第17話

「そう言えば、テルミスのスキルはなんだったんだ?」

とうとうきたか。この質問…

「ライブラリアンでしたの。

いろいろな本が読めるのはいいのですが、あまり強くはなれなさそうで、どうこのスキルを活かしたらいいのかと思案しておりますの」

アルフレッド兄様は一瞬顔を曇らせたけれど、すぐににこやかな笑みを向けてどんな本を読んでいるのかなどと話を広げてくれた。

周囲では「ライブラリアンって何?」という子たちと明らかに馬鹿にしたようなヒソヒソ声が聞こえるが気にしない。

最初からわかっていたことだ。

そんな時。

「ライブラリアンとは珍しい。

あまり聞かないスキル名ですが、どのような役に立つので?」

無知を装いながらも明らかに馬鹿にしているのがわかる。

トリフォニア王国は、スキル至上主義だ。

中でも重宝されるのは、攻撃魔法がつかえる火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、そして救護などの後方支援できる聖魔法だ。

これらは5大魔法と言われている。

つまり戦いに使えるか使えないかという観点なのだ。

それ以外は植物を意のままに成長促進できる緑魔法と分かりやすく身体の機能が引き上がる身体強化魔法も重宝されている。

その観点から攻撃魔法でもなく、聖魔法でもないライブラリアンの地位は低い。

さらに人には本の中身が見えなかったり、本に熱中するあまり堕落した生活をしがちなので、さらに印象が悪い。

スキル至上主義のこの国で、最底辺のスキルと言っても過言ではない。

マリウス兄様アルフレッド兄様は眉間に皺寄せ、かなりご立腹だ。

お兄様たちが庇ってくれようとしていたが、それを制して話す。

めんどくさいけれど、これから何度も言われることだ。

今のうちにいい返答を練習しておこう。

「本とはすなわち英知の結晶。

役立て方は無数にもございましょう。

私は私のできることをするのみです」

「なんとご立派なお言葉でしょう。期待していますよ。」と去っていった。

はぁ。敵対されるのは疲れるな。

今のはドラステア男爵のご長男イヴァン様ね。

あまり関わらないようにしたいなぁ。

「テルミス大丈夫か?

8つも下の女の子に言う言葉とは思えないな。

あんなのは、気にしなくていいからね。」

「大丈夫です。マリウス兄様。

今この国であまり重視されてないスキルであることは事実ですもの。」

「それにしても英知の結晶か。

確かにそうだな。さっき話した学校の試合でも攻撃力だけでなく、授業で習う兵法を駆使して戦略を立てるチームは強い。

知識は大事だと私も思う。」

「ありがとうございます。アルフレッド兄様。」

空がオレンジに染まりかけた頃、私たち子供は解散となった。

やっと終わった年末の社交に気が抜けたのか、自室に戻り湯浴みをしたら倒れるように眠りについた。

前世があるとは言え、周囲の注目を浴び、嘲笑を受けたのは初めてだった。

パーティ中はなんとか気にしないように過ごしていたけれど、1人になれば違う。

無防備になった心にはじわじわ悲しみと不安が渦巻き、思考が鈍化する。

頑張れば何かできるはず、頑張れば役に立てるはず、頑張れば幸せになれるはずと前を向いていた気持ちも、もうどうにでもなれと思ってしまう。

やらなければならないことはいっぱいある。

学ぶことはたくさんある。

だけどやる気が起きない。

結局私はパーティから何日も、せっかく社交が終わったというのに掃除も、勉強も、刺繍もしなくなってしまった。

ただベッドの上でごろごろと本を読んでいるだけだった。

もちろんメリンダが何度もスケジュールを伝えてくれた。

勉強の時間ですよ、掃除しませんか、刺繍の道具を用意しましょうか…などなど。

その全てに私は、また今度、調子が悪い、やりたくない…と言ってやらなかったのだ。

本当に…私は根っからの怠け者だ。

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