第78話 【閑話】マリウス視点

テルミスから手紙が来た。

さぁ今日は何を収穫したのかな?

どんな料理を食べたのかな?

そんなことを思いながら、手紙を読む。

今回も裏表小さな文字でびっしりだ。

「マリウス兄様

お久しぶりです。

今私たちはチャーミントン男爵領に入ったところです。

そうそう今日はビッグニュースがあるのです。

なんと!この旅に仲間ができました。

アイリーン・メンティア元侯爵令嬢です。

冤罪で婚約破棄され、国外追放になったそうなのですが、昨日山で騎士たちに殺されかけているところに会いました。

ドレス姿のか弱い令嬢1人に5人がかりって酷いと思いませんか?

そもそも罪は、嫉妬から男爵令嬢に嫌がらせをしたから追放だと騎士が言っていたのですが、追放になるほどの嫌がらせって何なのでしょう?

しかもアイリーン曰く身に覚えがないようですし、嫌がらせされたというご令嬢の身分も男爵です。

アイリーンの方がかなり上の身分ですのに。

しかもですよ!刑罰は国外追放ですのに、殺そうとしていますし…

昨日アイリーンから話を聞いて、私は今とても怒っています。

アイリーンの弟さんが学園にいらっしゃるそうです。

アルフレッド兄様経由でアイリーンの手紙届けられないかしら?」

は?

アイリーン・メンティア侯爵令嬢!?

国外追放?

僕はまだ学園に通ってないからあまり知らないが…父様なら何かご存知かもしれない。

「父様!テルミスから手紙が!」

「おぉ。楽しみにしていた。

今日は何を収穫したんだ?」

「父様!

収穫の話じゃなくて、アイリーン・メンティア侯爵令嬢についてです。」

「アイリーン嬢!?

確か殿下の寵愛している男爵令嬢に嫌がらせをして婚約破棄され国外追放になったと聞いたな。

殿下も愚かな事をなさる。

私は王宮で何度か会ったことがあるが、そういう事をするタイプには見えなかった…

むしろまだ学生だというのに、知識も深く、自分なりの考えを持って執務にあたっていた。

彼女がいたからこそ殿下を次期王に推していた人も1人や2人ではない。

表立って反発している人はいないが、メンティア侯爵を筆頭に総力をあげて行方を探していると噂を聞いたな。

で、そのアイリーン嬢がどうしたのかい?」

「そのアイリーン嬢が…テルミスと一緒にいるようです。」

「は?」

あ、うん。僕もそう思った。

そっと手紙を渡す。

「テルミスには手紙は必ず届ける事。

噂だが、メンティア侯爵がアイリーン嬢を助けようとしている事を伝えてくれ。

それにしても…追放のみならず暗殺しようとしていたなんて…

よかった。最悪の事態にならなくて。

ん?騎士5人相手にどうやって助けたのだ?

……

ふー。多分イヴリンさんだろう。

うん。そうだろう。きっと。

テルミスは1人で無謀にも5人の騎士にぶつかって行ったりはしない…はずだ…

うん。…うん。」

最後の方は父様の声がどんどん小さくなって聞き取れなかった。

テルミスに早速返信すると、少しして糊付けされた手紙が届いた。

そのままアルフレッドに手紙をメンティア侯爵令息に手渡すようお願いする。

少しして、アルフレッドから返信が届いた。

「マリウス

手紙は無事渡したぞ。

侯爵自身も王都に滞在中だったらしく、手紙はすぐに侯爵まで届いた。

その上で、「是非とも男爵に感謝の意を伝えに行く」なんて言っていたから侯爵がそっちに行くかもしれない。

多分感謝…だけではないかもしれないがな。

今王都では婚約破棄の余波でハリソン殿下から人が離れていっている。

当たり前だが、メンティア侯爵もそうだ。

殿下は一人っ子なので殿下の反対派閥がどのような策で対抗するつもりかはわからないが、反対派に入ってほしいという話もあるだろう。

はぁ〜。テルミスは偶然助けたのだろう?

人を避けて山中を歩いて逃げていたというのに、すごい確率だな。

助けた…という事は騎士と交戦したという事なのだろうと思うのだが、テルミスは大丈夫なのか?

怪我してないのか?

あ、そうそう。

アイリーン嬢がどんな人かだったな。

アイリーン嬢は、婚約破棄の時に言われたような嫌がらせをするようなタイプじゃない。

未来の王妃だったのだから誰でも気軽に話せるフレンドリーな人ではないが、情に厚く、困ってる学生をそれとなくフォローしているのを何度かみたことがある。

学園の成績も優秀で強いからな…テルミスと一緒にいても安心だ。

うん。イヴリンと2人よりよほどいい。

また進捗があったら教えてほしい。

アルフレッド」

そんな手紙が来て数日後、本当に侯爵から訪問の手紙を受け取り、そのさらに数日後山を越えて本当に侯爵がやってきた。

キリッとしたできる男風の侯爵が涙ながらに謝意を述べるのを聞いて、胸が痛んだ。

アイリーン嬢は冤罪の上無理矢理国から追放された。

テルミスだって同じようなものだ。

誘拐されかけ、危険性が高まったから国から逃げなければならなかったのだ。

ただライブラリアンだというだけで。

僕は領地運営を学んでいるけれど、まだドレイト領から出たこともないし、社交界というのも行ったことがない。

だから政治なんてものはまだ全然わからない。

けれど、なんの罪もない人が明日には逃亡者になるかもしれない…そんなこの国の在り方はおかしいんじゃないだろうか…

小さな疑念がポツンと浮かんだ。

今父様と侯爵は大人の話をしている。

どんな話をしているのだろう?

帰り際侯爵から手紙を預かる。

アイリーン嬢に渡す手紙だ。

「ありがとう。

君が妹さんを守った話は聞いたよ。

君からしたら僕から感謝される謂れはないかもしれないが、君が守ってくれたテルミス嬢がいなかったら、うちのアイリーンはもうとっくに死んでいた。

これはアイリーンの手紙に書いてあった事なんだがね。

本当にテルミス嬢が現れるのが5分でも遅かったら確実に死んでいたと言っていたよ。

だから…本当にありがとう。

私はアイリーンを救ってくれたテルミス嬢と、こんな時期にアイリーンからの手紙を届けてくれた君たちへの恩を決して忘れない。

テルミス嬢のためにも、スキル狩りについて僕達も調べてみるよ。」

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