第62話

結界の実験をしてから4日。

魔法陣についても勉強して、条件のつけ方とかそれを魔法陣にどう表すかなど検討して試作の魔法陣を作ったのが昨日のこと。

実験した結果、条件の付け方が悪かった…というか私の考えが足りず、着用すると全身に結界が張られる仕様になってしまった。

いいと思うでしょ?

私も着用している部分だけではなくて、着用者の全身を覆えた方がいいじゃない!と思ったからそういう条件を描いたのだけど…これでは、一切攻撃魔法が使えないのよ。

(ちなみにどうやって実験しているかというと、泥を使って魔法陣を描いている。

実験後に少し手で陣を崩して、浄化をかければ元通りというわけだ。)

もし諦めの悪い敵がいたとしたら、決して諦めない敵がいたとしたら、こちらからは手を出せないので、誰かが倒してくれない限り、ずっと攻撃され続けることになる。

結界のおかげで怪我はしないだろうけど、そんなことになったら怖いだろうな…

というわけで今日は手首より先だけ範囲外になるような魔法陣を模索している。

手首より先だけを範囲外にできたら、手は無防備になってしまうけれど、魔法はつかえるからね。

けれど、これが難しい。

当たり前だけど、条件が複雑になればなるほど難しいし、魔力もかかるのだ。

身体はほぼフルカバーで、魔力消費は少なめで、手だけは結界の範囲外。

どうすべし?

自分の手首を見ながら、ここだけ結界を切りたいんだよなぁ…

手首の部分に、境界線の魔法陣を刻む?

でも、陣が複雑になってしまうなぁ。

まぁ他に当てがないわけだし、やってみよう。

それから何度か泥で試作して、クロスアーマーに結界を付与。

ちょっと苦戦した。

テントとローブに空調の魔法陣を付与する時も結構苦戦したもんな…

おかげで2、3回魔力切れギリギリになってチャイのお世話になった。

こればっかりは付与の場数を踏まなきゃ行けないんだろうな。

普段は魔力を込めて陣を描くだけなのだけど、付与の場合はそれを定着させなければならない。

定着するまで魔力を注ぎ続け、最後にグッと圧をかけるようにするとピカっと一瞬光り、なんとか定着するのだ。

今回ももうこの時点で魔力は残り1割程度。

慣れたらもう少し少ない魔力で付与ができるようになるのだろうか…。

翌日からはアラクネの糸に魔力付与。

これがまた難しかった。

浸透させるって簡単に本に書いてあるけど、最初やってみた時は糸の周りをふよふよ魔力が纏わりついてるだけだったし、それから何度やってもコーティングしたようにしかならなかった。

周りにまとわりついているだけなので、当然すぐ解除されてしまう。

3日ほどかかってやっとできた。

コツは煮物に味が染み込む様子をイメージしながら、付与することだ。

浸透と聞いて、真っ先に思いついたイメージは染色だったのだけど、イメージがうまくいかなかったのかできなかった。

煮物の方が確かに身近だね。

ちなみに出来上がった糸は、透明ながらキラキラ光っていた。

綺麗。

そのあとはクロスアーマーに先に付与した結界の魔法陣の上をアラクネの糸でチクチク縫う。

魔力を流すと陣が浮かび上がるので、魔力を流しながら縫うのだ。

魔法陣の付与をしてあるので、アラクネの糸でさらに魔法陣を描かなくても完成といえば完成だけど、まだ付与初心者で定着が甘いかもしれないし、魔法の技術も大してない私の守りの装備は大事だからね。

このクロスアーマー作りは、夜の見張りの間だけしかやっていないので、目の疲れ、魔力切れなどなどの理由で、毎日少しずつしか進まず、結局出来上がったのは、屋敷を出てから2か月経った頃だった。

ふー。

そうだ!クロスアーマーが出来上がったことアルフレッド兄様に報告しよう。

マリウス兄様に言付ければ伝えてくれるだろう。

みんなも…元気かしら。

出発の時にマリウス兄様に渡したメッセージボックスをポシェットから取り出す。

これを使うのは、今日が初めてね。

出発してすぐにメッセージを送りたくなったけれど、こんなすぐに送っては迷惑ねと思って、何か…何か言うべきことができたら送ることにしようと思って、今日まで封印していたのだ。

クロスアーマーの報告なら…いいかしら?

モースリーを倒したことも話そう!

イヴが毎回あっという間に狩りをしてくることや、星空がとっても綺麗なこと、お料理当番していること…

マリウス兄様に聞いてもらおう。

あとは何話そうかな?

送れる量はメッセージカード1枚きり。

何を書くか思案する。

ふと、マリウス兄様からはメッセージがあるのだろうか?と思った。

いや、実はずっと気にしてた。

でも、毎日箱を開けてはメッセージが来ていないか一喜一憂するのが怖くて…

そればかり気を取られて、何も手につかなくなりそうで…ずっと見ぬふりしていたのだ。

恐る恐る箱を開ける。

ふわっ

紙が風で飛ばされそうになる。

慌てて抑える。

そこには何枚ものメッセージカードがあった。

兄様…こんなに送ってくれたんだ。

嬉しい。

一番初めは、出発して1週間してからだった。

『テルーヘ

元気にしているか?怪我などしていなければいいのだが。

今日やっと父様と母様が帰ってきたよ。

テルーのことすごく心配していた。

僕もついていきたい位だったが、テルーが一刻も早く安心して暮らせるようにこちらで頑張るよ。

体に気をつけて。

マリウス』

心配してくれてたのに、変に怖がって今までメッセージボックスを開けなかったことを後悔した。

それと同時に、久しぶりにマリウス兄様の字を見て、懐かしくて胸が締め付けられる。

まだ2ヶ月。

たった2ヶ月だけど、ずいぶん遠く離れてしまった。

離れてもこうして心配してくれる、連絡してくれる家族がいるというのは、本当にありがたい。

迷惑ばかりかけて何も返せない私なのに変わらずよくしてくれる。

それなのに、私は…連絡一つ送らないで…

これからはもっとマメに連絡しよう。

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