第22話 国会の中心で愛国を叫ぶ

 光二がルインと一緒に国会議員への顔見せを終えた数日後。


 与党と全ての野党の要請により、臨時国会が開かれることとなった。


「国土交通大臣が負傷療養中のため、総理に答弁願います。現在、各地で物資不足が発生している件について総理はどう対応なされますか」


 野党議員の一人が質問する。


「大山光二内閣総理大臣」


「はい。まずは流通網を回復し、食糧や医療物資を速やかに運搬できるようにすることが喫緊の課題だと認識しております。既に現時点でパルソミアの救援隊により、迅速な緊急補修がなされています。例えば、スライム。これは高粘度生命体であり、土を含ませることで、疑似的なコンクリートとなり、道路の強力な補修材として機能しております。と申しますのも、スライムには一定の知能があり、自ら移動してヒビや穴を埋めることが可能なのです。さらに、ゴーレムと呼ばれる巨大人形。彼らは強靱な膂力を発揮し、高速道路や橋の柱の代わりになります。これらの施策により、万全ではないものの、主要な国道は概ね復旧し、通行可能な状況です。もちろん、状況が落ち着き次第、正式な補修作業を行うことは言うまでもありません」


 光二は答弁台に立って、真面目に答えた。


 無論、もうアホアホモードになる意味もないので、普通である。


「スライムやゴーレム。夢物語のようでにわかには信じられませんが、それらに危険性はないのでしょうか」


「地球にとって未知の生物を国内に入れることに不安を覚える国民もいらっしゃるかと思いますが。ご安心ください。まず、スライムはモンスターテイマー魔物統制技能者の適切な管理の下にあり、安全面も保証されております。そして、ゴーレム。これらはそもそもが無機物ですから、生物学的な汚染の心配はありません。ゴーレムは地球の重機のようなもので、しかもパルソミアの最高級の国家錬金術師の管理下にありますので、万が一にも暴走の心配はありません」


 想定通りの質問に、想定通りの答え。


 退屈だ。


(意味のない国会だよ)


 一応、形式通りに質問と回答の応酬をしてはいる。


 しかし、与党も野党も全員ルインによって洗脳済みなので、全くの茶番でしかない。


 まあ、一応、国民に施策を説明する意味はあるのだが、みんな自分のことで精一杯で国会中継なんて観てる余裕ないだろうし。


「これも総理にお尋ねします。総理は青年期をパルソミアで過ごされ、かの国で勇者として重要人物級の扱いを受けていたということになりますが、いわゆるこれは二重国籍を禁じた憲法の規定に――」


 バガアアアアアシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 欠伸が出そうになったその刹那、天井の一部が崩落する。


 巨大なスズメバチのようなモンスターが議事堂に雪崩込んでくる。


「なっ、まだ残党が! 傲慢なる暴風よ!」


 光二は咄嗟に応戦する――フリをする。


 いや、実際に風魔法を射出しているが、本気は出していない。


「うあああああああああああ!」


「ガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!」


「アガガガガガガガガガガガガガガガガガ!」


(ああー! 与党から出て野党からも出て新党を作って与党に戻った重鎮が真っ青になってるううううううー! 確かな野党の万年議長が肉団子にいいいいい!)


 デカスズメバチが容赦なく議員を屠っていく。


 与党も野党も関係ないが、もちろん無差別でないことも言うまでもない。


(ネクロマンサーくん、腕を上げたなあ)


 大した訓練期間もなく、初見の宇宙生物をこんなに大量に、しかも精巧に操ってみせるとは大したものだ。


(ゾンビと人間なら結構簡単に見分けられると思うけど、ゾンビエイリアンと生エイリアンを見分けられる奴はいないだろうからなー)


「早く逃げろ!」


「警備はなにをやっている!」


「いやああああああああ」


 阿鼻叫喚の国会。


 光二はもちろん逃げずに戦い続ける。


(残念だけど、警備ちゃんたちならみんな死んだよ)


 今日はガバガバ警備と言われないように、自衛隊と警察で二重の警護を敷いている。


 そして、今日犠牲になった公僕の皆さんは、汚職マンかパワハラマンを選んで配置してある。


 三島は自衛隊の内部事情に詳しく、本郷はなぜか警察の不祥事を把握していた。


 本郷は自衛隊を辞めたら週刊誌に色々とリークするつもりだったというが、一体何者なんだあいつ。ハッキングから夜のおかずまで把握しているのか?


 なお、パルソミアの軍隊は、『光二は念のために配置を希望したが、野党の強硬な反対により断念せざるを得なかった』ということになっている。


「くっ! 数が多すぎる! 昨日力を使い過ぎたか。せめて、ムーレムさえ国会に持ち込めていれば!」


 光二は体中に切り傷を作りながら、唇を噛み締める。


 本当は、魔力はポーションで回復しているし、ムーレムも魔法を使えば秒で呼び出せるのは秘密だ。


「皆さん! ここは私が食い止めます! 西に逃げてください! パルソミアの軍隊が守ってくれます」


 光二は大声で叫ぶ。


「……待ちたまえ。光二くん、君はまだ若い」


 ハゲジジイが光二の右肩を叩いてくる。


「吉田先生!?」


「ああ。君はこれからの日本に必要な人材だ。私たちが囮になろう」


 眼鏡ジジイがフレームをクイっとしながら前に進み出た。


「井上先生まで、何をおっしゃるんですか! 無謀です!」


「若者を犠牲にして生き残る老人がいるかね。これが最後の国へのご奉公だ」


「ふっ、こう見えて私は柔道で全国に行っているんだ。倒してしまっても構わんのだろう?」


 二人が光二の制止を振り切り、ガチガチのフラグを立てながらスズメバチに突っ込んでいく。


「吉田せんせええええええええええ! 井上せんせええええええええ! くそおおおおおおおおお! くそおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 光二は慟哭しつつも、他の国会議員と国営放送のクルーを守りながら退却する。


 普通なら放送中断だけど、今はばっちり放映中だ。


 カメラマンがジャーナリスト魂を発揮した――という体だがもちろん洗脳済みである。


 そのままデカスズメバチを撃退しながら、パルソミア軍の待つ安全地帯に撤退。


「救援に向かうぞ! 責任は私が取る!」


 光二は聖騎士団を連れて、再び国会に舞い戻り、スズメバチを駆逐する。


 しかし、時、すでに遅し。


 ダブルジジイは日本国旗を抱きしめながら、見るも無残な姿で凄絶な最後を遂げていた。


(ネクロマンサーくんはサービス精神旺盛だなあ)


 二人を殺すところまでは指示通りだが、ここまでドラマチックにしろとは言ってない。


 ちょっとわざとらしい。


「フルーリャ、なんとかお二人を治せないか……」


「無理です。もう魂がこの世界にはありません」


 フルーリャが静かに首を横に振る。


 もちろん、彼女はガチれば蘇生できると思うけど、莫大な力を浪費してまでこいつらを助ける価値はない。


 そして、光二にはダブルジジイをぶち殺した罪悪感は微塵もなかった。


(だって、二人とも売国奴ってレベルじゃねーしな!)


 殺す前に後ろ暗い所は全部吐かせたのだが、さすがの光二も引くレベルで色々やっていた。


 それを国の英雄として死なせてやるのだから、光二的にはめっちゃ温情をかけた方だ。


 少なくとも家族の名誉は守られる。


 野党の方で殺したのも基本的にはカスしかいないので同様だ。


「……。吉田先生、井上先生、私が必ず皆さんの愛したこの国を守ってみせます」


 光二は涙にむせびながらそう宣言する。


 アメリカなら泣くのは弱いリーダーとみなされるけど、日本人は人間味のある奴の方が好きな傾向にあるからこれでいい。


「日本を、日本を取り戻す!」


 光二は血まみれの日本国旗を両手で掲げた。


 壁に空いた穴から天井へと吹き込んだ風が、旗をなびかせる。


 国旗が血で汚れているせいで、どっかで見た日本ディスのジョークじゃないけど、ちょっとナプキンっぽいと思ってしまったのは内緒だ。


(よし。これで洗脳が効きにくい奴は全員ぶっ殺したし、国政はおおよそ掌握したな)


 光二は決然と天を仰ぐ。


 参議院の方もあるといえばあるのだが、そっちは国政に影響を与えられるほどの力のある議員はいないので、洗脳だけで十分そうだ。


(あとは対メディア戦略と、食糧の確保と、石油もいるし、ああめんどくせ)


 光二はただルインといちゃいちゃしたいだけなのに、前戯が長すぎる。



==============あとがき================

 皆様、いつも拙作をお読みくださり、まことにありがとうございます。

 本年の更新はこれで最後になります。

 新年の更新は一月二日より、隔日更新となる予定です。

 改めまして、本年は大変お世話になりました。そして、来年も何卒よろしくお願いいたします。

 それでは皆様、今年もあとわずかですが、どうかよいお年を!



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