第十話:協力
「この大馬鹿!!」
保健室に頬を叩く音が響き渡る。あの後、そのままいけば俺は勢いよく地面へと叩きつけられるところだった。しかし、万が一を考えてしっかりと命綱をつけていた俺は一階付近でぶら下がる状態となり、唖然とする周囲を尻目にゆっくりと地面へと降り立っていったのだ。
「全く!!いくら何でも無茶が過ぎるわ!!」
「すみません。もう二度とこんな真似は致しません」
その後、念の為と霜月によって保健室へと連れて行かれた俺はそこで手当てと同時に騒ぎを聞きつけてやってきた教師にお叱りを受け、罰として反省文の提出と三日間の自宅謹慎を求められたのだった。ちなみに霜月は無関係だと言おうとした矢先に霜月自身が自分が事の発端だと言い張った為、彼女もまた同様の罰を受けることとなった。
「でも、良かった」
「何がいいのよ」
霜月が眼光を鋭くしながら再び手を振り上げた瞬間、思わずぶたれた頬を押さえる俺。何なら、さっきのビンタが一番の罰である。
「だって、やっとまともに話してくれたから」
「っ!?だからって、こんなの……………無茶苦茶よ」
俺が笑顔で言うとそっぽを向いてブツクサ言い始める霜月。その頬はどことなく赤くなっている気もした。
「そんなことより、お前さっき言ったこと忘れてないよな?」
「当たり前じゃない。だから、こうして話してあげているんでしょ」
「はぁ…………苦労した甲斐があった。それに……………このカードも使わずに済んだしな」
「?」
俺は安心からか、本人が目の前にいるというのについスマホのギャラリーを開いて、先日撮った写真を見てしまった。すると、そこには商店街にて様々な表情をしている霜月が収められていたのだった。
「ち、ちょっと!!何よ、これ!!」
「へ?……………あ」
そして、それは角度的に霜月にも見えてしまったらしく彼女は顔を真っ赤にしながら慌てふためいた。
「い、いやっ!違うんだ!!これには訳が………」
「……………よ」
「へ?」
「何が望みだって言ってんのよ」
霜月は警戒心を顕にこちらを睨み付けた。普段だったら、それは恐怖でしかないが今の霜月の表情はまるで威嚇する猫そのものだった為、何とも微笑ましく感じられた。
「何笑ってんのよ!!……………ま、まさかあなた変なことを要求しようって言うんじゃなでしょうね?いくら何でもそれは無理よ!」
霜月は自身の身体を抱くような仕草をしながら言った。
「そんな訳ないだろ!ってか、さっきから望みがどうとか要求がとか一体何のことだよ」
「だから、そのスマホに保存された私の写真を消して欲しければ言うことを聞けとか言うつもりなんでしょ?つまり、脅迫ってこと………………あなた、本当に最低ね」
「勝手に濡れ衣を着せるな!!俺はただこの間、撮った写真を眺めていただけだ」
「え、でも"このカードを使わずに済んだ"って」
「それは"無視をするな"って俺の要望が通らなかった時の為の保険だよ。つまり無事に通ったら、使わなくて済むってことだ。他にも要求なんてする程、俺は外道じゃない」
「そ、そうだったの……………」
「俺ってどんな風に思われてんの?」
「ま、まぁそれは誤解だったってことで………………でも、もう一つの方は言い逃れできないわ。いつの間に盗撮なんて」
「これに関しては本当に悪かったよ。ごめん。商店街で霜月を見かけて、見たこともないような表情をしていたもんだから、つい…………」
「それで盗撮なんてされたら、たまったもんじゃないわ」
「本当にごめん」
「あなただから、良かったものの」
「へ?」
「な、何でもないわ!…………それでどうするの?」
「ん?何が?」
「だから、私に要求することよ」
「いや、だから、それは」
「いいえ。私はもうその気になっているもの。むしろ、協力させて。あなたは私に一体何をして欲しいの?」
「いや、でもな…………」
俺が煮え切らない態度を崩さないからか、次の瞬間、霜月は驚くべきことを言った。
「じゃあ、今回は私があなたの要望を聞く。で、それが終わったら、今度はあなたが私の要望を聞いて。これなら、文句はないでしょ?」
「確かに…………お前、頭いいな」
「こんなの普通よ。いい?これで今日から私とあなたは協力関係よ。お互いの望みが叶うまではこの関係は切れないわ」
「ああ。分かった」
「それで?あなたは私に何をして欲しいの?」
霜月の問いにしばし黙り、考え込んだ俺はこう言った。
「俺に恋のアドバイスをして欲しい」
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