第38話 伝わるよ、温かい
やたらとデカい湯船。
凝った彫刻は、オレから見てもかなり趣味が良い。
お湯の感じもサラサラしてちょうど良い。本当に微かなイオウのニオイも風情がある。
本格的な温泉だった。
「ふぅ~ 考えてみると、温泉なんて久しぶりだなぁ」
多分、前世で大学の歴史研究部の夏合宿で有馬温泉に行ったのが最後だったっけ。
あの時は貧乏旅行だったけど、楽しかったなぁ。男ばっかりで、朝から晩まで歴史の話ばっかりだった。
ヤロウばかりだし、泊まった旅館だって、古い建物だったけど確かに楽しかった。
同じ「温泉」なのに、ぜんぜん待遇が違って、今が天国な件……
ふぃ~っと身体を伸ばしたオレの背中を支えてくれる柔らかな身体。
メリッサは、その桜色を隠さないでくれるのは優しさゆえ。ぽよょんと揺れながらの真っ正面。
眼福。
やっぱり、ちょっと恥ずかしいみたい。それが良い。
へへへ。
「あら? ショウ様は、温泉をご存知でしたのですね?」
「うん。ずーっと前にね」
「良いものですね、温泉って」
左腕をムニュリと埋め込むようにメロディーがニッコリ。
「温泉の良さをご存知だったなんて、さすがショウ様です」
妻ではあるけど、改めて考えると極上の美少女なんだよね。前世ならタイーホ案件で、桃色成分だらけの温泉だ。
なにしろ、メリッサが「ミィルさんもご一緒していただかないと困ります」と優しい命令をしてくれたお陰だし。
まさに、エライことになってる。
お湯の中でも、やわらかな布でゆっくりとマッサージしてくれるミィルの甲斐甲斐しい動きが嬉しい。
え? タオルを持ちこむな?
いーんだよ。究極のプライベート温泉なんだから。
それにしても、目覚めた後は、みんなの存在に馴染むのなんてあっと言う間だった。
やっと頭が動いて「なんで、ここにいるの?」って、最初は驚いたんだよ?
三人が皇都から駆けつけてくれてたなんて。こんな遠くまで、大変だったはずなのに。
確かに、夢うつつで「なんでこの三人がいるんだろう」と思った気もするんだけど、悩むほど頭が動かなかったからね。
ただ、アテナを含めて、みんながいつも横にいてくれたことは何となく覚えてた。
関節が固まらないようにって交代でマッサージやストレッチをしてくれていて。
お陰で、だいぶ痩せたけど辛うじて身体は動いたんだ。
オレが2ヶ月以上も寝込んでいたのに、これだけ身体が動くのは驚異的らしい。
好都合なことに、ロースター総督の保養地として所有している山荘には温泉もあったんだ。(ベイクの機転で温泉のありそうな所を選んだって、後から聞きました)
だから、温泉三昧になるんだけど、もちろん、みんなが片時たりとも離れるはずがない。
うわぁ~
これが噂の温泉回ってヤツか。
オ、オレは品が良いから、いちいち、プルプルがあーだとか、ぼよょ~んが弾けてだとか、プルンと挟まれて~ なんてことは言わないよ。
ただ、控えめに言っても、天国だった。
自分の嫁だから何をしても喜んでもらえるし遠慮もしなくていい。むしろ、好き放題に振る舞った方が喜んでくれるのは、もう、とっくに分かっているからね。
しかも、改めて考えれば、ここにいない嫁も含めた全員が前世では見たこともないレベルの美少女なわけだ。
といっても、残念ながら、アッチはダメらしい。ピクリともしない。でも、心から好きな相手を抱きしめて、自由に柔らかい部分に浸れるのは、そういう気持ちがなくても嬉しいんだよ。
念のために本当に久し振りにステイタスを見たんだけど、こうなってた。
・・・・・・・・・・・
【ショウ・ライアン=エターナル】(NEW!)
サスティナブル帝国 初代皇帝(NEW!)
ゴールズ首領
オレンジ・ストラトス伯爵 長男 子爵位保持
※※※状態異常中※※※
各ステイタスは正常に働いていません
レベル 30(UP!)
SP 192(UP!)
MP 4472(UP!)
スキル SDGs レベル4(UP!)
【称号】
大陸統一を掲げし者(NEW!)
無自覚たらしの勇者・バットマン危機一髪
美女が集まる者(「美女よりどりみどり」から昇格)
色を好む英雄
若き軍略家
煽りの達人・奇跡の人
征服者・国を継ぐもの
社畜(NEW!)
★☆☆☆☆ ゴミをMPと引き換えにランダムで呼び寄せられる
★★☆☆☆ 見たことのあるゴミを指定して呼び寄せられる
★★★☆☆ 理屈として存在しうるゴミを指定して呼び寄せられる
★★★★☆ ゴミの素材の中から一部分だけを分離して取り寄せられる←今、ここ
★★★★★ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【特記事項】
状態異常中は各ステイタスが大幅に低下しています。
SP・MPは、徐々に回復するといいな?
・・・・・・・・・・・
スキルレベルが上がらないのはともかくとして「状態異常」表示かよ。しかも特記事項が、なにげに「上がると良いな?」ってな無責任な表示だ。
って言うか、何気に「社畜」ってなんだよ! オレって皇帝だよ? 会社で言えば社長だ。
社長が社畜ってどんだけあぶねー会社なんだよ。
『マジで、どうなってるの?』
ピコーン
お?
久し振りにシステムさんから、なんか来た。
「お久しぶりです」
挨拶からかよ! お久しぶりです。
「状態異常は管理側の責任ではございません。ひとえに、あなたが休まないのが悪いんです」
え? 休まないのが悪いって言っても、しょうがないじゃん。やんなきゃイケナイコトだらけだったんだし。仕事がありすぎるのが悪いんだよ!
ピコーン
「体と心を休めるのも、お仕事です」
オカンみたいなことを言うなぁあ!
ん? オカン?
白いモヤの底にずっといた時に思ったんだけど、前世のオレって「休め」と言われたことなんてなかった気がする。「そのままのオレ」だと、いっつも責められて、もっと、もっととみんなに要求された。母親も、ずっとそうだった。
オカンって、母親のことだよね? 母親か……
驚いたことに、ずっと夢の中では「勉強しろ」「もっと頑張れ」と言い続けていた「母親っぽい女の人の顔」が目の前にあったのに、今思い出そうとしたら、全く思い出せなかったんだ。
だって、オレの母親は……
そうだよ。オレの家族はこの世界にいる人達だ。
母さん。
いっつもオレの心配をしてくれる。そういえば、王立学園の野外演習から帰ってきたときに、母上が最初に掛けてくれた言葉は「怪我が無くてなによりでした」だった。
あのセリフの重さが今になって分かる。
勝っても負けてもいい、怪我無く戻ってくれたのが嬉しいって母上は伝えてくれたんだ。
オレが、どんな人間であっても、きっと「そのままのオレ」を認めてくれる母だ。
そうやって包んでくれる愛情が、オレを育ててくれたんだよね。
「愛か」
ふっと、言葉に出してしまったらしい。
みんながオレの顔を見てる。
思わず出ちゃった独り言で、ちょっと気まずくなったけど、でも、今なら言えるよ。
「愛してる メリッサ」
「ショウ様」
「愛してる メロディー」
「私も、真心を生涯お捧げいたします」
「愛してる ミィル」
「もったいないお言葉。でも、すっごく嬉しいです」
そして、オレの背中をいつも、そして今も物理的に支えてくれてるアテナ。
振り向くと、アテナは「ボクは、あの、えっと、あの、いっつも一緒で申し訳ないと言うか」と、こういう時はちゃんと狼狽えちゃうシャイな性格。
「いっつも背中を任せちゃうね、アテナ」
「あっ、愛してるよ、ショウ様」
あ~ 早く、ここを何とかして、みんなの所に帰るぞ!
「じゃあ、お風呂で元気も出たし! そろそろ上がろうか!」
ジャブ
「「「「ショウ様が立った!」」」」
え? あ、えっと、あのぉ~ 立ち上がっただけだからね?
えっと、みんな視線が、ちょっと下にあるみたいだけど、えっと、あくまでも立ち上がっただけだからね?
もちろん、その日は「ステイタス異常中」なので、静かに寝ました。
なお、みんなと一緒のベッドでみんなの匂いに包まれて、やさしい気持ちになって、グッスリと眠れたんだ。
翌朝。
お元気になってしまいました。だって男の子だもん。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
作者より
う~ん、温泉回を入れようという、なんたる先読みのサービス精神。
皇都に戻ったら、お風呂回をもう一回やらなきゃかなぁ。
ともあれ、少しだけ回復のショウ君です。
「イオウのニオイ」を入れたのは、分かる人には分かるネタですよね。この部分は解説不能ですが、あえて言えば、今回の「毒ガス作戦」を心理的に乗り越えた象徴となっています。
これで、10月に行われる占領地の夜会もキッチリできそうです。ちなみに、ショウ君が回復しない場合に備えて、メリッサとメロディが「皇后」としてスタンバろうと思っていました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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