第50話
男がナイフを振り上げる。
近くの一人が妨害する。
その一瞬の隙で狙われた子は避け、さらに他の子が攻撃を仕掛ける。
もちろん手練れの男には当たらない。
しかし人数の多い子供達にも当たらない。
男は当たらないことに、かなりイラついている。
それを何回か繰り返した時ぽつりと聞こえた。
「遅い。」
私を捕まえていた男から水が鋭く飛び出す。
しまった!ずっと攻撃しないからこっちはノーマークだった。
「ルーーーーク!!!!!!」
ルークが振り向く。
驚愕。
わずかに体を捻るが…間に合わない!
グハァッ!!
「「「「ルーク!!!!」」」」
また雲がかかったせいでよく見えない。
どうなったの?
はあっはぁっ。ガサ。ドス。ドカ。ゴフォッ。グッ。
何が起こっているの?
怖い。
お願い。みんな無事でいて…
再び月明かりがのぞいた。
…あ、あ…
そこには死屍累々の子供たちとネイトを踏みつけた男の姿があった。
あぁぁぁぁぁぁぁ!!!
ネイト…ルーク…
なんで?
なんでこんなことになった?
なんで?
なんで?
なんで?
ゆるせない。
許さない!
私に力があったなら…あいつらなんて…許さない!
許さない!
何したっていうのよ!
悪いのはあいつらじゃない!
「こいつらも売るか?一応まだとどめはさしてないが」
生きてる!まだ…生きてる!!!
「いや、必要ない。
こいつは孤児院に通ってただろう。
多分そいつらは孤児だ。
なんの価値もない。捨てておけ。
あ、ちゃんととどめは刺せよ。」
は?何言ってるの?
みんなは私の友達で…
ライブラリアンだからって蔑まないできた子たちなのよ…
野菜も作るのが上手で…
小さい子には優しくて…
みんなでお料理も作れるし、文字の読み書きもあっという間にできるようになった才能溢れる子達なのよ…
少なくても、あんた達に蔑まれる謂れはないわ…
「なんだ。そうか。
お嬢様のお友達が孤児とはな!はっはっは。
じゃ処分…「うるさい…うるさい!うるさい!!!」」
「
私は男たちを力いっぱい掴む。
!!!
男が巨大な土の手に囚われたことで水の壁が解けると、一目散にみんなに駆け寄る。
さっきまで怒りでいっぱいだったはずなのに、今はどこか薙いでいる。
さっき怒っていたのは誰に対してだったのだろうか…
こんな仕打ちをした男たちか?
いや違う…みんながやられていくのをただ見るだけしかできなかった無力な…役立たずな自分に対してだ。
でも…生きている。
みんなボロボロだけど生きている。
なら今度こそ…守る!
ごめんね…私が助けを求めたから。
ごめんね…助けられなくて。
ごめんね…無能で。
遅くなっちゃったけど、今助けるからね。
今度は私が守るからね…
「天に御坐す敬愛なる四柱の神々よ。願わくは命の泉に力を。願わくは友の身を切る数多の傷を治し給へ 御力を友へ!」
このところずっと引きこもって勉強してきたのが聖魔法の魔法陣でよかった。
スラスラと古代語で命の呪文が紡がれ、魔力がどんどん吸い出されていくのを感じる。
いつもは蓋をしている魔力も、上手くコントロールできなくてちょろちょろと漏れているが仕方ない。
月に雲がかかる。
本当に今日は雲の多いこと。
こんな闇夜では何も見えない。
目を閉じ、魔力に集中する。
あぁ…なんで私はこんなことも思いつかなかったのかしら。
魔力感知すればみんなの動きも、男たちの動きもわかってフォローできたかもしれないのに。
よかった。
本当にみんな生きてる!
わずかだけど、魔力を感じる…少しずつ回復しているわ!
よかった!
「調子に乗りやがって!!!」
「
男から強い風の塊が飛んでくるので、風魔法で相殺する。
私たちを守る盾のように捕らえた男たちと私たちの間に風の壁を作った。
これでこっちに集中できる。
みんな回復しているけど、ルークが…ルークの回復が間に合ってない。
傷が深くて命の呪文による回復を上回るくらいのスピードで血が失われているのだ。
どうすれば…血は止まるの?
「ルーク!待ってて。今助けるから…頑張って。」
手を傷口に持っていき、止血を試みる。
8歳の小さな手では防ぎきれない。
けれど少しは効果があるようだ。
あ、魔力で補えば?
手からルークの体の表面に、傷を覆い隠すように魔力を這わせピッタリ蓋をする。
流石に遠隔ではできないのでずっと傷口に手を当てていなければならないが、ようやくルークの魔力が回復し出した。
よかった。
治れ!がんばれ!治れ!治れ!
森がざわめく。
何か…来る!!!はやい!!!
その瞬間、いつの間にかネイトが私たちの前に現れ、一瞬で殴り飛ばされて行った。
「ネイトー!!!」
クッ…また守れなかった。
「よそ見していていいのか?」
!!!
いつの間にか後ろに手を捻られ、顔が土についていた。
目の前には馬車に残っていたはずの男。
今の速さを見る限り、身体強化かしら。
魔法を繰り出しても私の魔法なんて避けられる。
それに…すでに男たちを捕まえる土の手、攻撃を跳ね返す風の壁、ルークの治療と3つも同時進行で魔法を使っているのだ。
次は魔法を放っても他の魔法が解除される気がする。
それは…マズイ。
「何をしてる?魔法はもう終わりか?」
私は答えない。
男は私の隣に横たわるルークに足を置く。
何してんの?
やめてよ…これ以上したら死んじゃうじゃない。
やめて
やめて
やめて
「その足…どけなさいよ。」
!!!
鳥が飛び立ち、獣は逃げる。
木々が揺れ…森がざわめく
私を掴む男の手が緩む。
すかさず男の手を振り解き、ルークに近寄る。
「ごめん。今、助けるから。」
ネイトの魔力反応も小さいがちゃんとある。
早く帰らなきゃ、みんな助からない…
「天に御坐す敬愛なる四柱の神々よ。願わくは命の泉に力を。願わくは友の身を切る数多の傷を治し給へ 御力を友へ!」
お願い!助かって!
「な、なに…何してんだぁぁぁぁぁ!」
拳を振り上げる男を無視して魔力を送り続ける。
シュッ
ズパ
静寂が場を支配する。
何かが肩に触れる。
「テルミスちゃん大丈夫?
よくがんばったわね。
もう休んで。
この子達には私が回復かけるから」
その聞き慣れた声にやっと振り向けば、イヴリン姉様とアルフレッド兄様が心配そうに見ていた。
遠くではゼポット様が土の手に囚われてる男たちを物理的に捕縛している。
「テルミス…遅くなってすまなかった。
もう大丈夫だ。」
よかった。助かった…
そう思った瞬間意識を手放した。
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