第39話

あれからまた数ヶ月たって、外は春の暖かさが降り注ぐ。

我が家の庭も私の大好きなラナンキュラスが咲き誇る時期になりました。

ルカは宣言通り3ヶ月で私の19センチの木型を作り上げた。

そのまま他のサイズの木型製作に入ろうとしたところで私からストップをかける。

「以前ルカの話を聞いて思いついたのですが、底の厚い不安定な靴を作って、まずお金を稼ぎたいと思います。」

「そういえば、そんなことおっしゃってましたね。

底が厚くて、足長が短くて、底がカーブしているっていう靴でしたっけ?」

この話を最初にしたのは、ルカに専属靴士になってもらえないかと口説いていた時。

あの時は、ルカの話を聞いてダイエットスリッパも作れるなー私も欲しいなぁ程度だったけれど、ルカから木型にかかる期間、費用、その他諸々の靴部品にかかる費用を聞いて、先にお金を稼がなければならないことに気がついた。

事業としてやっていくために最低限揃えなければならない資材費だけでも、結構なお金がかかるのだ。

プリンの時は本当にかかったのは器のガラス瓶と卵、牛乳、砂糖、カラバッサという原材料費だけ。

その他の調理器具は家にあるのを使っていたから、初期費用の高さを甘く見ていた。

我が家は靴屋じゃないから、靴を作るためのあれやこれやは1から揃えなければならないのだ。

ルカはまだ実家で修行中なのでまだ事業を展開していないが、今からでも金策しないといつまで経っても立ち上がらない。

そう気づいてしまったのが先週。

どうしようかと頭を抱え、うーんうーんと捻り出したのがダイエットスリッパ。

もともと私が欲しいと思った物だから、次に作ってもらおうと思って簡単な設計図を書いていたし、女性にとって美は追求したいものだから美脚とか美姿勢を謳い文句にしたら売れないかしら?と思ったのだ。

あと、私が知らぬ間に特許を得てロイヤリティを稼いでいたフロアワイパーのように最初にモノさえ作って特許を取ってしまえば、こちらで頑張って生産しなくてもお金が入ってくる。

現状靴を作れるのはルカ一人で、大量の木型も作らなければならなくて、修行もしなければならなくて…と時間はいくらあっても足りないくらいだから、生産は誰かに任せたいのだ。

お母様にも相談したら、出来上がったらお母様自ら商人に売り込んでくれるそう。

確かに特許取っただけでは認知度がなさすぎて売れるものも売れないか。

全然考え付かなかった。

今はルカに自分で描いた設計図片手に、ダイエットスリッパを説明しているところ。

「でもお嬢様、そんなに底をカーブすると歩きにくいと思うのですが…」

「そうです!それを狙っているのです。

不安定な靴で歩けば、身体はバランスを取るため真っ直ぐ保たねばなりません。

まっすぐな姿勢というのは、ちゃんと体幹が鍛えられてないとできないのです。

なのでこの靴を履いている間は、自然と背筋が伸び、体幹を使って姿勢を保つことになります。

それに足長が短いので、踵を支える部分がなく、自然とつま先立ちになり、ふくらはぎに負荷がかかります。

ふくらはぎの筋肉をしっかり使うことで、血流も良くなってむくみも解消されるのです。

いつでもどこでも好きな時にトレーニングができるシューズなのです。」

「なるほど。しかし…ご令嬢がトレーニングなどするでしょうか?」

「します!絶対に。

個人差はありますが、女性の美にかける情熱はすごいのです。

履くだけで、美脚、美尻、美姿勢が手に入るとなれば。

しかも履くだけだからあからさまに美のために頑張っていますと人にバレもしない。

それと、少し前にマナーの先生に聞いたのですけど、これから体のラインがわかるドレスが流行るそうですよ。

今までは隠せたあれやこれやが気になる頃だと思います。

商機です!」

「あれやこれや…俺聞いてよかったのか…?

いや聞きたくなかった…」などとぶつぶつ言っているが、これも仕事と思って欲しい。

それからルカは修行の合間にダイエットスリッパ作りに取り掛かり、1ヶ月後にカーブの角度違いのスリッパを3足作り上げた。

その中から安全かつ足やお尻の筋肉に効く1つを選び、その角度で足長とワイズ違いの2足を作り上げたのがさらに1ヶ月後。

子供用、大人用ということでサイズ違いで2つ特許を取った。

ダイエットスリッパというと拒否感があるかと思い、「ラインキーパー」という名前で売り出した。

履いてトレーニングすることで、ピンとした良い姿勢ライン、身体のラインをキープするって意味なのだが…ちょっとわかりにくかったかもしれない。

ちなみに特許をとって売り出したのは、木のソールに甲を覆うフロント部分は革のシンプルなデザインだが、オーナー特権で私の靴のフロント部分は、花柄の刺繍入り布地だ。

厚紙を中に芯として入れる一手間がかかっている。

基本誰か他の人が作ってロイヤリティだけ稼げればいいかと思ったが、わざわざ頼まれることがあったならフロント部分はお客様の好きな布を使って作るちょっと価格高めのセミオーダーにしてもいいかもしれない…

うん。お金は大事!

まぁ、まずは売れなければ仕方ないのだけど…

どうか売れますように!

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