学園一の美少女を調査する男

 学園一の美少女。

 それは誰もが聞いたことがあるフレーズ。


 しかしそれを実際に見た者はいない。ある意味都市伝説みたいな存在だ。


 俺はとある教室の前に立っていた。

 中から会話している生徒がいる。


「やはり我が柳瀬川東学園一の美少女は北条真衣だろ」

「いいや。あれは少しテンプレだ。短距離の岡島那姫だろ」

「ええー。俺は日下部ミキさんがいいと思うけどなぁ」


 俺は扉を突然開け、中に入りそっと後ろ手で閉じる。


「だ、誰だ君は?」

「見たことない顔だね。アイドル研に何か用かい?」

「ここは素人の来るところじゃないよ。早く帰りなさい」


 素人、か。

 ふっと笑う。


「君たちに協力を願いたい」

「突然なんだ!」


 部長らしき眼鏡が叫ぶ。


「俺か。聞いたことはないか? ヒロインガイド調査員。学園一の美少女の調査員さ」


 一同が絶句した。


 都市伝説であるはずの学園一の美少女。

 ほら。聞いたことあるだろ。グルメとかでも覆面調査員がやってきて星を一つから三つつけるやつ。

 この学校の学園一の美少女を調査するために転校してきたのが俺なのだ。


「全国各地に潜む、それぞれの学園一の美少女を決めるというヒロインガイドの調査員だって!」

「伝説の存在。実在したのかよ」


 解説ありがとう。

 俺はとある名刺を懐から取り出し、三人に渡す。

 名刺にはこの学校の生徒ではない美少女が映っている。


「本物かどうかは二ヶ月後発売のヒロインガイド誌の表紙でわかるだろう」

「まさかこの子が来月の表紙になる予定の女の子!」

「その通り。二ヶ月後の広報誌で判明する。その目で確かめてみろ」


 眼鏡が恐る恐る呟く。


「わかった。信じよう調査員。君の名は?」


 信じるのか。確かに嘘は言ってないんだが。


「俺は荒上宗司。宗司と呼んでくれ。柳瀬川東学園に今日編入したばかりの転校生になるのか」

「歓迎するよ。ヒロインガイド調査員!」

「くれぐれも調査員であることは内緒にしてくれよな」

「もちろんだとも!」


 秘密を共有するというのは、親密になるには友好な手段だ。男女問わずね。それがどんな些細なことでも、だ。

 そのうちバれると思うが、釘は刺しておくに超したことはない。


 それではヒロインガイドの説明をしよう。

 学園一の美少女を決める、闇の結社もどきのNPO法人。文教委員会に類する組織が発行する健全な学生向け雑誌である。


 終わってしまった。


 ちょっと待て。怒らないでくれ。

 学園一の美少女を決めるというのはとても大変なことなんだ。

 女性だけでは不公平? 安心してくれ。

 ガールズサイド。もとい推しメンガイドも存在する。ここは女性の調査員が担当で、猛者揃いという噂だ。最近はジェンダーフリーの「ナチュラル」も創刊された。時代の流れだろうが、これが結構人気だ。


 その学園一の美少女に選ばれると様々な特典がある。

 例えば??

 

 大手芸能プロダクション入りで何かしらの重要な役の抜擢確約。

 希望高校、大学の無条件進学。

 大人気大人数アイドルグループのレギュラー獲得などだ。


 二番目と三番目が人気だな。才能があるヤツは一番上をいくが、素人がいきなりテレビドラマの主役を張るのは簡単じゃない。実際にはもっとも難しい選択肢だ。

 さて俺の容姿だが絵に描いたような一般人。妖怪ヘアで有名なメカクレ系ってやつだ。

 何をやっても中の中。たまに中の上。覆面調査員はばれちゃいけないからな。何故こんなことをやってるかって? 


 趣味だ。


 もちろん趣味とは言え、簡単に就けるアルバイトではない。調査員としての面接やら講習は受けてある。

 人をランク付けするってのは気が引けるが、鼻持ちならない美人はアンチも湧く。

 学園一の美少女は中身も大事だ。


 俺はこの柳瀬川東学園に転校し。学園一の美少女を決めるための調査が今日から始まったのだった。 

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