第25話 それぞれの競技会

 

 ほぅ~ と甘いため息を落とすメリッサ。

 はぅ~ と感動のため息を見せるメロディ

 なぜだかわからかないけど「尊い」と漏らしているのがミィルだ。


 それぞれがタイプの違う美少女ではあるが、目がハートマークなのは共通である。


 ここは戦略演習の実習室


 戦略研のトムとビリーとジョン、それにケントは、新歓キャンプ事件での貢献が認められて、それぞれが勲3等に相当する「青少年敢闘勲章」をもらった。ちなみにシュメルガー家の従兄、ノーヘル様も同じ勲章をもらった。あ~ あのイケメン先輩、ウチに来てくれないかなぁ。


 ただ、なぜかサムだけがあの時に見当たらなかったんだよ。だから表彰から漏れたのはちょっと可哀想だった。あの時どこにいたのか聞いてみたら「偶然、トイレにいて、ヤバそうだから戻りませんでした」という話だ。


 まあ、それはそれで正解だったよ。


 ただ、せっかくの勲章を受けるチャンスだったのにね、とは思った。


 そして、戦略研の勉強が実戦で役に立ったと学校が高く評価してくれたおかげで、学校が再開された日から、優先してこの教室を使わせてもらえることになったんだ。


 で、今何をしているのかというえば、四面将棋だ。


 オレを囲んだ前後左右の机。


 それぞれに盤面を置いて、誰か一手指したらクルンとそっちを向いて、こっちも指す。要するに机に囲まれた中でオレがクルクル回りながら4人と同時に将棋を指している。


 と言っても、それほど難しくないんだよ。特に序盤はコマ組みの「定石」というものがあるので、それに沿って指していけば良いので、ほぼノータイムだ。


「先生、ほら、そこで角道かくみちを開けてしまうと、はい、角交換からのぉ、で、もう一度ここに角を張って、と」

「ぐわぁあ、王手飛車であったか!」

「はい。きちんと囲わないと、ありがちなんです」

「おっと、トビー? 言っただろ。美濃囲いは飛車の横道に気を付けろって」

「わっ、金がタダで取られてしまう! しかも、これで守りがオワタ」


 と、まあ、まだみんなが素人に毛の生えた状態なので、ほとんど頭を使ってないわけ。そして、次々と「教えながら撃破」していくオレの動きを、美少女達が愛情を込めた表情で見つめてくれるんだ。


 へへへ。オレって褒められて伸びるタイプだからね。


 愛する女の子達の全面的な賛意が心地いー。


 と思ったら、今日はゲストが来ている。


 ミチル組のみなさんだ。メリッサたちと一緒に横で見ているんだけど、それぞれが「仲の良い」男の側に行っては、あれこれ世話を焼いたり、感想を言ったりしてる。


 どうやら、あの後、トビー達と仲良くなったらしい。


 ふふふ。春だねぇ。


 トビーはミルメェルとすっかり仲良しだし、ジョンにあれこれと感想をいってるのがチハクロル、そしてケントの側で覗き込むときのルミは何気に距離が近い。


『このまま六人が揃ってウチに来てくれると嬉しいんだけどな』


 もちろん、メリッサもメロディーも、ちゃんと。ミチル組のみなさんと和気藹々の雰囲気を作り出してるよ。さすがぁ。


 ただし、メリッサにお願いして、女子には実技に参加しないで見ているだけにしてもらった。なぜかと言えば「戦略演習は男の頭の良さを見せるべき科目」という面が強すぎるから、万が一、女の子に負けちゃうと立ち直れない可能性があるからだ。


 実際、男子は今までに学んできたことが逆に足を引っ張って、コマ組みが上手く行かないことが多いんだ。でも、女性は違う。ゼロから覚える分だけ素直にオレの言ったとおりにするんで、あっと言う間に強くなっちゃうんだよね。


 え? マジかって? マジだよ。だってメリッサとメロディーで試したもん。彼女達の地頭も良いんで、今、実際にやったら、彼女達に勝てる人はオレだけだよ。


 そうなんだ。んだよ。まあ、ケントが学園に入って初めてやった分だけ、3歩リードって感じ。


 あとは、以前のやり方が染み付いている分、なかなかクセが抜けなくて苦戦中だ。


 ね、カクナール先生!


 さすがに「男子しかやらない戦略演習で、女子に負ける」って事態は人間関係的にヤバいってことを、オレよりもむしろ二人が先に気付いてくれた。だから、女子は見学だけで「参加したい」とはにしてくれた。


 お~ なんて良くできたヨメなんだよ。


 頭も性格もついでに胸もすごい美少女ちゃん達が、全面的にオレの味方なんだもん。オレのモチベは高まるばかりでしょ?


 って思ったら、モチベが上がるのは、オレだけじゃないんだよね。


 やっぱりお年頃の男子だ。たとえ、オレの妻であっても「美少女がそこで見ていてくれる、同じ空間にいる」ってだけで、やる気が違うんだよ。


 しかも、今日はミチル組のみなさんがいる。


 もうね、マジで男の子の目の色が違ってるんだよ。とりあえず「今は仲の良いヤツら」に勝ってみせて、オレが仲良くなるんだと、みんな必死になってくれてる。


『これなら、女子にもっとたくさん来てもらうと、もっと盛り上がるかな?』


 チラッと妻達をみると、ニッコリ。あ、わかるんだ。


 そして、オレの気持ちをいち早く察してくれるのはいつだってミィルだよ。人一倍気を遣って、動いてくれてる。


 女子の皆さんに、積極的にお茶を入れて、お菓子まで出して上げてる。ふふふ。


 さっき、部屋で出して渡しておいたんだよ。


「出でよ、大人のきのこと大人のたけのこ!」


 びよょよ~ん。


 って、これだけ書いちゃうと、なんか「大人の」って付いたとたんにヤらしくない? オレがヘン?


 ともかく、持ってきたお菓子を女子の前に差し出すのはミィルのお仕事だ。


「なに、これ? こんなの食べたことない!」

「美味し-」

「すごい。これが高貴な方の召し上がるお菓子」


「いえ、私達も普段、こんなに美味しいお菓子は食べられません」

「ショウ様が真心を込めて、ご用意くださっていますから」


 先っちょにチョコのついたお菓子は、大絶賛だ。


「みなさま。ショウ様が明日は別のお菓子もご用意するとのこと。ぜひともお友達をお連れくださいね」


 ミィルがちゃんと、ダメ押しをしてくれてる。さっすがぁ。


 これで明日は、女子がもっと増えて、みんなのモチベーションもアップするといいなぁ。


 とにかく、大会まで2週間。基本は全部、叩き込むよ!


 

・・・・・・・・・・・


 王立学園には戦略演習を教える教師が二人いる。


 カクナール先生とニフダ先生だ。


 騎士爵の子どもである立場から、戦略演習の天才として何度も大会で優勝したニフダ先生は、誰にもナイショでゴンドラ殿下の部屋に通っていたのだ。


 ナイショであるとは言え、立場もあるため、名目は「特別講習」となっている。王族という立場に配慮して、他の人間とは分けて教えることがあるのは珍しいことではない。


 平等を謳っていても、王族や高位貴族に配慮をしないと、逆に何かと不便なのだ。


 あと2週間で大会である。何とかしなくてはならない。ニフダのスポンサーでもあるトライドン家からも、キツく命じられていた。


 王子は優勝する必要は無いが、1回戦負けなどしようものなら、王位継承の資格を疑われるレベルになってしまう。

 

 それだけに、特訓は必死だった。ニフダとしては、だったが……


「王子、違います。私が鼻を触ったときは香車きょうしゃです」

「お前はさっき、これだと言っただろう!」


 ニフダは、心の中でため息を吐きながらも辛抱強い態度を崩さない。去年、仕込んだサインは綺麗さっぱりと忘れてしまっているらしい。


『それ以前の問題として、幼い頃から嗜んでいるはずなのにコマの名前もうろ覚えなのはなぜなのだ? 貴族なら3歳から当たり前に家庭教師がつくはずだぞ?』


 幼い頃から「戦略演習の天才」「ニフダの前に敵駒無し」と人々に恐れられただけに、ここまで何もできない王子が、いっそアホにしか見えてこない。


 だが、それを言っちゃぁ、お終いである。


 ニフダは、騎士爵の三代目の身だ。何もなければ、自分の子どもは平民となってしまう。なんとかしなくてはと、持ち前の「戦略演習」の才能を生かして、ようやく王立学園の講師の職を得た苦労人である。このまま十年務めれば騎士爵の安堵が約束されている。


 それだけに、王子の不興を買うことだけは避けたかった。


「恐れながら申し上げます。殿下がお持ちのコマは「ヒシャ」と申します。キョウシャは、この両サイドの隅にある、これとこれでございます」

「似た模様なのがいけないのだ! もっとハッキリと分かるようにしておけ」

「申し訳ありません」


 さすがに、コマの模様文字はニフダのせいではないが、王子が癇癪を起こすよりは謝ってしまった方が精神的に楽だ。心にもないお詫びをするくらい「高貴なる者」と接する時には、あたりまえのことだった。


「殿下、あと2週間でコマは覚えていただくのは必ずとして、他のサインも覚えていただく必要ございます。基本の確認でございますが、右手で触っているときの指の数が列番号、その後で左手の指の数が段の番号であるのはよろしいですね?」


 盤面には9列9段の数字がある。駒の種類と数字のサインがわかれば、次に何をどう動かすか教えることができるのだ。


「あぁあ、面倒なことだが。おぼえてやったぞ」


 胸を張るゴンドラである。


「その際、右手が表で触れば5まで。裏で触ったら6からの数字と言うこともよろしいですね」

「あああ、一々言われんでも、わかっておる」

「殿下、申し訳ないですが確認が必要なのです。これだと7になるということはよろしいですかな?」


 手首を返して掌を見せるようにして指2本を見せつけている。どのみち覚えてないだろうから、試そうとせず「よろしいですか」と確認のセリフで、何回も刷り込んでいくしかなかった。


「何度も言うな! わかってる! その程度ことを間違えるわけなかろう。私をバカにしているのか!」

「めっそうもございません。しかしながら、高貴なる御方には、基本的なことを何度も確認するようにと、くれぐれも申しつけられておりますので」


 要するに、競技会直前にやっている「特別補習」とは、横で見ているニフダが指すべき手を横からサインで教えるというカンニングの練習であった。


 しかし、そのサインを覚えてくれないと話にならないのだ。去年も全く同じことをやっているというのに、なんたることだ。


「ともかく、サインさえ覚えていただければ、3回戦までは絶対に進めますので」

「わかっておる。私がまともにやって優勝してしまうと下々の活躍する場を奪ってしまうことになるからな。お前は適度にのが役割なのだ。そこを勘違いしないように」

「承知いたしております」

「ところで、まだやるのか?」

「恐れながら、あと二つほど、いえ、あと三つだけでも本日中になんとか」

「仕方ないな。ハイティーまでには終わらせるぞ。その後は、ちょっと用事があるからな」


 さっき、専属メイドがシャワーをしにいったのをニフダはちゃんとわかっている。ため息を吐いてはならないと、自分に言い聞かせて「かしこまりました」と頭をさげてみせる。


 この後でつもりなのだろう。若さゆえのことだ。それを非難するつもりはない。しかも、公爵家の令嬢達が「盗られて」しまったのが発覚して以来、この手の衝動が激しくなったのも、いくらかは同情もしていた。


『ともかく、この衝動が他の貴族の子女に向けられてしまえば、どうにもならないからな』


 ゴンドラ殿下が、どこかの貴族の娘に手を出したら、いきなり、お家騒動が勃発するのは必定。トライドン家のライザー侯爵からも直々に「専属メイドに向けられている限り、尊重するように」と言われていた。


 いたしかたない。いや、むしろそうしてくれ。他の生徒に衝動が向かえば「愛人にするのだ」と騒ぎかねないのだから。


『しかし、当日までに、本当に覚えきれるんだろうか?』


 基本的なコマの動かし方すらおぼつかない王子に一から仕込むよりも、こうしてサインを覚えさせた方がマシというものだろう。将棋の場合、取ったコマを自分のコマとして使うことができるため、覚えるべきサインは多いのだ。


 あと2週間。


 不安ばかりが高まるニフダであった。



・・・・・・・・・・・


 ゲヘルは、カルビン侯爵家から派遣された事務官に胡乱げな視線を向けながら、確認をした。


「ふむ。対戦相手は1回戦が1年生の王都の商人の息子。2回戦は誰が出てきても下位貴族の息子か。手配済みなんだろうな?」


 名誉校長という立場なら、戦略演習の組み合わせくらいは簡単にいじれる。


 高位貴族家の子弟の相手は、基本的に1回戦が平民になっているのも、戦略演習を習って、まだひと月ちょっとだからだ。王子は3歳から家庭教師が付いているのだ。さすがにそのレベルには負けないだろう。


 だから2回戦に「下級貴族の息子」があたるようになっているのが、この組み合わせのキモだ。


 ここさえなんとかすれば、良いってこと。


 事務官は、改めて説明する。


「はい。1回戦の相手は平民です。戦略演習は学園に入って初めて覚えたのが確実とのこと。そちらはさすがに心配は必要ないかと。2回戦は全員が騎士爵、準男爵の家ですのでをつけてあります。誰が出てくるにしても、カルビン家の威光はよく理解してもらえておりますので、今ごろ親子で落ち度のないようにちゃんと負けろと話し合っているはずです」

「よかろう。さすがカルビン家はよくやってくれるな。それで3回戦は、どうなっておる」

「申し訳ないのですが3回戦は下手に手を出さないようにと、当主のフレデリックから、申しつけられております」

「なんでだ?」

「3回戦は、王国の麒麟児です。もしも下手なことをすると不自然かと。むしろ、そこでゲヘル様の度量をお示しくださいますように、とのことです」

「ふむ。私が負けるのは前提か」


 面白く無さそうだ。


「誓って、そのようなことは。しかしながら、カーマイン子爵は戦略演習の授業で天才的な冴えを見せたとのこと。下手なことをするとやぶ蛇ですから。それに3回戦まで届けば、誰からも軽んじられませんので。どうぞ、そこで」

「ふん。話に乗ってやるのも面白くはないが、くだらないお遊びにこれ以上時間を取るのも面倒だな。わかった。せいぜい、3回戦は善戦して負けた形で、そのあとで『さすが今代の英雄であるな』とでも褒めておけば良いと言うことであるな?」

「御意」


 恭しく頭を下げる事務官である。


「それにしても、そろそろ、今の専属にも飽きてきたぞ。そちの家から、また良い娘がいたら頼むと、伝えておけ」

「承りましてございます」


 今の専属メイドだって、まだ3日しか経ってないだろう、と言う言葉をニオイすら感じさせずに飲み込める事務官はさすがである。


 それに、侯爵も「まだ若い身だ。婚約者になるはずの美女をかすめ取られたのだ。少しは発散したくなるだろう。別の騒動が起きぬよう、飽きるほどにあてがっておけ」という指示を出してもいるのだ。


 事務官は、淡々と処理するのみであった。


 それぞれの2週間は、あっという間に過ぎていったのである。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

 王子達は、それぞれのアプローチの仕方で、みっともない負けを回避しようとしています。王族にとっては結果が全て…… かな?


 ゲヘル君とゴンドラ君にとっては、NTR、あるいはBSSですよね。そりゃあ、やり場の無い怒りが爆発しちゃいますw


 将棋にはいくつかの「禁じ手」があります。特に有名なのが「二歩にふ」といいまして、同じ列に歩を二つ置くと、即座に負け。そんな基本的ミスをするわけがないと思うかも知れませんが、プロでもたまに「二歩だ!」で負けてます!



みなさま★★★評価へのご協力に、とっても感謝しています。

お手を煩わせていただいたおかげで、順位アップできると

作者のやる気は爆上がりです! 本当にありがとうございます。


今が異世界ファンタジーカテで52位。できれば、50位以内に入りた~いです!

と言う野望を持っております。

応援してくださるみなさまに作者は大感激しております。

評価って言うか「応援」のつもりで★★★をお願いします。

新川とショウ君は褒められて伸びる子です。

よろしくお願いします。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 


 




 

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