに向かうことにした。

 うん。お仕事よりはこういうのが楽しい。

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