第6話
ガチガチにスケジュールを詰めて、勉強するのではなく、子供相応に遊ぶ時間も必要だと設けられた自由時間。
でも…遊ぶってどうすればいいの?
私は6歳であって6歳でない。
子供は自由な発想で遊びを作り出す天才というけれど、中身が子供でない私は思いつかない。
友達も…いないしなぁ…
とりあえず暇で庭に出てみる。
こうやって時間をとって庭に出るのは、前世を思い出してから初めてだな。
こうやってよく見ると、わが家の庭はとても綺麗だ。
特に今は春。
ピンクや黄色、オレンジの花が咲き乱れている。
東屋からもそんな色とりどりの花を眺められるので、お母様のお気に入りのティータイムスポットだ。
あぁ綺麗。
なんという花なのかしら?
マリーゴールドみたいだけれど、ちょっと大きいし、マリーゴールドは単色だったけれど、これは花びらの真ん中がオレンジで外側に向かうにつれて徐々に白くなっている。
誰かに聞こうと思ったところで、思い出す。
ライブラリアンに植物図鑑があったじゃない!
『散歩の必需品!身近な花図鑑』
図鑑をパラパラめくると、前世で知っている花もあったし、知らない花もあった。
この花は…マリーゴルディア。
あら、秋ぐらいまでお花をつけてくれるのね。
楽しみ。
そして、こ、んぱ、に、お、ん、ぷら、んつ?
あぁこの単語わからないわ。
辞書、辞書。
まぁ!お野菜と一緒に植えると、害虫を寄せ付けないねぇ。
マリーゴールドと同じね。
あ、この単語もわからない。
辞書、辞書。
あぁ。[調合]か。
虫除け、虫刺されの薬、害虫駆除の薬品に使われるとな。
可愛いだけじゃなくて、とても役に立つお花なのねぇ。
すごい。
他にもいっぱい育て方や肥料のやり方、調合方法などなどが書かれているっぽいのだけれど、これはまた今度読もう。
わからない単語のオンパレードだわ。
このピンクのお花は…やっぱりラナンキュラスね!
幾重にも重なる花びらがぎゅっとまとまっていて、とっても素敵。
これは夏になったらもう花は咲かないのね。
残念。
昔から好きだったのに…
?あぁ、前世の私この花好きだったんだ。
その記憶はないけど、今の私もこのお花好きだな。
やっぱりあの前世の私は私で、6歳であって大人なのだわ。
文字にすると何言ってるかわからないわね。ふふふ。
次はこっちの花を調べてみよう…と図鑑を読みながらふむふむと歩いていたら…すっと地面の感覚がなくなった。
ざっぶーん!
池の中におっこちた。
「きゃーお嬢様〜!」
という声が聞こえたけど、こっちもなかなかパニックだ。
服が重くてなかなか思うように泳げない。
…溺れる!
その時、手がぐんと引かれた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
ジョセフ…
ありがとう。
安心したら涙が出てきた。
「もう大丈夫ですからね。」と背中を撫でてもらって、タオルをかけてもらった。
落ち着いてよく見ると、ジョセフは太ももまでしか濡れてない。
これは…普通に立てたのでは?
一気に冷静になるとかなり恥ずかしい。
「助けてくれてありがとう。
そして、お庭を少し荒らしてしまってごめんなさい。
せっかく綺麗なお庭だったのに。」
「大丈夫ですよ。
それよりご無事でよかったです。
風邪をひかれてはいけませんから、ゆっくりお湯にでも浸かってください。」
メリンダにお風呂の用意をしてもらい、湯浴みをする。
まだ午前中だというのに本日2度目である。
池に落ちたり、湯浴みをしたりでお昼の時間に間に合わなかったので部屋で食事をとる。
すると池に落ちたことを聞きつけ、食後お母様が飛んできた。
よかった無事でと言われた後に、案の定怒られた。
たしかに読みながら歩いていた私が悪いんだけど…むぅ。
ちなみに私が落ちぬよう、早速ジョセフは池の周りに柵を作っていたのだとか。
申し訳ない…
食後は算術のお勉強。
足し算、引き算などの記号こそわからないものの、概念はわかるので、記号を覚えて、数字と文章を読めれば楽勝だ。
記号の勘違いで何問かミスしたが、あっさり解けたので明日からはタイムトライアルをすることにする。
せっかく四則演算からやり直すのだ。
むちゃくちゃ計算が早くなったら、仕事の役に立てるかもしれないもの。
1桁の足し算、引き算から始まり、今日は2桁の掛け算、割り算まで。
ひたすら解く。
解けるのは、大人だから当たり前。
あとはどれだけ早く計算できるか。
明日も2桁からやり直そう。
ちなみにメリンダに算術の成果を見せると、一瞬間を置いて、「お嬢様は天才です!」と両手を挙げて喜んだ。
しまった。
初めての勉強なのに、これだけ解けたら変だった…
お勉強の後はティータイム。
今日はお母様も一緒にさっき落ちた池の近くの東屋でいただきます。
東屋のテーブルには、白地に花や小鳥が刺繍されているテーブルクロスがかかっている。
前世を思い出すまではなんとも思わなかったけれど、今見るとすごいわこの刺繍。
刺繍の良し悪しはわからないけれど、美しい。
テーブル中央にはさっき可愛いなと思っていたラナンキュラスが生けてある。
周りには紅茶のセットとクッキーも。
お母様と他愛無い話をしながら、紅茶をいただく。
紅茶はオレンジやレモンの香り立つアールグレイのアイスティー。
今日みたいなポカポカの日には冷たくて気持ちいい。
クッキーもザクザクの食感が楽しくて、とっても美味しかった。
もちろんピンク、オレンジ、黄色の暖色系の花が咲き乱れる庭の景色もいい。
こんなところでお茶できるなんて、前世を思い出すまでなんとも思っていなかったけれど、贅沢な気分だわ。
「ところで気に入った?そのクロス。」
「とても綺麗で素敵です。」
「ありがとう。
実はそれ私が作ったのよ。
きっとあなたも作れるようになれるわ。
私の自慢の娘ですもの。ふふふ。
そろそろあなたも刺繍の練習やってみない?
刺繍は淑女の…いえ、女の嗜みなのよ。」
お母様が…つくった?
こんなに綺麗な刺繍を。
知らなかったわ。
こんな素敵なものを作れるようになるかしら…
作ってみたいな。
お母様に指導をお願いして、今日のお茶はお開きとなった。
お母様も領地を見回ったりとお父様のお仕事の補佐をしているから忙しいので、時間をとって指導してくれるのは週に1回だ。
今日のようにお茶を飲みつつ、お話ししつつ、刺繍をする予定。
ティータイムの後の自由時間では、ベッドに寝そべってゴロゴロしながら本を読む。
読んでいるのは、『やさしい神話』だ。
時間を決めて勉強し、時間を決めてゴロゴロする。
1日中ダラダラ本を読んでいた時より、中身をしっかり覚えてるし、理解してるし…
何よりなんだか充実感に満ち溢れている。
できた。
今日は怠け者じゃなかった。
けど、大変なのはこれから。
やり始めるのは勇気がいる。
だから1歩踏み出せたことはすごいこと。
それを続けるのは、継続するぞ!という気合とそれを実行させる工夫がいる。
1歩踏み始めるより続ける方がずっとずっと難しいのだ。
その後ディナーを食べて、本日3度目の湯浴みをしたらベッドに直行。
夜更かしはやめられないかと心配してたんだけど、日中たくさん動いたおかげでくったくた。
ベッドに入ってものの5分で就寝。
こうして計画1日目が終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます