第54話 目覚め

「痛みは?」

「いいえ。さすがに、違和感はありますけど」

「よかった。調子に乗り過ぎちゃってごめんね」


 そんな会話をしたのは「翌朝」のこと。


 昨夜はひどかったんだよ。


 まさかの、シュメルガーのレン、スコット家のベルという、両家のメイド頭さん達が「見届け人」だった。やっぱりミィルも混ざっていて、目配せしてくるから「なんだ?」と思ったら、並んでいるのは、なんと「モティーフィーヌ妃とハーモニアス妃」だ。つまりは義母だよ! (後で聞いたらシュメルガー家の乳母頭でもあるデュバリー夫人もいたらしい)


 あの時、よく、オレは立ち直ったよなぁ。……っていうか、ずっとギンギンだったけどさ。


 それにしたって、12人の女性に見守られながらって言うのはさすがに、ちょっと……


 こっちも、ムチャクチャ緊張しちゃったせいで、いつもよりも数段早かったんだよね。オレのせいじゃないからね! いつもは違うんだ!


 ともかく、見られながらだなんて、これがクセになったら…… まあ、今のところは大丈夫みたいだけど、とりあえず、無事。印の付いたシーツは、昨夜のウチにガーネット家へ運ばれたらしい


 すぐさま、シーツを取り替えて再開だ。そこでみんなが出て行ってくれたから、やっと本調子が出たってわけ。


 改めて「やっぱり年齢の差は大きい」って言うのを実感した。


 胸は決して小さくない。だけど大きさだけで言えば、バネッサと比べるべくもなく、メリッサとメロディーだってもっとある。でも、全体としてしっとりした感じを帯びた感触って言うのかなぁ。身体全体も、あまりにピタッとくる弾力を持っていて、それが柔らかさのハーモニーをベストで調和させてるんだよね。こんな感触は初めてだった。


 簡単に言えば、オレは「大人の女性の身体」に夢中になったってこと。気が付いたら止まらなくなってた。


「ミネルバ、愛してる」

「愛してます。ずっと、ずっと。あの日、シンでお話ししていただいた時から、お慕い申し上げておりました」

「ぁあああ、もう我慢できない。全部、いいね? 痛いときは言うんだよ!」

「はい。ショウ様!」


 さっき、痛い思いをしたばっかりのオンナの子にナニを言っちゃってるんだよとは思うんだけど、身体の奥からこみ上げる、ものすごく熱い何かが、全てをミネルバに注ぎ込めと命令していたんだよね。


 止まらない、止まらない、もう止まらない。


 物覚えの良いミネルバの身体は、あっと言う間にオレの行為に反応することを覚えて、三度目には気を飛ばしちゃうほどになって、五度目には本気で意識を失っちゃうほどだった。


 いつの間にかミィルがそばにいた。


 あ、オレに黙って部屋に入れるのは、メイドではミィルを始め5人もいない。それに、最近ではオレの身の回りはミィルが全部引き受けてるんだよね。


 優しい声と温かい手がオレの背中に当てられた。


「ショウ様、お待ちください。さすがに、今夜は、ここまででお願いします」

「あっ、ごめん、ヤリ過ぎた」


 謝ったけどミネルバの反応は無くなってる。ミィルが手早く顔と首回りの汗を拭って、髪を簡単に整えてる。


「ショウ様。大変申し訳ありませんが、本来ならこの後は私めがお慰めをいたしたいところですし、命じていただければ大変嬉しいことではあります。でも、さすがに今夜はこのままで、お控えいただければ都存じます」


 そりゃ、初夜から他の女をベッドに引っ張り込むのはさすがによろしくないよね。


「うん。このまま寝るね」

「さすが、ショウ様。ご理解を賜り、ありがとうございます」


 暖かなタオルでオレ達のドロドロを清めてくれてから、恭しく、ふわりと布団を掛けてくれた。


「明日からなら。いつでも用意しておきますね」


 嬉しそうに囁いて部屋を出て行ったんだ。


 もちろん、いつものように寝室の前にはメイド達から選び出された不寝番が二人いる。声をかければメイド達はなんでも対応してくれるよ。だけど、一番大事な役目は、万が一の侵入者があれば「騒ぐ」こと。


 よくあるアニメみたいに「護衛メイド」みたいなのは無理がある。彼女達は武芸なんて嗜んでないんだ。


 ただし、特訓は受けていて、それは「何かあったら声を上げる」・「気を失う前に音を立てる」そんな練習だ。


 不寝番メイド達の仕事は、それだけではない。夜勤の間は不定期で立つ位置を変えながら常にロープを一定のテンションで張っておくのも仕事だ。オレに呼ばれて、なんらかの対応をする場合は、決められた合図をしてから、壁のホルダーに引っ掛けておくようになっている。


 もしも、不意にロープのテンションが緩んだ場合は「非常事態」となってしまうのは、メイド達がなんらかの手段で「瞬殺」されたことを意味しているからだ。


 屋敷内に複数の賊が忍び込むのも難しいけど、彼女達は廊下から静かに侵入するのを難しくさせる「防犯装置」の一部なんだよね。


 すごく、悪い言い方をすれば「中の人を守るために、代わりに死ぬ係」って意味がある。まあ、あくまでも、ここまで賊が侵入できればの話だけど。

 

 とても、人道的とは言えない。でも、これがこの世界の現実でもあるし、ここまでしなかったら、いくらウチの邸とは言え、アテナが離れるはずないんだよ。


 ちなみに、夜通し警備している人達は、ゴールズのメンバーから代わりばんこをはじめとして、全部で100名はくだらない。


 それ以外に、即応体制で寝る人用の宿舎があって、そこには別に100人の兵士がいるんだ。


 センサーの類いがない以上、警備の質を上げるには、ひたすら人を投入するしかないからね。


 そんな風に大勢の人に支えられながら、オレはミィルのが出てしまった、年上の美女を抱えて眠るわけだ。


 初めての子にやり過ぎちゃったのは反省はしてる。


 でも、新しく妻となった美女が胸の中でコテンと可愛らしく頭を乗せてくる一夜は、格別なんだよね~


 目が覚めると、ミネルバは既に起きていた。と言ってもオレを起こさないように、ジッとしていたっぽい。


 頬を染めたミネルバが、美しかった。


「あ、あの……」


 モジモジ


「ん?」

「お印もありましたし、あの、誓って私は、あのぉ」


 恥ずかしそうに、ゴニョゴニョするから、何かと思ったら、昨日の「反応」が恥ずかしかったと言うか「初めて」を信じてもらえるか不安になったらしい。

 ミネルバによれば「女性がそうなるのは知っていたけれども、それは結婚してずいぶんと経ってからだと思っていた」と言うことだ。


「大丈夫。ウチでは、みんなそうだから。ウソじゃない。あとでメリッサに聞いてくれても良いよ」

「で、でも、あの! 本当に信じていただけるのでしょうか?」


 あたりまえじゃん、と新妻にキス。


「大丈夫だよ。心配しないで。何があってもなくっても、ちゃんとオレはわかるし。ちなみに、印が流れない場合にも備えてあったみたいだよ」

「え?」


 これはよくあることらしい。初めてで血が出ない女性というのは一定の割合で存在するんだ。だけど、一般常識としては「血が必ず出る」ことになっているんで、不幸なトラブルを避けるのが立会人の影の仕事。特に、年齢が上に行くにしたがって、そういうことが多くなるんだそうだ。


 この辺りの話はメリッサから聞かされてはいた。


 だからって言うわけじゃ無いけど、二人の「あの部分」を触って確かめていたのは、シュメルガー家のモティーフィーヌ妃だった。その時に、小さな袋を手に持っていたのは分かっていたよ。袋の中に入っているのは『血』だ。もちろん、オレを騙そうとする意図ではなくて「万が一用」ってことなんだと思う。


 それにしても「義母」に、あの部分を触れられてしまうのはさすがに、危ない感覚でゾクゾクしちゃうよね。あ~ ヘンな世界に目覚めたらどうするんだよ! 


 とまあ、そういう話を本人にするのは大人げないもんね。


「幸い、ちゃんと印もあったみたいだし。そもそもミネルバの反応を見れば、ウソかどうかくらい分かるさ。君を信じてるんで安心してよ」

「ありがとうございます。あの、で、でも恥ずかしいです……」

「いや、むしろ、初めての子を相手に、あんなにしちゃったオレがいけなよね。最近はよく言われるんだよ。キチクぅとか。でも、慣れてきたら、もっと大勢でするから、合間に休めるからね」

「あの、ひょっとして、昨日のではご満足をいただけなかったのでしょうか?」


 ミネルバの顔に「がびーん」と言う文字が見えるみたいだ。


「違う違う、違う。ミネルバには満足しているけど、まだまだできるよってだけの話なんだよ!」

「そ、そんな。殿方とのについて聞かされていた話はデタラメだったのでしょうか。たぶん、昨夜は4回以上は、そのぉ」


 どうやら5回目はあやふやみたいだね。うん、かわいー


「あ、えっと、ほら、他の男がどうかと言うよりも、ミネルバは、オレのことだけを見てくれれば良いわけだし」


 途端にミネルバは慌てた。


「申し訳ありません。おっしゃる通りです。他の話がどうであれ、夫のありのままを全て受け入れて尽くすのが妻の役目。出過ぎたことを申し上げました」

「あ、いーんだよー 正直、他のみんなも最近は驚いているみたいだから」

「最近?」

「ははは、ま、そのうち~」


 笑って誤魔化すしかないよね。


 この世界のお約束なので、オレが妻にどんなことを望んでも悪く言われることが無いことはありがたいよ。一晩に3人必要だとか言っちゃっても「さすがショウ様」って、口々に褒めてもらえるんだもん。


 実に「オレにとって優しい世界」だ。


 それで、改めて恥ずかしがるミネルバをもう一度、可愛がった後で、ベッドに運ばせた朝食を二人きりで食べた。


 束の間の新婚生活を味わったんだ。



・・・・・・・・・・・



「お帰りになるのを、お待ちしておりましたぞ」

 

 とうとうローディングに間に合わなかったブロック男爵が、一族の者達と領地へ戻ってくると、そこには巡回司教様が待ち構えていた。


 一同はすぐに礼拝の姿勢を取って、司教様との対話になった。


「面目ありません。領地に住まう者達のあれこれを面倒見ているウチに、出るのが遅くなってしまいました。おかげで、一族全員で天国へ召されることもできず。誠にお恥ずかしい次第です」

「ローディングは、チャンスではありますが、それが全てではございません。むしろ、日常からの信仰が一番大事なことですからね。決して恥じることはありませんよ」


 ブロック男爵は、巡回司教様の優しい眼差しと言葉に大いに感激したのである。


「ところで、責務を果たしていただくべく、神のお言葉を伝えに参りましたぞ」

「喜んで! ローディングに間に合わなかった我らでございます。司教様のお導きなくして、我らの魂にどうして安寧が訪れましょう。して、一体ナニをなせばよろしいのでしょうか?」

「少々、そちらの娘について伺いたい、いえ、神のお望みなさる奉仕活動をしてもらわねばならないのです」


 会話までは聞こえてなかったアーシュライラは、巡回司教様の優しいはずの目が、一瞬だけギラッと自分を見たのを知って、驚いたのであった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

 ブロック男爵一家はローディングが終了してしまったことを知り、途中で引き返してきました。全てを放り出す前に、領民達のことを考えて、いろいろな手配をしたから出るのが遅くなってしまったからです。領主としての人徳が一家の命を救ったと言えるのかも知れません。

 久しぶりに登場のアーシュライラちゃんは、敬虔なグレーヌ教徒です。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 

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