第139話
スキル鑑定具の調査は暗礁に乗り上げてる。
最初から厳しい状態だったけれど、今は本当に八方塞がりだ。
本からは有力なヒントは見つからなかったし、実物をあれこれいじってたユリウスさんも成果なし。
ちなみにジュードさんは毎回胃をキリキリさせながら貸出期間を延長依頼している。
毎回結構お小言もらうらしい。
今わかっているのは、トリム王国の全盛期に王だった英雄王エイバン王が作ったこと。
魔法陣を使っていた時代だというのにスキル鑑定具には魔法陣は描かれていなかったこと。
これは私も結界を付与する時にもう魔法陣を描く必要がないことから、熟練した人が付与したから描かれていないのだと私たちは考えている。
ただそこにユリウスさんが疑問を呈した。
「スキル鑑定具は当時最先端の魔導具だったはずだ。たとえエイバン王が魔法陣なしで付与できたとしても、他の者が付与できるよう魔法陣は残しておくべきじゃないか? そうでなければ、エイバン王一人でこの大陸中のスキル鑑定具を作ったことになる」
トリム王国はトリフォニア王国、クラティエ帝国のあるこの大陸のほとんどを支配していた巨大な国だ。
そんな国の王がわざわざ全てのスキル鑑定具を作るなんて、言われてみれば確かに無理だ。
ということは、他のスキル鑑定具には魔法陣が刻まれているのでは? という仮説に至ったわけだが、「今貸している鑑定具があるだろう」と貸出の許可が降りない。
他の鑑定具を調べたいと言っても、そう簡単に貸せるものでもないらしく、貸した鑑定具の返却が先だと言われて、行き詰まったのである。
返却は、壊れてるからできないしなぁ……。
というわけで、ユリウスさんの研究室での活動は打開策が見つかるまで私のライブラリアンのスキルアップ、ユリウスさん、ジュードさんの魔法陣の訓練が主となっている。
ユリウスさんの説明を聞き、自分でも考えた結果こんな風にスキルアップしたらいいなと思ったことが1つある。
それは、本への書き込みやしおりをはさむこと。
ユリウスさんに言うと「それは便利だが、スキルアップというには地味だな」と言っていた。
それでもライブラリアンのスキルに関して教えてくれる人はいないし、スキル保持者である私の感覚が一番当てになるだろうということで、書き込みができるようなスキルアップを目指している。
このスキルアップを思いついたのは最近。
シャンギーラ語を勉強し始めたからだ。
今まで本を読んで勉強していても、本に線などは引けないので、気になった点は別の紙にメモしていた。
だが、シャンギーラ語に関してはこの作業が本当に手間だったのだ。
というのも、ナオが作ったという『ナリス語ガイドブック』もライブラリアンにあったので、それを最初の教材として勉強に励んでいたのだが、何せ文字も発音方法も、文法も何もかもわからないのだから、メモするものがいっぱいだったのだ。
トリフォニア語を勉強したときは、文字はマリウス兄様に教えてもらっていたし、口語ではトリフォニア語を話していたのだから、難しい単語を覚えて、たくさん音読してスムーズに読めるようになるだけだった。
ナリス語を勉強したときもこうではなかった。
確かに文法や発音、単語の意味は違ったけれど、トリフォニア語と共通の文字を使っていたのでなんとなく読むことはできた。
それに、イヴもアイリーンもバイロンさんもいたので、わからなければその場で聞けた。
皆のんびり馬車に揺られて帝都を目指していたので、暇な時間はいっぱいあった。
だから、本を読みながら「ここわからないからあとで聞こう」とメモを取る場面などほとんどなかったのだ。
だが、シャンギーラ語は違う。
文字すら違うのだから、1文字目からわからない。
だって、シャンギーラ語とナリス語の辞書すら見つけられないくらいなのだから。
夜、『ナリス語ガイドブック』から簡単な一文を抜き出し、辞書で意味を調べる。
わからないなりに意味を推測するが、本当にまったくわからないので、翌日ナオに発音や意味、文法について聞くことになる。
その時に、自分のライブラリアンに聞いたことを書き込めたらいいなぁと思ったのがきっかけだ。
「でも、どうやって……。スキルの場合はどうやったらスキルアップするのですか?」
「そうだな。まず、魔力量が多くない場合は中級には上がれない。君の場合は、中級の
魔力量も十分で、スキルも6歳の時から結構長い時間使ってきた。
魔力操作も7歳で魔法の勉強をし始めてから、1年も魔力操作ばかり訓練していたからか結構慣れている。
それでも私はまだ初級だ。
どうやったらいいのだろう?
「考え方を変えてみよう。君は他の火や風などの中級の魔法を使うときどうやっているんだ? やはりイメージか?」
なるほど。私のスキルもイメージ次第でスキルアップするということ?
これに関しては、誰もわからないのだからやるしかない。
本を出し、ナオの作った『ナリス語ガイドブック』を開く。
そして前世にあった蛍光マーカーをイメージしながら、指で文字をなぞる。
「わぁ! できた! ユリウスさん! 見てください。線が引けました」
調子に乗ってもう一度。
できた。
「見せてみろ。うむ。やはり私には見えないか。中級だとSクラス認定には使えないか……」
うれしくて、文字もかけるか試してみる。
だが、指で文字を書くのは難しい。
ペンが欲しいのだ。
ペンを強くイメージしながら、右手に魔力を集める。
魔力をペンの形に成形していく。
ぐぐぐ……。できた。
出来上がった魔力ペンを持ち、本に書き込む。
「その不思議な筆は、文字を……書いているのか?」
ユリウスさんがつぶやく。
あぁ、前世のボールペンをイメージして作っちゃったからだ。
そんなことを思いながら、さらに書き込む。
「テルー! もう終わりにしろ!」
急にユリウスさんが大声を出す。
驚いてユリウスさんの方を見ようとした時、視界が揺れて、足に力が入らないことに気づいた。
ペタリと座り込みそうになる私をユリウスさんが支えてくれる。
「初めての魔法なのに、やりすぎだ。馬鹿者」
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