第20話 BSS WSS


 我が名はミガッテ。


 偉大なるサスティナブル王国、モロヘイヤ領主であるロウヒー侯爵家の長男だ。


 現在、王太子に一番近いと言われるゴンドラ第三王子殿下の側近でもあるから、ロウヒー家の後継ぎと決まったようなもの。


 順風満帆の人生が約束されてたはずだった。


 突然だけどBSS。 ボクが先に好きだったのにに萎える。


 なんでこうなるんだよ。


 そもそもの始まりは、5歳の時だ。


 連れて行ってもらった高位貴族が集まる非公式パーティー。貴族の場合、初参加5歳から男女は別行動。(子どもを見てくれる専門のメイド達がそれぞれ大勢付いている)


 でも、最初の「ご挨拶」の時だけはお互いの家族が勢揃いしているんだ。そこで何度も会ったのが公爵家ご令嬢のメロディアスちゃんだった。


 見かけるたびに「良いな」「可愛い」って思ってた。あの黒髪を思い出すたびに胸がドキドキしてた。


 初恋だった。


 長い黒髪に、ちょっとミステリアスな黒い瞳と整った顔立ち。それにこの一年で、胸元がものすごく膨らんだ、は、オレの好み100パーセントなんだ。誰にも文句なんて言わせない。


 本格的な恋人になるのは学園からでも良いが、とりあえずはデビュタントのパートナー役を狙った。入学前にマウントをとっておけば、侯爵家のオレに挑戦してくるやつなんて出るわけがないからな。


 なにかと高い宝石を取り寄せたし、領地から送らせた恋を実らせるという評判の特別な工芸品木彫りの熊を何度もプレゼントしてきたのも、そのためだ。


 でも、返ってくるのは家令からの礼状ばかりで手応えなし。


 エスコートのOKをもらうどころか、本人から「一度、お会いしたいです」の言葉も届かなかった。焦るばかり。そりゃ、声をかければ分家の子がいくらでも見つかるし、実際「売り込み」も多いらしい。でも、侯爵家の息子が分家の娘をエスコートってのじゃ、さすがにカッコ悪すぎる。まあ、貧乏男爵家みたいに、姉とか母!をエスコートってのじゃないのは、まだマシだけど。


 そんなのと比べても仕方ない。高位貴族には、高位貴族としてのプライドというものがあるからね。


 ただ、困っているのは家族が聞いてきた「貴族の間でのウワサ」だ。


「ゲール第一王子殿下がメロディアス様と婚約する可能性が高い」

「ゲヘル第二王子殿下もメロディアス様狙い。メリディアーニ様にも興味を示す」

「ゴンドラ第三王子殿下もメロディアス様にご執心だがメリディアーニ様もあわよくばのカタチ」


 このウワサについては父も母も聞いてきたから、かなり確実だ。


「ヤバい、王子と競うのはさすがに不味い」


 普通はそう考えるじゃん?


 でも、そこでさらに入って来たウワサがオレを勇気づけたんだ。


「ゲール殿下は女に興味なし。婚約も断固拒否の姿勢」

「ゲヘル殿下は、御三家から避けられている」


 ここまできたら、後はオレの腕次第だ。ゴンドラ殿下の腹心になるのはパパからも言われたこと。実に好都合。


 殿下も腹心が欲しかったところらしい。魚心あれば水心ってやつだ。


 あとは、ことあるごとに山のようなお追従をペラペラ喋って、合間に「やはり筆頭公爵家の娘こそが将来の王となる殿下に相応しいかと」がオレのオハコとなった。


 それはさておき、デビュタントのエスコートには困った。最悪、分家の娘でも良いけど、侯爵家の跡取りとして、みっともない。だが、メロディアス様と会える見込みすら立ってない。


 最後の最後で夢よりも現実を取るべきだと判断するのはオレが優れた貴族である証拠だ。えへん。


 ま、王立学園に入ってから距離を縮めれば良いもんね。


「パパ、誰か見た目が良い子っていない? オレがエスコートするのにふさわしいような綺麗な子。ただ、分家スジいとこたちじゃない方がいいんだけど」


 いないよりはマシだと言っても、さすがに親戚だと恥ずかしいから、パパの顔で探してもらう。侯爵家の権威なら、いくらでもいるはずだ。

 

 パパに頼んだら、ロウヒー家の「子」に連なってるハーバル家の娘をエスコート役に選んでくれた。美人で頭が良いらしい。入学以来、座学では王立学園のトップを独走してるんだって。

 

 多少可愛くても理屈を言う女だったら嫌だなぁ。もうちょっと良い子いなかったのと、会う前は思ったんだよ。


「よろしくお願いします。ミガッテ様」

「よろしく頼む」


 マジで可愛かった。


 青い瞳、青い髪も目立つし、これだけの美貌なら連れて歩いたら、とても目立つはずだ。ただし、胸も尻もペッタンコのガリガリ体型だった。


 これには腹が立った。肌は綺麗だけど、俺好みのボヨンは、まったくない。一瞬突き放そうかと考えたが、見た目は悪くなかった。


『ドレスには色々と詰め物ができるので、見た目くらいは誤魔化せるだろう』


 一つ年上だ。


 思っていたよりもニビリティアは控えめな性格だった。成績優秀だと言っても、自己主張するタイプじゃ無かったのでホッとしたよ。あれこれ文句も言わず、何かと言うとオレの考えることを先読みして従ってきたし、オレの意向をいち早くつかみ取ってる。これは、なかなか使える女だ。


 ハーバル家は子爵だから、オレの相手として家格は低い。


『じゃ、メロディアス様を正妻にして、こいつを側室にするのもありかもな。もうちょっと胸と尻があれば側妃も考えてやるんだが』


 そんなことをラストワルツを踊るまでには考えていたよ。なにしろ、せっかくヒップホールドをして尻を触っても、詰め物の感触しか無いのは萎えるw


 とは言え、ダンスの間、あっちこちから羨望の眼差しを集めていたのは事実だ。


 見た目は最高だな。メロディアス様のようなミステリアスな美貌じゃあないけど、連れて歩くだけなら最高のアクセントになるのはわかったんだ。


 だから、帰りの馬車の中で言ってやった。


「来年、卒業だろう? オレの側室にしやろう。王都に邸も建ててやるぞ」

「ありがとうございます。身に余る光栄です。ただ、正規の結婚であればロウヒー家のご当主様にお任せいたしておりますが、側室となると、いったん父に相談しなければならないので、お時間をいただくことになるかと存じます」


 ハーバル家の領地は西の外れだ。遠隔地の「子」貴族の場合、王都での子女の結婚は「親」貴族の当主に委任されるのはよくあることだ。(隣地とのやりとりは自分達で行っている)


「ならば、側妃でよい。それならお館様の一存で決められるからな」

「そうでございますね。とても光栄でございます」

 

 馬車の中でも言葉は丁寧だけど、今ひとつ盛り上がりに欠けた感じはあった。なんか、イマイチとか思ってないか? このガリ女め。


 見た目だけは良いんだから、アクセサリー代わりに置いてやろうと思ってるのに。


 とはいえ、こういう場合は、あっちの意向は関係ない。

 

 早速、家に帰ってパパに言ったんだ。


「さすがお館様です。今日、ご紹介いただいた子は、とても可愛かったです。側妃か側室にしたいのですが」

「ミガッテ、今日の事件は知っているな?」

「えっと、色々とありましたけど……」

「その色々が原因で、面倒なことになりそうだ。しばらくの間、ニビリティアには手を出すでないぞ。良いな?」

「はぁ」


 しばらくしてからわかったのは、ニビリティアはゲール第一王子の婚約者候補になったと言うこと。


 え? なんで? オレの側妃は? 胸は無いけど、あの美貌だよ? 


 あ…… 全部あいつが悪いのか。伯爵家の倅のくせに!


 メロディアス様ともセカンドダンスを踊ったし、あまつさえ、御三家の令嬢を独り占めだと!


 ありえん!


 ワンチャン。王立学園新歓キャンプで、何とか仲良くなろうとしたのに、ことごとく邪魔された上に、ヤツのトリックに引っかかって、危うく死にかけた。そのくせ、ヤツはオレを助けたとかいってヒーローぶりやがって。


 だけど、どんな卑怯な手を使われたにしても、憎んでいたライバルに助けられたのは、さすがにオレの失敗だ。


 しばらく部屋から出られなかった。パパに言われても、話せなかったし。オレにできるのは、専属メイドとずっとベッドに籠もるだけだ。


 そして、一週間。


 ムリヤリ褒賞の儀に連れて行かれた。


 そこで見たのは、メロディアス様が既にヤツとという事実と、ニビリティアが目の前でヤツの側妃となった現実だった。


 それにしても、結婚していただと? ってことは、メロディアス様は、ヤツと夜を共にしていことになる。


 うわぁああああ!


 しかも、あの美少女ニビリティアもヤツのもの。


 オレの方が先に会っているのに、なんでだよ。


 立ちなおれない……


 

・・・・・・・・・・・



 ニアのハーバル家は西の外れだ。


 東京に置き換えると檜原村か五日市。実際の距離だと稚内から間に長野を通って鹿児島って感じだよ。西部小領主地帯の手前には無人に近い広い乾燥地帯と山脈もあるんで早馬の使者で三ヶ月弱という感じ。


 領地は、うちの数十倍の広さに、人口が半分よりもかなり少ない。深い森が広がっている分、獣皮や牧畜が特産だけど経済的には厳しい。


 だから王都の邸も最小限になってる。前世の感覚を持ち出すと「巨大マンション」だけど、子爵家の王都邸としては、つましいんだ。


 オレは、昨日に引き続いて、そこに行ってニアを連れだした。今日のニアは、青い髪がふわりと風に舞って一段と知的な美しさがすばらしい。


 思わず「可愛いね」っていたら、真っ赤になって照れられた。


 その照れた顔が本当に可愛らしいんだ。あのホンワリとしてそれでいて、知的な顔はどこに行ってしまったのだろう?


「イジワルです。ショウ様」


 ツンとオレの二の腕を突いてくる。


「その指の感じも可愛い」

「あぁん、もう! 褒めすぎです! 私、着くまでに溶けちゃいます。ホントにぃ。ショウ様がこんなに女心を操るのがお上手だなんて、存じ上げませんでした」


 ニアちゃん、ヤバい。頬をちょっと膨れさせる顔まで可愛いんだもん。


 さすがが入学するまで「王立学園のナンバーワン美少女」の名をほしいままにしているだけはある。


「いや、メリッサ達に、思ったことはどんどん言葉にしてもらえると嬉しいって言われてるんだ。だから、全部ホントに思ったことだよ。ニアは本当に可愛いなぁ」

「まっ、まっ、まっ、もう~ ちょっと 油断すると。本気で私を溶かしに来るんですから~ もう! 褒めるの禁止です」

「褒めるって言うか、普通に、思ったことをいってるだけなので」

「ぁあ! もう! 昨日くださったシャンプーとコンディショナーと言い、ホントに女心をとろけさせるのがお上手なんですからぁ」


 そんな風に、真っ赤になったニアちゃんとイチャイチャしながら、馬車で我が家に連れてきた。もちろん、我が家の騎士団が警備してくれる。


 なんか、囲んでくれる騎士団のみなさんが、嬉しそうだ。何でだかはわからないけど、ともかく嬉しいなら良いか。


(後で聞いたら、御三家全ての騎士団から敬意を払われる人物が主人なので、王都の騎士団同士で話をすると無茶苦茶羨ましがられているらしい)


 連れてきたのはオレだけど「主催」したのは、メリッサだ。


 さっき、メリッサが突然やってきたんだ。


 護衛の隊長が、何気に見たことあるなと思ったらトヴェルクさんだ。


 ビックリだよ!


 だって王都内の移動だけの護衛任務なら、若手を一ダースもつけてベテラン小隊長が付く程度のはず。それを騎士団長自らって、何事?


 しかも会ったそうそう、片膝を突かれてしまった。


「お久しぶりです。今日は、いったい? って言うか、それ、止めてください」

「ご光臨をお願いするためです」


 あ、そう言えば、上申書を出したって。さすがに、ドタバタしていたから公爵家への訪問なんてできなかったよ。


「今後は気軽に行かれるので、なるべく早めに行こう」

「できれば、ご予定を教えていただけると、お迎えに上がります」

「わかった。メリッサを通じて伝える」

「ありがたく」

「では、下がってよろしい」

「はっ」

 

 ちょっと偉そうな感じになるのは仕方ないんだよ。一応、オレは「子爵本人」として振る舞わなきゃならない。騎士団長と言えどもオレの方が上になる。ま、オレとしちゃ、どーでもいいんだけど、いろいろな動作や言葉を身分の関係に応じて使い分けるのは必要だからね。


「メリッサ、今日はどうしたの?」

「申し訳ありません。突然訪問させていただきました」

「いや、別に構わないけどさ」


 うん、問題はない。ただ突然だったから、バネッサが大慌てで湯浴み中だ。隠す必要は無いけど、やっぱり恥ずかしいらしい。


 ちなみに妻や側妃が一緒に住んでない場合、お互いの家は「実家扱い」になるので先触れはいらないのが原則。側室ができた場合は、オレが行く場合はいきなりでもいいんだけど、相手がウチに来る場合は先触れが必要らしい。


 ただし、できる限り第一夫人に挨拶するのがマナーというのも側室の立場の特殊性だ。


 メリッサは、ニッコリして「ショウ様のお部屋で、第1回嫁会議を開こうと思います」と言い切った。


「ヨ メ カ イ ギ ?」

 

 メリッサがサラリと言えば、オレに反対の余地はない。そして「国王陛下が認めた第一夫人」である以上、他の女性達は従うしか無いわけだ。


 急なことだけに集まるのも大変そうって思ったら、みんな無茶苦茶楽しそうだよ。


 そして、最後にオレが連れてきたのがニアちゃんだったわけだ。


 こうして、部屋に揃った女の子達の美少女偏差値がハンパない。

 

 メリッサにメロディー。バネッサは、ニコニコとして「お誕生席」へ座らせたニアにお茶を入れてあげてる。


 ミィルは、テーブルにお菓子を並べていた。

 

 マジで、この子達って全員オレのヨメなんだよなぁ~


 え? なんで?


 妹のクリスがシレッと入ってる。確かに、褒賞の儀を見たいと王都に急行してきたから、この家にいるのは問題ないとわかるけど。


「あのぉ、だけど、なぜに、ここに?」


 会議だよね?


 メリッサは嬉しそうに笑って答えた。


「ショウ様、いいんですよ。私がお願いしたのですから」

「はい! 私も仲間に入れていただいたんです、へへへ~ ありがとうございます、メリッサ様!」


 ソーデスカ


「ご安心を。今日の一番の目的はニア様を仲間にお迎えして、みんなでショウ様の素敵なところを分かち合うことです!」


 パチパチパチパチ


 そう言ったあと、オレが追い出されてしまった。なんでそうなるの? まあ、オレの話を目の前でされても、いたたまれないかもしれないけど。


 閉ざされたドアを見て、茫然としていたらカチャっとドアが小さく開いて、つつつーとメリッサが出てきた。


「あのぉ、メリッサ?」

「ご心配なく。さっき申し上げたとおり、ショウ様の素敵なところをニア様と分かち合うのが目的ですので。ただ、本日は急な集まりでしたので、みなさまへのご褒美と、お待ちいただくショウ様へのお詫びとして」


 チュッと頬にキスしながら、メリッサが囁いてきた。


「寝室でお待ちくださいね。間隔を空けて、交代で参りますから。そこで、ショウ様からみなさまへのをお願いします」

「え?」

「もちろん、ショウ様へのでもありますから」


 小さくウィンク。


「来た子に、お好きなようになさってくださいね、ニアも行きますから。あ、でも、、シーツにお印が付くのは、今回だけご自重くださいますよう」


 ええええ!


「では、後ほど。ごきげんよう、ショウ様」


 反対の頬にキスして風のように離れていったメリッサ。


 ドキドキ、ワクワク。


 どうしたらいいんだよ? 何を? どこまで?


 頭の中でメリッサが「どこまでも、何でも、お好きなようになさってくださいね」って小悪魔の顔をして囁くのが確かに聞こえたんだ。


 よ、よし。なんか、すごいことになってきたぞ。


 オレはやるぜ、オレはやるぜ!


 と吠えたい気分になったオレは、ふっと思い出して、心の中のメリッサに聞いてたんだ。


 ね? まさかクリスは、来ないよね?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

作品タイトルの「BSS」は「先に好きだったのに」で

「WSS」は、その女性版。

先に好きだったのに」は、けっこう意味が変わっちゃっています。女性の方が共感性が高いため、シェア感覚が上手くいくのかも知れません。お互いの「オシ」を分かち合う感じみたいです。

WSSは、幸せを分かち合います。


実は、もう指摘されちゃってるんですけど、高位貴族の本家の娘で婚約、結婚をしてないのは、メロディーの妹・リズムと、あと二人だけなんです。その二人とも、ショウ君の妹です。


メリッサとメロディーは、そのあたりのことも父親達と綿密に打ち合わせしているみたいです。


みなさま★★★評価へのご協力に、とっても感謝しています。

本当にありがとうございます。

お手を煩わせていただいたおかげで、順位アップできると

作者のやる気は爆上がりです!

応援してくださるみなさまに作者は大感激しております。

評価って言うか応援のつもりで★★★をお願いします。

褒められて伸びる子です。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 


  



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