第41話

春になったらやろうやろうとみんなで話していたことがあった。

それがさつまいも植え。

畑を始める時に、一番最初に思いついた野菜だ。

みんなで落ち葉を集めてみんなで焼き芋楽しいだろうなと思っていたのに、ジョセフに聞いたらもう植えつけの時期が終わっていて泣く泣く諦めたのだ。

だから今年はさつまいも。

秋になったらさつまいもパーティだ!

楽しみ。

孤児院は、シチューパーティの時にマリウス兄様が少し剣の相手をしたことで剣ブーム。

兄様みたいに剣も強い、魔法もすごいのは…やっぱり憧れるよね。

今男の子たちは私の護衛に少し指導してもらっている。

私も護衛の近くにいるようにしてる。

どこにも行けないのは嫌だなーとかは思わない。

だって私の目の前には天使がいるから!

「はぁ〜。可愛い。

いつの間にこんなに大きくなって〜。

よちよち歩いてるー!

あんなにニコニコで歩いてくる姿…可愛すぎる…」

レアがお世話していた赤ちゃんのミアもいつのまにかよちよち歩きしていた。

今日はポカポカいいお天気だから、庭に布をひいて、レアと私を含め数名の女の子とミアを愛でている。

「可愛いのはわかったから、絵本も読んでよー!」

そうだった。

愛でるために集まった訳ではなかった。

絵本の朗読するんだった!

「ふふふ。この子もきっとお話楽しみにしてますよ」

「じゃあ今日は…」

「ねぇ。お姫様の本読んで!」

「私も!お姫様の本がいいわ!」

「こないだも読んだのに。ふふふ。

気に入ったの?」

「うん!最初は王子様にも誰にも味方がいなくて、嫌な人ばっかりで悲しいんだけど、婚約破棄されて、追放されて違う国に行ったらもっと楽しい毎日が待ってるじゃない?

すごくお姫様頑張ってるから、やっと幸せになれてよかったわーって私も幸せになるんだよね。」

「わかるー!」なんて盛り上がる女子の元に男の子が1人やってきた。

誰だろう?年はマリウス兄様くらいかしら?

見たことないし…身なり的にも孤児院の子じゃ…ないよね?

「レア…

久しぶり。ちょっと話せないかな?」

レアはミアのことを頼むと話をしに行った。

私たちはその後何度も読んだお姫様の話を読み、男の子が何人か増えたので騎士物語も読んだ。

その頃になると、ミアも退屈してきたのかぐずり始める。

ど、ど、どうしよう?

もう話終わったかしら?とちらりと伺うと、泣き声に気づいてレアがこちらに帰ってくるところだった。

先程話していた男の子も戻ってきて、胸に手を当て挨拶をしてきた。

「先程は挨拶もなく申し訳ありませんでした。

ドラステア男爵が次男レイモンドと申します。

以後よろしくお願いします。」

「まぁレイモンド様。

ご丁寧にありがとうございます。

お初にお目にかかります。

テルミス・ドレイトと申します。」

「昨年のパーティは病にかかってしまい、出席できませんでしたので、ここでご挨拶できてよかったです。

兄から話を聞いたのですが、その…隠されてはいないのですか?」

あぁ。ドラステア男爵の次男ならイヴァン様の弟か。

となると…隠してないかと聞かれているのは、スキルのことなんだろうな。

「隠しても…いずれバレることですもの。」

「しかし!それでは…いえ…。

それにまだこのような場に来られているのは驚きました。

大丈夫なのですか?」

「どういう…?」

突然レイモンド様がふっと身を屈めた。

誰にも聞かれぬよう一言ささやくと「それでは。また。」と言って帰って行った。

呆然と立っている私を変に思ったのか、ネイトがやってくる。

「おい、大丈夫か?

なんか嫌なこと言われたのか?」

「え?あ、…いいえ。

心配してくれてありがとう。

でも大丈夫よ」

本当か?と瞳を覗き込んでくる。

早く切り替えないとネイトは結構鋭いのだ。

「本当よ!

それよりさつまいも。そろそろ植えよう!」

……

「無理はするなよ!」

若干納得していなかったようだが、追求はされないらしい。

よかった。

さつまいもはあっという間に植えられた。

ネイトがスキル判定で身体強化になったので、畑づくりがすごく高速で進むし、皆も手慣れてきて、手際がいい。

唯一私だけが畝につまづいて転けたり、騒がしかった。

薄々気づいてたけど、私運動音痴よね…トホホ。

みんなに大丈夫かと心配されたり、何やってんだと呆れられたり、泥だらけの顔を笑われたり、さつまいも植えは何事もなく、和やかに進んだ。

ちゃんと植え終えて、少し休憩するとそろそろ帰る時間だ。

とても楽しかったはずなのに、馬車の中で一人になると言いようもない不安が首をもたげる。

「早めに平民になった方がいいんじゃないか?」

イヴァン様のような侮蔑の言葉ではなかったと思う。

ではどういう意味だろう?

耳元で囁かれた言葉がいつまでも離れなかった。

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