バカ息子総理、実は異世界帰りの最強勇者につき―日本が宇宙人に侵略されたので、エルフ嫁と一緒にチート魔法で反撃することにした――

穂積潜@12/20 新作発売!

第1話 プロローグ バカ息子総理のファンタジー答弁

 とある梅雨時の金曜日。


 日本国、第102代総理大臣、大山光二おおやまこうじは国会答弁の壇上に立たされていた。


「総理! 総理! 森川大臣の『日本は紙の国である』との発言、どう思われますか! IT社会を推進すべきデジタル担当大臣にあるまじき失言ですよ!」


 ネズミっぽい顔をした野党の議員が、鼻息も荒く詰問してくる。


「ファンタジーだな、と思います」


 光二はアルカイックスマイルを浮かべて答えた。


 もはや世間ではお馴染みの光二の代名詞。政治に興味のないご婦人方からは圧倒的に支持され、その他の全ての国民からは呆れられている薄っぺらい笑顔だった。


 日本史上、最年少の二十代で総理大臣に就任してはや四年。光二ももはや三十路も半ばである。しかし、その清潔感ある整った容姿故か、年齢よりも随分若く見えると言われることが多いのは、政治家としていいのか悪いのか。


「ファンタジーとはどういう意味ですか! 政治は現実ですよ!」


『バカ息子!』


『頭の中に七光りの虹でも詰まってんのか!』


 ネズミの発言に呼応するように、野党から嘲笑交じりの野次が飛んでくる。


「ファンタジーということは、超自然的ということです」


「答えになっていません。あなたはこの国難の時代に、ファンタジーで日本の舵取りをされるとおっしゃるんですか。そもそも総理大臣として任命責任がありますよね!」


「任命責任があるということは、必ずしも任命責任があるということではないかと思います」


(我ながら何言ってんだこいつ)


 光二は今、失言をしたアホな大臣の尻ぬぐいをさせられている。


 庇いようのないどうしようもない失言であり、本来なら更迭して当然だと思う。でも、それはできない。やらかした大臣が、フィクサーの老害議員どもの派閥の推し議員だからである。


 そこで光二が考え出したその場を切り抜ける窮余の策。それが、やらかした大臣よりも、もっと自分がアホになることであった。アホを大アホで上書きしてデコイになるのだ。


 光二は、総理大臣を親に持つ名家という恵まれた環境に生まれながら、Fラン大学にしか行けなかったバカ息子議員として世間に周知されている。なので、特に違和感のある発言でもないだろう。


 別に心は痛まない。これが光二の日常である。今日もまた、低俗な広告収入目当てのアフィブログの餌として、『光二構文』なる迷言集に二、三行新たなるセリフが追加され、SNSでは光二Botが徘徊し、ネットのユーザーの大喜利のネタにされるだけのことだ。


(そもそも、任命責任って言われても、派閥の論理を丸呑みするロボットの俺にはどうしようもないんだよなー)


 光二は欠伸を噛み殺し、無意味な答弁を続ける。


 そう、つまるところ、光二は与党にとって担ぎ出すのにちょうどいい、『軽くてバカな神輿』であった。


 その事実は、政治家はもちろん、ちょっとでも政治に興味がある国民なら誰でもわかっていることだった。


 それでも一向に、周辺から光二を総理大臣から降ろそうという声は聞こえてこない。


 というのも、今は与党にとって厳しい局面なので、光二を次の総選挙で負けた時のスケープゴートにしたいという思惑があってのことだった。


 また、国民としても、光二自身は何もしない代わりにスキャンダルとは無縁だったので、放置されていた。


 腐ったものを食わされるよりは、無味の物を胃に詰め込まれたマシといった感じだ。


 それほどに国民は政治というものに何も期待していなかったし、無関心でもあるし、諦めてもいた。


 民主主義は国民にふさわしいレベルの政治家しか得られないという。


 だとするならば、半分近くが投票に行かないこのやる気のない国の代表が自分なのは、ある意味お似合いなのかもな、と光二は時々考えるのだった。



===============あとがき==============

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。


 新作です。今年度中は毎日更新する予定ですので、もしよろしければ読んでやってください。

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