第34話
今日は朝から地理の勉強をしている。
早めの昼ごはんを食べたら、お母様とお出かけだからだ。
お出かけ…と言っても、行き先は商業ギルドで開店のために色々と登録しに行くだけだけども。
地理の勉強は、ようやくトリフォニア王国内の領地の名前、位置、形を覚えたところ。
次は人口や生産物などを覚えようと思っていたのだが、昨日スキルアップしたので、何の本が増えたかと思い調べてみると、山や川についての本も増えていたので、人口や生産物ではなく、地形を調べてみようと思う。
そもそもインターネットなどないこの世界で他領の人口なんてすぐに調べようがなかったというのもあるけども。ふふふ。
トリフォニア王国は半島にある王国だ。
半島の中央付近に王都があり、そのすぐ東側には我がドレイト男爵領を含む小領地がいくつも並んでいる。
この小領地はどこも王都から近いにも関わらず、さほど栄えてはいない。
それはこの小領地群をカラヴィン山脈が縦断しており、どの領地も3分の1〜3分の2は山地だからだ。
残るわずかな平地で街を作っている為、それほど栄えていない。
王都から近いという大きなメリットがある位置に、弱小貴族の小領地ばかりあるのはそういうわけである。
その小領地群のさらに東にあるのが、半島の付け根から東側の海岸線の3分の2有している大領地ベントゥラ辺境伯爵領で、カラヴィン山脈はこの半島の付け根を通り、国境を越え、大国クラティエ帝国まで続いている。
また、このカラヴィン山脈からは何本も川が流れている。
1番太く短いのが、クラティエ帝国との国境近くの山間からベントゥラ辺境伯爵領を流れ、ミオル海に流れ込むリトアス川。
一番長い川は、トーレス川で、クラティエ帝国側からレペレンス王国を通り、メンティア侯爵領を通って、ユーベル海に至る。
こうやって見てみると、ベントゥラ辺境伯領は山あり、川あり、海ありで、自然豊かな領地だなぁ。
いつか行ってみたい。
そうこうしているうちに、お母様と出発する時間が近づいた。
軽くサンドイッチをつまみ、メリンダに髪を結ってもらう。
誕生日プレゼントとしてもらったばかりの赤いポーチには、ハンカチとメモ用紙、そして念のため魔法陣も忍ばせている。
このポーチは、いざという時これさえ持っていればどこでもなんとかやっていけるいわば避難グッズだ。
何があったら困らないだろうか…とポーチをもらってからよく考えている。
やっぱり下着や洋服は必要だし、買おうと思えば値が張る外套も用意したい。
もちろん現金も忍ばせておきたいのだけど…どれも今は持っていないのだ。
いや、下着も服も外套も持っているけれど、下着は普段使っているし、服と外套はいつもの貴族令嬢らしい服装ではなく、もっとカジュアルなものが欲しい。
普通に街を歩けるような。
あ・・・あとサリー様に頼んで、プリンもたくさん作ってもらおう。
食品も腐らないというから入れておかなきゃ。
「お嬢様。準備が出来ましたよ。」
つらつらとポーチの中に準備したいものを考えていたら、あっと言う間に髪がセットされていた。
サイドは編み込みでスッキリの二つ結びだ。
※※※※※※※※※※
馬車に揺られて少しして、商業ギルドについた。
周りに比べて大きな建物だ。
建物の周囲には馬や馬車も沢山ある。
入り口から一歩中に入ると、たくさんの人が大きな声で話している。
そんな中私たちは受付カウンターをスルーして奥の部屋へ。
「この子のギルド登録をお願いするわ。
グループ登録も。
それともう1つ。
今すぐではないけれどお店も出すつもりなの。
その相談も今日は乗ってほしいわ」
「承知しました。
グループ登録は、通常複数の店を同時経営する場合に登録するものです。
今回開店されるお店は1つのようですが、今後も新たなお店を出す予定なのでしょうか。
もしそうでなければグループ登録でなく、店舗登録の方が審査もゆるやかですが…」
「言い忘れていたわ。
以前うちのオズモンドが代理登録したフロアワイパーの特許は、テルミスが持ってるの。
今まではドレイト家としてロイヤリティを受け取っていたけれど、今回お店も始めますし、規模が大きくなりそうなのでテルミスの案件は別に分けたいのよ。」
「さようでございましたか。
ではフロアワイパーもテルミス様のグループに紐づけておきましょう。」
と言いながら、用紙をササッと埋めてくれる。
フロアワイパー…作ったわね。
忘れてたわ。
いつのまに特許とっていたのかしら。
あ、もしかしてコレがあるから今家庭教師をつけてもらえているのかも。
裕福な高位貴族以外は、嫡男以外の教育は必要最低限が普通だもの。
「ではこちら確認していただき、問題なければこちらにサインをお願いいたします。」
「テ、テルミスグループ!?」
「グループ名は自由につけられますが、ほとんどの場合オーナーの名前がそのまま入りますね。
変えることもできますが、どうします?」
変えてください!と言う前にお母様が「それでいいわ」と答え、正式にテルミスグループが誕生した。
「では、こちらのカードに個人登録しましょう。
左手をお借りしますね。」
そう言うと、私の左手を掴み少し針で刺して血を出した。
急なことで「やめて」ともなんとも言えず、ただびっくりしている間に、その血をカードに垂らし、半球状の水晶が載った何かにカードを差し込む。
ふわっと光を放つと、カードが出てきた。
もう血はついていない。
真っ白なカードに[テルミスグループ テルミス・ドレイト]と印字されているだけだ。
ふと隣を見ると、お母様もカードを作っていた。
青のカードだ。
[テルミスグループ マティス・ドレイト 02/736]
「お母様は青なのですね。」
「こちらは後見人カードですので。
カードには3種類あります。
テルミス様の持つカードは一般的なギルド会員カード。
ギルドに属し、大なり小なり商いをする人が持っています。
もう一つがマティス様のブルーの後見人カード。
オーナーがテルミス様のように未成年であったり、戦地に商いに行く人が登録されます。
未成年の場合は、成人されるまでの期間限定でカードを使用できます。
そして最後の一つが、ゴールドカード。
こちらは国家を跨いで、取引する方に発行されます。
こちらのカードを見せれば、関所を通ることもできます。」
その後ギルドについての説明を一通り聞いた。
ざっくりまとめると5つの機能があるらしい。
1.大事な契約書の保管
ギルドに提出していると何かトラブルになった時の仲裁をギルドでしてもらえる。
2.新規商品の登録
登録すると類似品を取り締まる権利を有し、他店が売る場合にロイヤリティを徴収することができる。
3.税金の納付
魔導具には高い税がかけられているが、その税を払うためにわざわざ王都へ行かずとも各地にあるギルドから納付できる。
4.銀行業務
ギルドカードさえあれば各地のギルドでお金の預金、引出ができる。
また新規事業の企画案がギルドで認められれば、貸付も受けられる。
5.商品の品質管理及び価格の調整
新規登録時と任意のタイミングで商品を検品する。
また小麦や石鹸などの生活必需品、ポーション、薬草などの医療品についての最低、最高価格を定める。
銀行機能か…すごく便利だな。
商業ギルドは国外にもあるようだし、何かあって国外に逃げる時もちゃんと稼いでいたら資金に困らない。
商売はしっかり頑張らなきゃ。
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